20、高橋要
高橋要という人は銀行員のような真面目そうな風貌の三十代位の男性で私を秋野光さんと迷いなく呼んだ。
探偵事務所は寂れた五階建てのビルの二階にあった。何故か入口は引き戸で開けると中は意外と綺麗ですぐに応接室のような部屋だった。
奥にも部屋があるのだろう、また別の引き戸から男性が出てきて、高橋要と名乗った。
「記憶は多分戻りますよ。さすがに消すという事はできないはずです。心因性なら特に。」
全てを話すと冷静にそう言った。どこか悲しげな瞳だった。
電話で私の声を聞いた後の第一声は、
「ひかるか。元気だったか?何年ぶりだろう。電話をくれるなんてありがとう。」
という嬉しそうな声だったので、声だけで私を認識出来るほど近しい人だと感じ信用できた。
実際会って話をすると前から知っているような懐かしさを感じた。
「とにかく俺の知っている事を話すよ。名前は秋野光さん。27歳で○○研究所の人事課の職員だったはず。家族構成は両親と兄が一人。両親は離婚していて兄が父の方へあなたは母の方へついて行った。」
そしてアルバムを見せてくれた。中には若い私が制服を着ていて少し若い高橋さんも写っていた。他にもたくさん子供の時や中学生、大学生っぽい時のものもあった。
当たり前だけど立花美雨ではなかった。でもここまで言われても記憶は戻らなかった。
○○研究所は玲二様の勤務先だ。やっぱり玲二様が関係しているのか?
「光、大丈夫か?ここまで言っても何も思い出せないんだろうか?俺は君の幼なじみなんだよ。」
「えっ?」
「もう少し家族について。まず光の母親は三年前に亡くなっている。父親は五年前に他の女とどこかへ行ってしまったらしい。その他の女が離婚の原因だよ。離婚はもっと前だけどね。君の兄さんは二年前から海外で仕事をしている。転々としているみたいで交流がほとんどないんだ。連絡があったのも二年前くらいで海外に行く報告だけだった。それ以来連絡はないすまない。」
という事はほぼ天涯孤独?兄さんと連絡がとれないと本当にそうなる。それに母を失っているのに涙も出てこない。顔も思い出せない事に悲しみを抱くが泣く事はできなかった。
「えっと兄さんはどうすれば見つかりますか?」
「君の兄さんは写真家で世界各国の現実を写真に撮っているようだ。だからなかなかつかまらないんだよ。気長に待つしかない。さっきの写真を撮ってるのも全部そうだ。」
「分かりました。ありがとうございます。」
「そうだ君が君の母さんと住んでいたアパートに連れて行ってあげようか?」
「はい、お願いします。」
「ああ、すまない。俺の事を話そう。光と君の兄貴の大輔とは三歳からの幼なじみだ。大輔とは小中高一緒で大学も学部は違うが一緒だった。光は二歳下で小中高一緒だった。いつも三人で通学していた。だから君ら兄妹の事何でも知っているんだ。俺の事も何でも知ってたはずだ。」
それから学校の話や遊んだ話をビルの下まで歩きながらしてくれたけど私には馴染みがないように感じた。
車で連れて行ってくれるらしく大人しく促されるまま助手席に座った。
アパートは新築のようでとても綺麗な外観だった。
「君の父さんは離婚する時慰謝料としてアパートを買い取ってフルリフォームして君のお母さんが働かなくても生きていけるようにしたらしい。だからこのアパートは君の名義のようだ。多分、家賃収入が銀行にあるだろうな。今は代理でパートの人を大家として雇っているらしい。ここの鍵とかは持っているかい?ここの一番大きい部屋を君とお母さんは使っていたと思うよ。」
勿論だがもっていない。どうしたものか。
「仕方ない、とにかくここを覚えておくといい。」
と言われ私はメモ帳に住所を記録した。
次に会うまでに光の事、大輔の事調べておくよと言われたのでお願いをして洋館まで送ってもらった。
まだ2人は戻っていないようで一度ここまでの整理をしようと自室に戻った。




