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【解放のゴーレム使い】~ロボはゴーレムに入りますか?~  作者: すぎモン/詩田門 文【聖ドラ改稿中】
第6章 魔族の国 魔国ディトナ編

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第101話 あの日の真実(1)~悪い……待たせたか?~

 魔王の(ひつぎ)へと続く石造りの扉は、ただひたすらに重かった。




 (やす)(かわ)(けん)()の心情を、表しているかのように。




 扉を開いた先には、建物の外観に見合ったドーム状の部屋。


 これまで歩いてきた通路のように、無機質な白い壁や床ではなかった。


 風化した石造りの壁と床がベージュ色の世界を作り出し、温かみのある空間となっている。


 それはこの部屋ができてから流れた、時間を感じさせるものだった。


 とても長い、気が遠くなりそうなほどの時間を。




 部屋の中央には、色あせた長方形の物体。


 これがおそらく、魔王の棺だろう。




 棺の上に、腰を下ろしている人物がいた。




 彼女は精霊達のように、やや()けた後ろ姿を賢紀に向けている。


 魂だけで、実体はないのだ。




 服装は、ワインレッドのドレス。


 背中から飛び出しているのは、黒鳥の翼。


 娘である、ティーゼ・エクシーズと同じだ。




 翼と服装以外は、あまり変わっていないように見える。


 さらりと伸びた、(つや)のある長い黒髪。

 

 あの日、コンビニで見送った後ろ姿のままだ。




 賢紀はカラカラに乾いた(のど)から、なんとか言葉を絞り出した。


 言葉は(かす)れた声となって、棺の上に座っている人物に届く。




「悪い……。待たせたか?」




 ――何だその台詞(せりふ)は?


 まるで普通のカップルが、待ち合わせの場面で使うような言葉ではないか。




 賢紀は自分の発言に、(あき)れてしまう。


 生まれ変わってから300年。


 寿命で肉体を失ってから200年。


 合わせて500年。


 待たせていないはずがない。


 待たせていないはずがないのだ。




「ううん、今きたところ。……って言うのは、ちょっと無理があるかな」




 声も全然変わっていない。


 だが、口調は少し変わっていた。


 彼女は地球に居た頃、いつも自信なさげだった。


 だが今は、ハッキリ(しゃべ)るようになったと賢紀は感じる。




 ゆっくりと、(やま)()(とき)()は振り返った。




「久しぶりね、安川君」




 彼女の瞳は、赤い色に変わっていた。


 眼鏡はかけていない。


 それ以外は、顔も全く変わっていないように見える。




 いや、賢紀の(ほう)も丸1年は会っていないのだ。


 最後に会った姿も、3年ぶりに見たものだった。


 ほぼ毎日、高校で顔を合わせていた頃とは違う。




 ――結局のところ、変わっていないと自分が思いたいだけなのかもしれない。


 変わっていないと思いたくて、記憶の方を今の季子に近づけているのかもしれない。


 賢紀は自分の感覚に、自信が持てなくなっていた。




 賢紀と季子。


 2人の間に、しばしの沈黙が流れる。




 お互い、最初に何から話せばいいのか分からないのだ。


 話したいことは、沢山あったはずなのに。




 やがて賢紀が、ゆっくりと口を開いた。




「なんで、悪役令嬢なんだ?」




 思わず出てしまった問いに、賢紀自身「なぜそれから聞く?」とツッコミたくなる。


 季子の(ほう)も思ったらしく、「最初の質問がそれ? 相変わらずねえ……」と呆れ顔だ。




「アクヤック・レイジョールは、この世界の両親から授かった名前。こっちの両親に悪いから、魔王就任まではその名前で行こうと思っていたんだけど……」


 季子は眉間を指で押さえながら、(かぶり)を振った。


「改名のタイミングが、遅過ぎたみたい。トキコ・ヤマハって名前が、全然定着しなかったの。魔族には、すごく発音しにくい名前だったみたいで」


「こっちの両親……。やっぱり山葉は、転生したのか……。俺の推理は、間違っていなかったわけだ」


 賢紀は背後を振り返り、魔王転生者説を(かたく)なに否定した3人を無表情で(にら)む。


 明後日(あさって)の方向を見て、素知らぬ顔をするのはアディ・アーレイトとイースズ・フォウワード。


 エリーゼ・エクシーズだけは、不安げな表情で季子を見つめている。




「あら、安川君。私が苦労している間に、ハーレムパーティを結成したの? 私と同じように加護も持ってるみたいだし、チーレムね。なんで男ってみんな、チーレムが好きなのかしら? 安川君はハーレムとか、面倒臭がるタイプだと思ってたのに……」


