第13話 俺達の戦い~これから……ですか?~
神の使徒【ゴーレム使い】。
その非常識な能力に、アディ・アーレイトは感嘆の声を漏らした。
「さすがは神の御使い様。異空間に、マシンゴーレムを収納なんて……。まるで200年前に君臨した、『時空魔王』の【次元収納魔法】みたいですわね」
「そんな強そうな名前の奴がいたのか? 過去形ってことは、もうこの世にいないんだよな?」
アディに確認を取る安川賢紀。
自由神の使徒【ゴーレム使い】は、割とビビリなのである。
「時空魔王は、『世界の壁を超える術』を研究していたといわれています。『術を完成させて、他の世界へ旅立った』という説と、『術は完成せず、この世界で寿命を迎えた』という説が伝わっていますわ」
「『世界の壁を超える術』だと? 何だ? そのヤバそうな術は? まさか、地球への侵略とかしてないだろうな?」
賢紀は一抹の不安を覚えたが、「200年も前のことなら、大丈夫だったんだろう」と結論付けた。
「マシンゴーレムとかの大物は、俺が格納する。2人は小物を集めといてくれ。死体からは、回収しなくていいぞ。俺が一旦、死体ごと収納するからな」
淡々と指示を下し、回収作業をしているように見える【ゴーレム使い】。
しかし頭の中では妄想を膨らませ、マッドサイエンティストじみた心の哄笑を上げていた。
(マシンゴーレム本体やパーツがこれだけあれば、色々と機体を改造したり、武器を試作したりできるな。……いや。いちからオリジナルのマシンゴーレムを、開発することだって出来る! ふっふっふっ……楽しみだ! クハハハハ……!)
そんな妄想はおくびにも出さず、賢紀は次々と格納庫内の戦利品を収納していくのだった。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
賢紀達は、様々な物資を回収することができた。
エマルツ・トーターの指揮官機を含めた、マシンゴーレムGR-1〈リースリッター〉7機。
予備のパーツ、工具。
歩兵が身に着けていた、剣や鎧等の装備。
食料、飲み水。
金庫もあったが、鍵がかかっていた。
「私に任せて。……てりゃ!」
エリーゼ・エクシーズは、背中の長剣で金庫のフタをぶった斬った。
魔力を纏わせる魔導の刃も使わずに、通常の剣で軽々と一閃。
こんな凄腕のエリーゼが貫けなかったのだから、マシンゴーレムの装甲は本当に硬い。
実は金庫に入っていた現金については、他に取り出す方法があった。
賢紀の【ファクトリー】に一旦収納して、中身だけ取り出すという裏技が可能なのだ。
だがエリーゼの機嫌を損ねないよう、彼は黙っておくことに決めた。
まだまだ【ファクトリー】の容量には余裕があったので、賢紀は基地内の建物や防壁の土砂まで格納していく。
素材レベルにまで、解体して使うも良し。
夜営の時に、建物を丸ごと出して使うも良しだ。
リースディア帝国兵達の死体は、更地と化した基地の中央に並べて安置した。
森で回収したユリウスの死体も、こっそり混ぜておく。
これでユリウスが隠れ集落方面へ偵察に出ていたことは、誰にも知られることはない。
再び残党狩り部隊が隠れ集落に来るまで、かなりの時間稼ぎになるはずだ。
「エマルツ・トーターは、死んだのですね……」
アディは感慨深げに、エマルツの亡骸に向かって呟いた。
賢紀が初めて目にするエマルツは、30代半ば。
コールマン髭を生やした、凛々しい顔立ちの男だった。
「彼はとても強く、誇り高い男でした。わざわざマシンゴーレムを降りて、わたくしに戦いを挑んできたのです。他の帝国兵達が加勢に来たので、投降しました。ですがあのまま1対1で戦い続けても、わたくしは負けていたでしょうね」
敵ではあったが強く、正々堂々としていたエマルツ。
アディは彼に、敬意を抱いていた。
その気持ちは賢紀にも、少し理解できる。
「彼はわたくしを、帝国に引き入れたかったようです。しかし逆にわたくしは、彼がルータス王国騎士団にきて欲しいと思っていました。無理な話だとは、分かっていますが……」
「敵だが、尊敬できる男だったな。……彼の装備品を剥ぎ取るのは、少々後ろめたい。やめておくか?」
賢紀の提案に、アディが頷いた。
