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14、様々な焦り


「そういえば美雨さん記憶はどう?」


聡一様と洋館に戻って、コーヒーを渡しに玲二様のお部屋に行った時に声をかけられた。あんな事があってすぐなのに普通に話しかけてくるなんて。聡一様は玲二様に会わないようにすぐに部屋に入ってしまったのに。とにかく玲二様は要注意人物だ話を合わせておこう。


「いえ、まだ何も。」


何かを思い出しかけるけどその後何も出てこない辺り、記憶が戻るのを何かがブロックしてる感じがする。たまにふっとこぼれる言葉は記憶を引き出してはくれない。


「そっか。病院へ行ってみますか?あれからもう3ヶ月は経つでしょう。」


「うーん。もう少しだけ待ってください。」


「あなたは頑なに病院を嫌がりますね。」


「嫌がっている訳では。」


「ふふ、まあいいでしょう。それと兄さんには入れこみ過ぎないでくださいね。あの人は危険です。」


「気を付けます。失礼致します。」


玲二様の部屋を出てまっすぐ自室に向かった。バタンと扉を閉め施錠する。


「危険って、兄弟を危険って。なのに一緒に住んでいるの?よく分からない。それにあの最後の笑い方。」


玲二様の部屋から出る時見てしまったのだ。私を見送る笑顔がいつもの笑顔ではなく何かを含んだ笑みだった。


「うーん。記憶は後回しにしてはやく仕事を見つけないと。」



あの日から仕事探しを始めて2週間面接を受け続けても全く決まらなかった。半数は書類で落ち残りの半数は不可解な事が起こった。面接を受けに行ったら面接官の方が怯えたように私を見てやっぱり無理と言われたり、面接を受けその場で合格を言い渡されたのに後日書類が送られてきて不採用にされたり。全く決まらない。



「聡一様コーヒーをお持ちしました。」


「ああ、ありがとう。美雨今日は何をしてたんだ。」


「いつも通り仕事をしていましたよ。洗濯、掃除、料理です。」


「ああ、今日も美味かったよ。」


「ありがとうございます。」


「なあ俺を好きになってくれ。そうしたら俺変われる気がするんだ。だから俺を好きになってくれないか?」


「えっ。」


「本気だ。お前が愛してくれるならもう世の女性を軽んじたりしない。まともな人間になるよ。」


「で、でも。」


「悩んでくれて嬉しい。一刀両断で断られるより全然いい。」


聡一様のこの笑顔。最初に見たものとは全く違う優しく穏やかな笑顔。お姉さんの話をしたあの日から兄弟2人に好意を寄せられている気がする。

聡一様は頑なに金曜日のデートをやめようとはせず公園だけでなく、水族館や動物園、映画館等どこにでも私を連れて行く。その帰りに服を買ってプレゼントされたりするのがなんとも重い。

それになんでも褒めてくれるようになり可愛いとか綺麗とか面と向かって私に言い、以前のように悪口を言わなくなった。後、頻繁に使用人室を訪ねてくるようになった。

玲二様は玲二様で何かと気づかって脳や心理学の本をくれたり、専門医やカウンセラーを紹介してくれる。1度だけ具合が悪くなった時もすぐに気付き、薬を買ってきてくれたのは玲二様だった。

こういう事には聡いのにわざとなのか酷く人を傷付けるような物言いをする時がある。数ヶ月程経ってようやく素を見せ始めたのか言葉の暴力をふるう。聡一様を酷く詰る。私と聡一様が話していると遮るように立ち仕事中の時間なら自室の清掃を頼む。

玲二様は聡一様を憎んでいるような気がする。



「ああ、もう早くここから出て行きたいのに。」


私は焦っていた。だからいつもならしない失敗をした。飲んでいた水のコップを足を滑らせてスーツケースにぶちまけてしまった。ひろげていたので中まで水浸しになってしまった。


「はぁついてない。」


タオルでスーツケースの中を丁寧に拭いている時だった。スーツケースの内側に何か入っている事に気付いた。それに縫い跡がある。


「裏地の中に何か入ってる。」


カッターで布をさき中を確認する。中には単行本程の日記が入っていた。


「全然気が付かなかった。もしかして私の日記?読めば記憶が蘇るかもしれない。中はびっしり書かれてる。」


読んで見よう。


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