 季子はジト目になって、賢紀を冷ややかに見つめた。




「こいつらは、そんなんじゃない。共に死線を(くぐ)り抜けてきた、大事な仲間達だ。……いま言った、山葉が苦労している間にという部分が知りたい。コンビニで俺と別れた(あと)、何があった?


 季子は天井を見上げながら(めい)(もく)すると、声に(なつ)かしさを(にじ)ませながら語り始めた。




「あの日……。コンビニで3年ぶりに、安川君と再会した夜ね……」






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□






 その晩、山葉季子は浮かれていた。




 自室のベッド上で(まくら)を抱えて(もだ)えながら、(ひと)(ごと)を連発している。




「どうしよう? 安川君から、食事に誘われちゃったよ! これってデート? デートで間違いない? 行ってみたら、(まし)()君まで居ましたーってオチじゃないよね?」




 大学生になって、見た目は少しばかりオシャレになった季子。


 だが彼女は相変わらず、男慣れしていないままだった。




「いいえ! デートで間違いないはずよ! 約束のお店は、ムーディなカップル向けのお店だもん! キャー! あの安川君が、そんなお店を知ってるなんて驚きー! 少し見直したぞ。ロボットアニメ以外、興味無い男かと思っていたのに……」



 ボフンボフンと、枕に拳を叩き込む季子。


 当時は普通の女子大生だったので、実に微笑ましい威力のパンチだ。




「安川君も私のこと、好き……だったりして!」




 季子は枕を抱えたまま、高速で横転してベッドの上を往復した。


 最後は勢い余って、ベッドから床に落下する。




 床で大の字になったまま天井を見上げ、季子はポツリと(つぶや)いた。




「何を着て行こう……。下着とかは、どうするかな……って!」




 季子の頭は(ふっ)(とう)した。




「何を考えているの!? 私!? いくら何でも、初デートからそんな……。でも安川君って、結構むっつりスケベだしなぁ。……いやいや! 先走り過ぎだって! そういうのは、きちんと段階を踏んでから……。あっ!」




 段階も何も、まだ告白すらしていない。


 その事実に気付いた季子は、急激に冷静さを取り戻していった。




「……そういえば、化粧落としが無くなっていたんだ。買いに行かなきゃ」






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□






「世界の~壁を~♪ 壊して~♪」




 夜の国道に、季子の歌声が響く。


 普段の彼女なら、外で歩きながら歌うなど恥ずかしくて有り得ない行動だ。


 しかし今、近くに人はいない。


 何より季子は、浮かれていた。




 彼女が歌っているのは、ロックバンド「ナローシュ」の代表曲だ。


 タイトルは、「Rock you different world」。


 バンドメンバーの中で、特に季子の推しなのが(せい)()という女性ヴォーカル。

 

 赤いカラーコンタクトを入れた瞳。


 背中に黒鳥の翼の飾りを着けて、彼女はステージに立つ。


 飾りの翼は本物の鳥のように動くので、どのような仕組みなのかファンの間では議論の(まと)になっていた。


 他のメンバーも、ファンタジックなコスプレをしている。


 ドラマーは長く尖った耳をしているし、ベーシストは(ひたい)に1本角が生えていた。


 キーボーディストに至っては、何だか幽霊みたいに透けて見える。


 ギタリストの青年だけが、普通の人間っぽい姿。


 そんな変わったバンドだ。

 

