表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/150

第1話 異世界への扉~次元の歪み的なヤツですよね?~

 深夜の(かん)(せい)な住宅街を、1人の青年が歩いていた。


 無表情で、(たん)(たん)と。




 身長は175cm(センチ)


 建設会社で働いている彼は、細身だがそこそこ筋肉質な身体をしている。


 顔立ちはそれなりに整っているが、クールというよりは無表情な顔。


 女性からも「一緒にいても面白くなさそう」という評価が多く、モテない街道を爆進中だ。


 淡々と歩く彼は一見平静に見えるが、かなり落ち込んでいた。




(明日、仕事休んじゃおうかな……)



 そう考えるくらい、ヘコんでいた。


 精神的なダメージからか、体が(なまり)のように重い。


 無表情な青年の名は(やす)(かわ)(けん)()、21歳。


 建設会社に勤める重機オペレーターだ。


 明日も現場で、ユンボに乗らなければならない。


 だがこんな精神状態のまま乗れば、事故でも起こすかもしれない。




 賢紀は工業大学へ進学し、産業ロボットメーカーの開発職に就くのが夢だった。


 しかし両親の事故死により、大学進学は経済的に不可能になった。


 そのため高卒で、建設会社に就職することになったのだ。




 重機オペレーターって、人型機動兵器のパイロットみたいでカッコイイ。




 なんとも子供じみた考えだが、それが志望動機。


 彼は(きっ)(すい)のロボットアニメオタクだった。


 産業ロボットメーカーを目指す前、中学生の時だ。


 賢紀は進路希望調査票に「人型機動兵器のパイロットになりたいです」と書いて、メチャクチャ怒られた経験がある。


 最初の夢とも2番目の夢とも違うが、自分がカッコイイと思う仕事に就けたのだ。


 今の仕事も悪くない。

 そう考えている。


 したがって、勤務態度はわりと真面目だ。


 しかし最近どうも周りに溶け込めていない自分に、悩んでもいた。


 元々オタク()(しつ)であり、3度の飯よりロボットアニメやプラモ作りが好きな賢紀。


 彼は周りの体育会系なオッサン達と、なかなか馬が合わないのだ。


 上司や先輩達が好きなパチンコやキャバクラの話に、無理して合わせている自分がいる。


 それが社会人だというものだろうと思う一方で、割り切れていない自分もいる。


 無理に合わせているのが、伝わってしまっているのか。


 あるいは反応に(とぼ)しい表情と、自分からは積極的に会話しない性格が(わざわ)いしてか。


 周囲もなんとなく、賢紀からは距離を置くようになってしまっていた。




 それでも、重機に乗る仕事自体は楽しい。


 イメージ通りの精密な操縦ができると、マシンと自分が一体になったかのような全能感が得られる。


 だけど明日は、出勤したくない。


 というよりもう、消えてしまいたい。


 そんなことを賢紀は考えていた。

 



 なぜ彼が、ここまで落ち込んでいるかというと――






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□






 数時間前。


 賢紀は女性と、待ち合わせをしていた。




 相手は(やま)()(とき)


 高校時代のクラスメイトだ。




 前日の昼休み。


 弁当を買いに行ったコンビニで、賢紀は偶然彼女と再会したのだ。




 高校時代は地味で大人しく、目立たない子だと思っていた。


 無造作に後ろで束ねられていた髪は解放され、今は(つや)やかに輝いている。


 かつて愛用していた眼鏡は、デザイン性を無視したフレームの太いもの。


 それが、フレームレスのお洒落なデザインへと変わっていた。


 (まつ)()が長い彼女の瞳を(きわ)()たせる、立派なアクセサリーだ。




(山葉、()(れい)になったな)




 心の中で、そう思っただけだ。


 口に出して言える男であれば、賢紀は「彼女いない歴=年齢」という人生を歩んではいなかっただろう。


 高校時代から季子のことは、ずっと気になっていた。


 再会できるチャンスはもう無いかもしれないと考えた賢紀は、思い切って彼女を食事に誘ってみたのだ。




「明日の夜、ヒマか? 飯でも食いながら、昔のことでも話さないか?」




 軽い口調で言ったつもりだが、胸の奥では心臓が破裂しそうなくらい(どう)()していた。


 顔が()()って真っ赤になっている……と自分では思っていたが、賢紀はいつも無表情な男。


 季子にはその緊張が、伝わらなかったようだ。




「……うん。いい……よ」




 一瞬()(まど)い、モジモジしていた季子。


 だが、(しょう)(だく)してくれた。


 ちょっと困ったような顔なのが、気にはなったがり




 これは脈アリなのでは?


