5、迷惑をかける前に
また目覚ましがなる前に目が覚めてしまった。5時過ぎだ。2人と支度がかぶってもいけないのでこれくらいでいいかもしれない。支度をして先に朝ごはんの準備をする。とりあえず2つ。休みでも昼は弁当でいいだろう残ったら私が食べればいいし。炊き込みご飯は上手にできている。胡麻和えとマカロニナポリタンだけだとおかずにならないかしら?仕方なくひき肉で小さめのハンバーグを作った。朝ごはん代わりにコーヒーを飲んでいると玲二様が降りてこられたようだ洗面所で音がしている。朝ごはんの準備をしよう。ジャーマンポテトを作りフランスパンを軽く焼いてコーヒーをいれる。食堂に準備していると玲二様が入ってくる。
「おはよう美雨さん。」
「おはようございます。玲二様。」
「今日は木曜日だよね。私も兄も土日は休みだから。朝は平日より遅くていいから。そうだな10時に朝食で。美雨さんもお休みだし。後、平日の10時から15時まで休憩してくださいね。これは昨日、兄にも伝えてあります。休み時間指定しないと家政婦さんってずっと家に居るから休みにくいですよね。」
「恐れ入ります。」
「いえいえ、朝ごはんをいただこうか。美味しそうだ。」
「ありがとうございます。失礼します。」
そう言って食堂を出る。昨日買い物には行ったし、今日は外に出てみよう。
10時から図書館に出かけてみよう。そうしよう聡一様が目覚めなかったらホワイトボードにお弁当の事を書いておこう。そうと決まればお風呂掃除とトイレ掃除、掃除機をかけて、その間に洗濯機をまわして掃除が終われば干してしまおう。じゃあ1番は洗濯機をまわそうと洗面所に行くとそこには聡一様がいた。
「申し訳ありません。」
「いいよ歯を磨いてるだけだし、あー俺の裸見たかった?」
「いいえ、今日はお仕事お休みでは?」
「にこりともしないな、可愛げのない女。今日は学長の娘と会食が入ったんだよ。9時に迎えに行って庭園を散歩して、学長と合流して昼食を食べて帰ってくる。ブスだけど学長の娘だから。俺、非常勤で大学で授業しつつ小説書いてるんだよ。」
「かしこまりました。」
「それだけかよ、じゃあな。」
と洗面所から出ていってしまった。可愛げのないか。鏡を見ると冷めた目をした女がいた。
玲二様を見送り掃除と洗濯物を終えたのは10時30分だった。やっぱり朝、食事の用意をする前に洗濯機をまわした方が効率的だ。次からはそうしようと考えながら身支度をして洋館を出た。図書館はあの公園の隣にあった筈だ。
やはり図書館は公園の隣にあった。とりあえず調べたい事は記憶を戻す方法だ。私はきっと精神的な記憶喪失だ。他の常識的な事を覚えているという事は、嫌な記憶だけを消したのだろう。だから調べるのは心理学や医学書の精神科系の箇所。メモとボールペンを取り出し書き留める。一応、2人の職業と嗜好等も書き出す。玲二様は優しく穏やかな人のようだ。聡一様は女性を軽視し私に女性らしさを求めている。就業規則の隣に休み時間と終わるタイミングを書き足す。ページを変えて調べる事を記入していく。
自己を守る為に記憶を失う。あまりの精神的ショックに耐えられず記憶が抜け落ちる。という事は私は何か忘れたい事が起こって耐えられずに記憶を消した。消さずにはいられない程のショックな事。自分自身を忘れる程。思い出さない方がいいのかもしれない。もし何か後ろぐらい事がある女だったら。迷惑をかける前にお金を貯めて早くあの洋館をでなければ。
でも今はとにかく戻ろう、洗濯物をアイロンかけて畳んで夕食の準備を何か肉料理と言ってたから、生姜焼きにしよう。
洋館に12時頃戻り聡一様のお弁当を食べて洗濯物を片付け夕食の下準備を終えたのは15時頃だった。食堂を掃除しその後キッチンを掃除していると聡一様が帰ってきた。
「おかえりなさいませ。」
「ご主人様って言えよそこは。」
「申し訳ありません。」
「風呂入りたいから準備してね。」
「かしこまりました。準備が整いましたらお部屋に参ります。」
「ああ。」
と言って階段をあがって行く。なんだか不機嫌そうだ。あまり関わらないでおこう。そう決めてお風呂の準備に向かった。
「失礼致します。お風呂の準備が整いました。」
聡一様の部屋扉ををノックした後、話しかけるが返事がない。
「失礼致します。聡一様。」
「ああ、開いているから入ってくれ。」
別に入る必要はないので扉を少し開け中を見ずに伝える。
「聡一様。お風呂の準備が整いました。」
扉が開いてぐっと手をつかまれ部屋に引き込まれる。上半身裸の聡一様にベッドに押し倒される。
「不用心に入るからだ。」
「私は部屋に入っていません。」
「この俺に押し倒されても表情1つ変えないなんて、なあいい体だろう?普通の女だったらこの状況は喜ぶところだ。学長の娘なんて少し肩を支えてやるだけで頬を赤らめていたのに。」
「私は聡一様にそういう感情を抱いてません。」
「俺だって別にお前にそういう感情は持ってないよ。俺、大学の生徒に超人気なんだぞ。なあお前もしてほしいだろう。」
甘い声を出して私を見ているけどそういう瞳ではない。遊んでいるのだろう。
「申し訳ありませんが、業務に含まれませんので。」
「はっ冷めた瞳だな。俺に体を差し出さないなんて。お前、女が好きなのか?」
「さあ、どうでしょう。聡一様はハンサムですがそういう意味では興味ありません。失礼致します。」
そう言ってベッドから抜け出す。簡単に離してくれるのでやはり本気ではなかったようだ。私を抱いても仕方ないだろうに。部屋を後にして、夕食の準備をしていると玲二様が帰ってきたので、お出迎えをする。その間に聡一様はお風呂に入ったようだ。しばらくして玲二様が入れ替わりで入られたので昨日と同じように夕食の準備を始め食堂に並べておいた。
食事が終わるとキッチンまで片付けに来てくれる今日は聡一様だった。
「お前が取りに来いよな。」
「恐れ入ります。」
「なあまた2人きりだぞ。」
「そうですね、もう仕事が終わりますので出ていってください。」
「連れないな。ご主人様だぞ。」
そう言ってまた近付いてくる。私のそばの椅子に座り私を見上げている。
「どちらかと言うと玲二様がご主人様です。」
「ハイハイ玲二、玲二って。ああでも今日は肉料理だったな。」
「聡一様が食べたいとおっしゃったので。」
「そうだったな、美味しかった。次も肉がいいな。」
「考えておきます。」
「本当に可愛げのない女だな。笑えるのかお前?」
「分かりません。笑えなければ問題がありますか?」
「答えも面白くない女。ああ、明日は起こしてくれ仕事だから。」
「かしこまりました。お弁当は必要ですか?」
「ああ、作ってくれ。じゃあよろしく。」
「かしこまりました。」
聡一様がやっとキッチンを出て行ったのでほっと一息つく。私は夕食を食べずコーヒーだけ飲んで食器を片付けお風呂に入った。
目覚ましをセットし眠りについた。