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15、日記を見ても記憶は蘇らない


4月1日

日記を書き始める。2月には買って手元にあったけどきりがいい今日開始する。

なんだか毎日マンネリで日記を書き始めたら日記の内容の為に何かするかもという魂胆で日記を書くことにしたけど、1日目はこんな感じよね。



記憶がなくなる前の私はなんとなく馬鹿っぽい。でもこれを記憶をなくす前にスーツケースに隠したのだからただの馬鹿ではないと思うのだけど。


「そもそもスーツケースに隠したって事は記憶を失うと知っていた?」


私は何かに巻き込まれた?とにかく少し読み進めよう。日記は3年前の4月から始めたようだ。



8月4日

いつものように仕事をしていると人事課に男性が訪ねてきた。有休の事で相談に来たようだ。東棟の人はほとんどこっちにはこないのに。

私はパソコン越しに話を盗み聞いていた。山下主任は有休消化の話を終えるといつものようにお子さんの自慢話をしている。話を聞かされる人は皆、迷惑そうにしたりするのに今日の男性は他の人と違って最後までにこにこと話を聞いて戻って行った。

ちらっと顔を見たけどイケメンだった。第2の所属らしい。あそこは少し変わった人が多い、優しいのかもしれないけどなんとなくあの男性には関わらない方がいいと本能的に感じた。



私は人事課に所属する社員なのか。東棟、棟が分けられる程大きい会社?上司に山下という人がいる。もっと細かく書いてあれば良かったのに。



12月28日

今日は仕事納めで大会議室で簡単な忘年会があった。人事課と総務課はこの日ほとんど休憩がない。昼の休憩後はお酒やおつまみ等買い出しに出かけ戻り次第、総出で準備をする。

電話番や検査で全員一斉に打ち上げはできないのでぱらぱらと部長に挨拶をしにやってくる。その都度、酒を注ぎおつまみを勧める。

女だからこの役目ではなく、人事課と総務課の男性や課長でさえ今日は裏方だ。皆、同じように立ち回っている。大体の人が挨拶を終えると部長が1番に帰りその後を追うように少しずつ帰宅していく。

全員帰宅した事を確認した後、人事課と総務課で分かれてお酒を一滴も飲まずに事務方の2課だけ反省会を行う。課長から来年の目標と課員の仕事ぶりを見て長所と短所を伝えられるのだ。

精神的にくるものがあるが人事課長の佐倉さんの言葉は毎年、はっとさせられる。反省会が終わった後の総務課も人事課も酷く疲れた顔をしている。これでやっと今年の仕事が終わりだ。

今帰ってきて忘れないうちに佐倉さんの言葉を書き留めておく。


君のいい所は失敗する可能性があれば即座に切り替え、もう一度異なる方法でアプローチするもしくは他人の意見を受け入れるところだ。

新卒で人事課に入ってきて3年だったね。大学を出て右も左も分からなかった初々しい君を覚えているよ。努力をして仕事をこなして身に付けた技能だと分かっている。

でもそこが君の悪い部分でもあるんだ。頑なに頑固になる必要はないが粘る事も時には大事だよ。自分の意見が劣っている可能性があったとしても押し通す事も大事だ。

来年はそこを意識してください。



粘り強くか。記憶が蘇る気配はないけど少しずつ私の人物像が浮かび上がってくる。今は28か29歳。仕事を真面目にこなしていた。人事課に所属している。ここまで見ても記憶は蘇らない。心に残っていそうな話っぽいのに。


ピンポーン


インターホンが鳴ったのでもう少し確認しておきたかったけどそっと閉じスーツケースの元の場所に戻しておく。


「平日のお昼に誰だろう?」


足早に玄関まで行き扉を開けるとそこに居たのは可愛らしい水色のレースのワンピースを着た絹川様であった。






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