 あまりロックなど聞いたことがない季子だったが、すっかりファンになってしまっていた。


 大学の友人から、(なか)ば強引に連れていかれたライブ。


 そこで実際の演奏を聴いて、目覚めたのだ。




 歌い歩きながら、季子は思いを巡らせていた。




 明日、安川賢紀に会ったら何を話そうかと。


 大学での生活。


 賢紀の仕事の話。


 自分が同人誌の即売イベントでは、ちょっとした有名人になりつつあること。


 賢紀は相変わらず、ロボットアニメばかり見ているのかということ。


 益城(ぐん)の近況。


 そして……。




 季子のことを、どう思っているのか。




「違う世界のあなたに~♪ 私の想い届くから~♪」




 サビの部分を口ずさみながら、季子は信号機のない横断歩道へと足を踏み入れた。




 遠くに車のヘッドライトが見えるが、距離は充分にある。




(……会いたいよ、安川君。早く、明日にならないかな?)




 歌と明日のことに気を取られてなければ、季子は気付けたかもしれない。

 

 横断歩道に近づいてくる車の、異常なスピードとエンジン高回転音に。




 横断歩道の真ん中で、季子は驚いた。




 いきなり自分が、ヘッドライトで照らされたからだ。




 反射的に、車の(ほう)を見る。




 ドライバーは、季子に気付いた。




 急ブレーキを踏んだらしく、キュッ! キュッ! と断続的にタイヤが鳴る。




(ああ。映画とかドラマみたいに、キィー! って連続した音にはならないのね……)


 季子の頭をよぎったのは、そんなどうでもいいことだった。




 スピードを殺しきるには、全然距離が足りない。


 もう少し、距離さえあれば――


 ドライバーはハンドルを切って避けるなり、もっとスピードを落として衝撃を(やわ)らげることができたのかもしれない。




 季子の命が、助かる程度まで。




 衝撃と共に、季子の体はボンネットの上を転がった。


 回転しながら車の上を飛び越え、道路にうつ伏せで落下する。


 季子はその状況を、どこか他人事のように感じていた。

 

 あまりに衝撃が激しくて、現実感が失われている。


 痛みも感じず、全身がまったく動かない。




(あれ……? 私……死ぬの? ちょっと待ってよ! どうして!? 明日、安川君に会うのよ!? 何で今なの!?)




 ()ねた車のドライバーが、慌てて駆け寄ってきた。


 身体に残されたわずかな力を振り絞り、季子は相手の顔を見る。




 若い男だ。




 季子や賢紀と、あまり変わらない年だろう。


 自分がしでかしたことの大きさを理解しているようで、顔面蒼白になって震えている。




(ねえ! お願い! 早く救急車呼んで! ひょっとしたら、まだ助かるかも? 私、死にたくない! 明日まで、生きなきゃいけないのよ! 絶対に!)


 そう言いたかったが、口が動かない。


 肺から空気が出て行く気配すらない。


 ならばせめて目で訴えようと、季子は相手の顔をじっと見つめる。


 だがそんな思いは、届かなかった。


 彼は季子に背を向け車に飛び乗ると、そのまま走り去ったのだ。




(畜生! ()き逃げ野郎め! その顔は、憶えたぞ! 復讐してやる! 私が描く薄い本の中で、「受け」として登場させてやる! ドSキャラから徹底的に(りょう)(じょく)される、目を(おお)いたくなるような(ひど)い展開にしてやるんだから!)




 季子は憎しみを込めて、走り去る車のテールランプを(にら)みつけた。


 赤い光が、小さくなってゆく。


 それに呼応するかのように、自分の生命の()も消えていくのを季子は感じていた。




(いやだ……死にたくない! 生きたい! 生きたい! 生きたい……。せめて明日の夜までは! もういちど、安川君に会うまでは! 生きたい! 生きたい! 神様でも悪魔でもいい! 助けて! 生きたい! 生きたい! イキタイ! イキタイ! イキタイイキタイイキタイ!)







『そんなに生きたいか? 力なき娘よ』




(あ……。この声……イケボ……)




 そんな感想を抱いたまま、山葉季子は地球での生を終えた。






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