12、聡一様の嘘と真実
「聡一様、少しだけこのカフェで落ち着いてから帰りましょう。」
「ああ。」
聡一様は素直にカフェの一番奥の席に座った。可愛らしい女性の店員さんに注文する。私はティーフロートを聡一様はコーヒーフロートにした。ここはソフトクリームが美味しいのだ。土曜日のお昼前というのに珍しくカフェは閑散としていて、店内にいる客はイヤホンをして何かの動画を見ている大学生風の男の子とカウンターに座って経済新聞を読んでいるおじいさんとテラス席に座っている制服をきた女子高生2人だけだった。
注文していたドリンクがきて一口アイスをすくった時に聡一様がぽつりぽつりと少しずつ話始めた。
「知ってるだろうけど、姉さんが15年前あの洋館で自殺してしまった。俺が第一発見者だった。」
「はい。聞いております。」
「ああ、で遺書も何も残ってなくて何故死を選んだのか分かっていないんだ。けど俺は知っている。俺のせいだから。」
「聡一様の。」
「ああ、俺が悪いんだ。」
「……。」
「俺が誘った。一緒に寝ようって。高校生と大学生だ子供じゃない。一緒に寝るという意味が分かっていなかった訳じゃない、だけど色んな事を割り切れるほど程大人でもなかった。気持ちをなかった事にできなかった。でもそれでも上手く2人で過ごしていたんだ。姉さんがおかしくなり始めたのは玲二が帰ってくると決まってからだ。中学1年生で海外に親について行ったけど高校からこっちに戻ってくる事になった。その時俺は高校3年生で姉さんは教師1年目だった。連絡の電話を受けてから姉さんは少しずつ蝕まれていった。」
「蝕まれる?」
「俺との関係が玲二にばれるのが怖かったんだと思う。真面目な性格だったから両親に申し訳ないとか、もしかしたら姉弟でこんな事汚らわしいって思いながら俺を拒めなくて、肌を重ねていたんだと思う。だから玲二が帰ってくるのが近付くと、姉さんは俺を遠ざけ綺麗にしなくちゃと1日に何度も風呂に入ったり、服を何度も着替えたりしてた。もう限界だったんだと思う。それで部屋の物を整理しだして玲二が帰ってくる1週間前に。」
「もういいですよ。別に話を聞きたくて連れ出した訳ではありませんし。」
「いや聞いてくれ。俺は莉子を愛していたし莉子も良くないとは思いながら俺を愛してた。だからその気持ちが余計に莉子を追い詰めたんだと思う。その気持ちが莉子を殺したから、俺は愛が怖い。俺が莉子を愛したから莉子は死んでしまった。愛する心で殺してしまった。だから簡単に人を好きになって馬鹿みたいに俺に好意を持ち簡単に恋をする女を軽視するようになった。男の方がまだマシだよ、他のやつにばれたらっていう危機感で簡単に俺に好きだとは言ってこないから。」
「そうですか。その男性とお付き合いすればよかったのではないですか?」
「ああ、付き合ったんだよ。そいつが告白してきて周りの友達全てを失う決心をして。デートにも行ったけど俺は友達っていう感覚が消えなくていい雰囲気にならなくて向こうの気持ちが離れてしまったんだ。だから別れた。」
「じゃあ付き合う事とか知ってるじゃないですか。嘘つきですね。」
「ああ、そうだな。さあ帰るか。落ち着いたよ、ありがとう。」
「はい、帰りましょう。あーテイクアウトしなくちゃいけないので先に戻っててください。」
「なら待つよ。」
「じゃあお願いします。」
それにしても何も言えなかったけど良かったのだろうか。でも愛が怖いなんて。こんな経験すればそうなるか。私もそうだし。
「私も?」
なんの記憶?駄目だ全く分からない。
「なんだ?大丈夫か。」
「すみません、独り言です。」
「コーヒーテイクアウトのお客様ー。」
「はい。」
帰りの足取りは軽くなっていた。