7、奇妙な展開
聡一様と絹川様を玄関で見送り時計を見ると13時だった。少しだけ何か胃に入れておこうとおにぎりを食べているとエンジン音がして10分も経たず聡一様が戻ってきた。
「おかえりなさいませ。」
「ああ、本当に疲れた。どうして約束もしていないのに勝手にくるんだ?お嬢様はいつも自分が中心だから本当に面倒だしわがままだ。それにしても前の女がくれたのと同じ財布だな売るか、それかやろうかお金に困っているんだろう?ブランド物だしいい金になるぞ。」
「いえ結構です。洗濯物をたたみますので失礼致します。」
「あーあ、これどうしようかな?折角やろうと思ったのに断られたし。俺の周りはろくな女がいないな。もう捨ててしまうか?別にいらねーし。」
この人。さすがに。
「失礼を承知でよろしいでしょうか。私はなんと言われようが構いません。しかし本人が居ないとはいえその振る舞いは如何なものでしょうか。あの方はまだ若く、聡一様に恋をされている。聡一様は全てを認識されているにも関わらず知らないフリを続け、挙句その感情を利用し地位を得ようとされているんですよね。利用するなとは言いません、絹川様もどこかでそれを承知で聡一様と一緒にいるでしょうから。どこまでされているのか分かりませんが恋人の真似事もしているんでしょう。それなのに先日のあの発言や今のその態度、あなたは人として最低です。彼女の恋心は本物ですいつかは幻想が壊れるにしてもせめてその時まで誠実であるべきです。」
聡一様は驚いた顔をしている。
「へー俺に何を言われても感情が出なかったのに、人の事だとそんなに感情が出るんだ。面白いな。」
全く反省している様子はない。この人はもうどうしようもない。
「じゃあ教えてよ恋を。人を愛する事を。俺は誰かを愛して大切にしたいと感じた事がない。だから俺と付き合ってくれよ。」
「はっ?」
「誠実な対応を教えてくださいよ。そんなに大口を叩いたんだからさあ。」
「いやそれは、私は。」
「じゃあ絹川聖さんはボロボロにされ壊され踏みにじられるだけだ。」
私は絹川様にそこまで思い入れは無いし、関係ない。捨てられようが、傷つこうが別に。……別に。
「聡一様は平日に休みがありますか?」
「急だな。金曜は朝だけだから12時前には帰って来るぞ。」
「では金曜日の12時から17時までその間だけ恋人として過ごすという事でどうでしょうか。それ以外はいつも通りに。」
「ああ、じゃあ2日後から頼む。」
「はい、かしこまりました。」
そして足早に2階へあがってしまった。厄介なことになってしまった。自分の記憶も戻さないといけないのに、人助けなんてしてる暇ない。深くため息をつき洗濯物をたたみを始めた。
「玲二様少しだけよろしいでしょうか?」
夕食を終え聡一様がお風呂に入っている隙に部屋をノックし話しかける。
「美雨さん?どうぞ。」
「失礼致します。」
ゆっくりドアを開けて中に入る。そういえば初めて玲二様の部屋に入ったな。玲二様のお部屋はベッドとデスク、椅子、パソコンそれしかない。クローゼットがあるので中に物があるかもしれないけど部屋にはそれしかない。椅子に腰掛けている玲二様に話しかける。
「2つお話があります。1つめはそろそろ食材がなくなるので買い物に行かなければなりません。2つめは金曜日の休憩時間を12時から17時にしていただけますか?」
「ああ、どちらも構わないよ。お金は明日渡すよ。」
「はい、ありがとうございます。では失礼します。」
「ああ、おやすみ。」
扉をゆっくりと閉め廊下に出る。結局、聡一様の事は言い出せなかった。寝よう、寝てしまおう。