 心の中で、激しくガッツポーズを決める賢紀。


 高校時代、男子が苦手だった季子。


 しかし賢紀とその親友の男子とだけは、わりと(しゃべ)る機会があった。


 季子はアニメや漫画、ライトノベルが好きなオタク気質の少女。


 同じくライトノベルやロボットアニメが大好きな賢紀とは、話が合ったのである。


 少なくとも、嫌われてはいないはず。




 そう思って、人生初のデートに挑んだ賢紀だったが――






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□






 約束の時間になっても、季子は待ち合わせた喫茶店に来なかった。


 大学生というのも、結構忙しいのだろう。


 サークルでの用事などがあったのかもしれない。


 そう思い、賢紀は静かに待ち続けた。




 1時間待っても、彼女は来なかった。


 SNSのアカウントを教えてもらっていたので、メッセージを送ってみた。


 しかし、既読表示はつかない。




 2時間経った時、賢紀は季子のスマホに電話してみた。


 流れるのは、無情なメッセージ。


 「電源が入っていないか、電波が届かない場所に居る」と……。




 3時間経過。


 そろそろ店員さんの視線が痛い。




 4時間経った時、頼んでもいないコーヒーが来た。


 持ってきた店員さんに(たず)ねたら、店長からのサービスだと言われた。


 店長さんらしい中年男性を見ると、(あわ)れみのこもった視線を向けてくる。


 そして目が合うと、軽く()(しゃく)をして店の奥へ引っ込んでいった。


 この瞬間、賢紀は(さと)った。




 「ああ俺は、フラれたみたいだな」と。




 山葉季子が自分に好意を持ってくれているかもしれないなど、とんだ勘違いだ。


 今思うと、誘った時も困ったような顔をしていた。


 だいたい自分が「綺麗になった」と思ったくらいなのだ。


 大学でも、モテているに違いない。


 彼氏もすでに、いたのかもしれない。


 だから誘ったときに、困っていたのかも―――




 賢紀は恥ずかしさのあまり、「オーゥ! 俺の自信過剰野郎~!」と泣き叫びながら店内の床を転げ回った。


 ただしそれは、脳内での話だ。


 実際には、静かな(たたず)まいでコーヒーを飲んでいた。


 中身は感情豊かだが、それが表に出ないのが賢紀なのである。


 ほんの少しだけフラれた(うれ)いを(ただよ)わせつつも、クールっぽく見える()(ぐさ)


 そんな様子に女性店員が、「ちょっとイイわね、彼」なんて思っていた。


 だが残念なことに、賢紀は気づいていなかった。




 そしてさらに1時間後。


 店長さんらしい人が、優しくも哀れみのこもった声で賢紀に告げた。




「申し訳ございません。まもなく閉店です」






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□






 こうして冒頭のように、賢紀は深夜の帰り道をトボトボと歩くハメになった。




(決めた! 明日は会社休んでロボットアニメ見よう! ちょうど最新話の配信日だし)




 後ろ向きな決断を下して、賢紀が地面に落としていた視線を前に向けた時。




 そこにそれはあった。




「なんだコレ……? 霧……?」




 紫色の霧というか雲というか、どう表現していいか賢紀には分からない。


 グニャグニャとした謎の物体が、目の前に(ただよ)っていた。




「超怪しい。だいたい、紫色ってなんだよ? 毒ガスか?」


 賢紀の独り言に応えるかのように、謎のグニャグニャ物体はピンクへと色を変えた。




「今度はピンクか。いかがわしさが、倍増したな」


 グニャグニャは、さらに銀色へと姿を変える。




「マシな色にはなったが……。どうにも危険な予感がする」


 賢紀はグニャグニャから大きく距離をとりつつ、()(かい)する進路を取った。




「たすけて……」




 かすかに、女性の声が聞こえたような気がした。


 怪しさ大爆発中である、グニャグニャの向こうから聞こえた気がする。




「どうか、助けてください!」




 今度はハッキリ聞こえてしまった。


 女性の声。

 声の調子からして、深刻な状況のようだ。




 賢紀は銀色のグニャグニャを見ながら、しばし考察する。


「コレって、次元の(ひず)み的なヤツだよな?」


 SF映画やライトノベル等の異世界召喚・転移モノも好きな賢紀は、そう直感した。




「奥に進めば別の場所……声の主の所に、行けるんだろうな……。でもそこは、果たして地球だろうか?」


 別の星かもしれないし、次元の壁を越えた異世界かもしれない。


 過去や未来へのタイムスリップという可能性もあるだろう。




「でも……まあいいか。今はここから、消えてしまいたい。どこへでも、行ってやるよ」


 普通の精神状態であれば、そんなことは考えなかっただろう。


 しかし今の賢紀は、フラれてヤケクソになっていた。




「グッバイ日本。待ってろ異世界」




 出る先は同じ日本かもしれないという可能性を無視して、賢紀は(つぶや)く。






 銀色の(わい)(きょく)した空間。


 その奥へ向かって、安川賢紀は駆け出した。






安川賢紀だ。第1話を読んでくれて助かる。

ついでと言ってはなんだが……。もし、俺の事を面白い奴だとか、この話の続きが気になると思ってくれたら、ブックマークや評価をお願いしてもいいだろうか?


やり方は簡単だ。

画面上に出ている黄色いボタンからブックマーク登録。

この下にある★★★★★マークのフォームから、評価の送信ができる。


無表情で無愛想な俺だが、顔に出ないだけで評価されればもちろん嬉しい。よろしく頼む。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本作に頂いた、イラストやファンアートの置き場
解ゴー FAギャラリー

他の作者さんが書いた異世界ロボットものとのコラボ作品
スーパーなろうロボット小説大戦~天涯のアルヴァリス×解放のゴーレム使い~

本作のラスボスが、生まれ変わって主人公になる異世界転生自動車レースもの
ユグドラシルが呼んでいる~転生レーサーのリスタート~

世界樹や戦女神リースディースなど、本作と若干のリンクがある作品
【聖女はドラゴンスレイヤー】~回復魔法が弱いので教会を追放されましたが、冒険者として成り上がりますのでお構いなく。巨竜を素手でボコれる程度には、腕力に自信がありましてよ? 魔王の番として溺愛されます~

― 新着の感想 ―
[良い点] ロボットが好きで建設会社に勤める賢紀の気持ちが少しだけわかります! ご存じか分かりませんが、映画エイリアン2で出てくる貨物作業用のパワードスーツ。 ラストバトルはそれに搭乗して、エイリア…
[良い点] 店長、追い出すかと思えばコーヒーのサービスとは…… きっと老舗の喫茶店でしょうね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