プレゼント
キミへ贈るプレゼントを買った。
キミは喜んでくれるかなぁ……。
♪
"今日こそプレゼントを渡そう"
そう思ってから早一週間が経とうとしていた。
恥ずかしさからか、私はなかなかプレゼントを渡せないでいた。
どうしたら渡すことができるのだろう、とそればかりを考えている気がする。
考えても、方法は思いつかなくて、思いつかないまま学校へと歩く。
もちろんプレゼントも持っている。
"どうしてプレゼントを買ったのだろうか"
「誕生日とか特別な日でもないのに……」
つい考えていたことを口にしてしまった。
考えていることを口にしてしまうのは私の癖だ。
直す気もないし、直そうとも思わない。
学校へ行く道すがら、考えを巡らす。
こんなことがここ一週間の習慣になっている。
いろいろと考えてはいるが、なにも思いつかない……。
☆
放課後。
私は教室にひとり残っていた。
「今日もまた渡せなかったな」
そう、今日も渡せなかった。
チャンスやきっかけがなかったわけでもなかったと思う。
それでも渡すことができなかった。
「だめだなぁ……」
もうちょっと自暴自棄気味。
もしかしたら鬱病になってしまうかもしれない。
「あれ?まだ残ってたの?」
突然声をかけられた。
聞いたことのある声、聞きたかった声。
声をしたほうを見ると、そこにはキミがいた。
「え?あ、うん」
突然すぎてこんな返事しかできない私。
しかし、これは絶好のチャンスかもしれない。
必死で考えを巡らせて、どうやったら渡せるか、考えた。
「そっちもまだ残ってたの?なにかあった?」
「あったにはあったけど、終わったから帰ろうかと思ってたとこ」
「それじゃあ、一緒に帰ろうよ」
"やった!!"
内心そう思った
これこそ絶好のチャンス!
たぶん二度とないチャンス!
「そういえば、最近また寒くなったよね」
帰り道の途中、渡す糸口を見つけるためにまずは無難な会話を、と思って話しだした。
「そうね。ちょっと暖かくなったと思ったら、また寒くなってきたわね」
「だよね。マフラーとかしないとちょっと寒いよね」
私は会話の内容にうれしさを覚えた。
思わず顔がほころんでしまう。
「たしかに手袋とか、ないとさむいわね。今ちょっと寒いし」
手をこすり合わせ、寒そうにするキミ。
それを見る私。
"私のプレゼント、喜んでもらえるかも "
プレゼントのことを考えて、今こそ渡すときと思い、でも緊張してドキドキしている。
「そういえば、前は今の時期ちょっと寒かったなぁ。長袖を重ね着するのが嫌いだったから。なんだか腕のところがモコモコするっていうか、圧迫されるっていうか、それが嫌だったな。今は結構大丈夫になったけど」
話を広げようとそんな事を言った。
「そうなんだ。でもその気持ちはわからないでもないかな。だってマフラーとかするのがあんまり好きじゃないし」
…………え?
いま、なんて?
「マフラーするの好きじゃないの?」
「うん。首が締め付けられてる感じがして好きじゃないんだ。タートルネックとかはまだ平気になってきたんだけど、マフラーはまだちょっとね」
「そ、そうなんだ」
さっきまでの気持ちが一気に沈んでしまった。
沈んでしまった気持ちを顔に出さないように、笑顔を意識した。
その後も何か話したけど、ぜんぜん頭に入ってこなかった。
「じゃあ、ここで」
別れ際、努めて普通を装った。
変に意識していて、いつものように話せているか不安でしょうがない。
「うん。また明日」
「また明日、さよなら」
手を振ってから歩き去っていくキミ。
……はなれていくキミの背中が心の距離のように思えてならなかった。
この距離はどうやったら縮められるのだろうか。
☆
プレゼントの中身はマフラーだった。
キミへのプレゼントはマフラーだった。
でも、キミはマフラーをつけない。
いきなりプレゼントだって渡しても戸惑ってしまうんだろう。
だから、渡さなかった。
……渡せなかった。
今の関係が壊れてしまうと思ったから。
ぎこちなくなってしまうと思ったから。
苦しい
辛い
少し悲しい
手元に残ったプレゼント……、どうしようかな