「ええ。いくらわたくし達には物資が足りていないとはいえ、これ以上死人に鞭打つような真似はしたくありません」
エマルツは質の良さそうな短剣を、腰に着けていた。
エリーゼがその短剣を少しだけ抜いて、刀身を確認する。
「でも、いいの? この短剣、ミスリル合金製のヤツよ? かなり貴重で、強力な代物よ?」
「……エマルツ・トーター。貴方とわたくしは、死闘を演じた仲。まさに強敵と書いて、『とも』と呼べる間柄。貴方の形見、わたくしが使わせていただきますわ! 貴方のことを、忘れないように!」
エリーゼの話を聞いて、アディはコロっと態度を変える。
「アディ。いい場面だったのに、色々と台無しよ……」
そう言いつつもエマルツの腰から、容赦なく短剣を剥ぎ取るエリーゼだった。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
「これからどうなさいますか? いちどランボルト様達のところへ、お戻りになりますか?」
「いや。俺とエリーゼはこのまま南下して、ドワーフの国イーグニース共和国を目指す」
隠れ集落での作戦会議で、皆と相談して決めていたことだ。
今から賢紀とエリーゼは、ランボルト達から独立して帝国を引っ掻き回すために暗躍する。
ルータス王国の首都、エランを奪回するための戦力も掻き集めなければならない。
そのためには、他国の協力が不可欠だ。
ドワーフの国イーグニースは、エリーゼの母イレッサの故郷でもある。
コネがあるらしく、協力を取り付けられる可能性は高い。
「わたくしも、お供させていただきます」
「アディが来てくれると、助かるわ」
エリーゼにそう言われて、アディは満面の笑みを浮かべた。
「アディ、うれしそうだな」
「もちろんですわ、ケンキ様。もう会えないかと思っていた姫様と、一緒に旅ができるのですから。牢の中で、何度思ったことか。姫様の安否を確かめたい、わたくしの無事をお伝えしたいと……。連絡したくてもできない状況というのは、本当に辛いものですね」
アディの言葉で、賢紀は気づいてしまった。
自分がこの世界に召喚された日、山葉季子からフラれたものとばかり思っていた。
だが連絡したくても、できない可能性はあったのではないかと。
スマホの故障、紛失、病気や怪我。
そういった事態を、何故自分は考えなかったのか?
軽卒に異世界へ来てしまったことを、賢紀は深く後悔した。
もちろん、季子にフラれただけという可能性はある。
賢紀のことなど、どうでもよかった可能性。
単に約束を、忘れてしまっただけという可能性もある。
だが、もしトラブルだったら?
そう思うと賢紀は猛烈に、季子と会いたくなった。
本当にフラれていて、「しつこい奴」と思われてもいい。
「ゴメーン、忘れてたわ」と、言われてもいい。
季子の無事を、確認したい。
病気や怪我なら、約束をすっぽかしたことを気にしているかもしれない。
もしそうだとしたら、また次に会う約束をしたい。
絶対に生きて、日本に帰るんだという強い決意が湧く。
その決意を胸に、賢紀は2人に宣言した。
「行くぞエリーゼ、アディ。俺は自由神フリードの使徒として、使命を果たす」
「りょーかい、ケンキ! 『私達の戦いは、これからだ』って感じね」
「姫様。それは物語が、打ち切られる時の台詞です」
「そう。俺達の戦いは、これからだ」
自由神フリードの使徒、【ゴーレム使い】安川賢紀。
「白銀の魔獣」の異名を取る王女剣士、エリーゼ・エクシーズ。
そしてケモミミ獣人メイドの――
(あれ? なんか最後、締まらないな?)
そう思った賢紀は、アディに尋ねてみる。
「アディはそこの魔獣王女みたいに、二つ名とかないのか?」
「そうですわね……。わたくし他国では、『暗殺者を滅殺せし者』などと呼ばれているようですが……」
(何!? その物騒な二つ名!?)
自分好みである、中二センス溢れる二つ名。
可憐なメイド姿との、凄まじいギャップ。
憧れと戦慄を、同時に感じる賢紀。
(3人目はアサシンスレイヤー、アディ・アーレイト! 俺達の旅が、今始まる!)
すでに夜は明け始めていた。
3人乗って少し窮屈になったダチョウゴーレムを、賢紀は朝日に向かって走らせる。
澄んだ早朝の空気の中、エリーゼの元気な声が響いた。
「ケンキ! そっちは南じゃないわ!」