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10、公園デート


次の日、朝の仕事を終えた私は朝食をとっている玲二様に質問をした。


「食事中すみません。玲二様にお姉さんはいらっしゃいますか?」


「あーうん。うーん。そーだね。」


「申し訳ありません。プライベートな事を聞くのは失礼でした。ではキッチンに戻りますね。」


「いや、近所の人から脚色された話を吹き込まれるより先に言っておきますよ。居てください。7歳上の姉さんです、とても真面目な人で中学校の先生でした。でも15年前自分で命を絶ってしまった。私が留学から戻る1週間前だったから私も詳しくは分かりません。警察の方の話だと、兄さんが最初に見つけて淡々と対処をしたそうです。兄さんと姉さんはとても仲が良くて、姉さんは働き出したばかりだし、兄さんは何かの賞を貰って小説家としてデビューできるところだったから、両親が海外に行くのについて行かず2人だけでここに残る事になりました。私はついて行く事にしました、子供だったし世界を見たかったんです。だから中学生の3年間は私は海外にいた。そんな事が起きて両親はここをリフォームしたんだけど、それでも姉さんを失った事が辛くて今も海外に住んでいるんだ。莉子姉は今の兄さんの部屋がある場所で……。」


私は頭を下げ話してくれた事に感謝した。


「玲二様、お辛い話をさせてしまい申し訳ありませんでした。もう充分です。本当にすみませんでした。」


「いえ、誰かから聞かされたのでしょう。気になるのは当然です。じゃあ私は出ますね。ああ、その格好似合っていますよ。」


「ありがとうございます。はい、いってらっしゃいませ。」


シンプルなメイド服を着てみたけど割と動きやすい。似合っているかは分からないけど。玲二様を見送りキッチンで片付けをする。

莉子姉とおっしゃったし昨日、聡一様の口から出た莉子という名前の女性はお姉さんで、多分、そういう事だろう。



「聡一様。聡一様。もうお昼ですよ。」


12時になっても起きて来ないので扉をノックしながら声をかけている。それでも返事がない。


「それではあの約束はなしでいいですね。図書館に行きたいので失礼致します。」


と言うと扉が開いた。


「俺も行く。」


それだけ言うと目の前で着替え始めた。私も自室に戻りエプロンだけ脱いで玄関で聡一様を待つ。

5分程経って階段から降りて来たので声をかける。


「聡一様、さあ行きましょう。」


「ああ。」


未だに目も合わさない。図書館は近いので歩いて向かう。途中で玲二様と出会った大きな公園がある。公園の中には噴水があり周りにベンチがあるので聡一様を連れて行く。


「さあ聡一様、座ってください。」


「なんでこんな何もない所で。」


今日はいい天気だけどまだ少し肌寒いので人がいない。


「お昼にしましょう。暖かいスープとサンドイッチを作ってきましたから。」


ベンチに持ってきたお弁当をひろげる。ハムチーズサンドとたまごサンドイチゴとホイップのフルーツサンドもある。スープはパンプキンスープで玲二様のお弁当も同じメニューだ。


「さあどうぞ。公園で手作りのお弁当って恋人っぽくないですか?」


「なんか微妙だけど。飯は本当に美味しいよ。」


「たくさん食べてください。」


聡一様は珍しく味わうようにゆっくり食べている。私もサンドイッチを食べてスープを飲む。晴れているので噴水が光を反射させてキラキラとしているのを眺める。

目の前を優しそうな雰囲気のおばあさんとおじいさんが通り過ぎる。


「まあ美味しそうなお弁当。料理上手な恋人を持ってお兄さんは幸せね。」


とても優しい声色で話しかけてくれるのに聡一様がこたえる。


「ええ、幸せです。」


とにっこり微笑むので仕方なく、私も微笑む。


「ふふ、じゃあお幸せに。さようなら。」


そう言って公園の近くのスーパーへ行ってしまった。


「お前笑えるんだな。」


「まあ大人ですから。」


「そうだよな。大人だもんな。」


そう言って遠くを見続けている。


「ああ、そうだコーヒー飲みます?」


「ああ、飲むよ。」


水筒のコップに暖かいコーヒーを注ぎ渡す。カフェオレにしておいたので優しい味だ。


「あー美味しい。ありがとう。」


「いいえ。どういたしまして。」


何も話さずただ噴水を眺めながらサンドイッチを食べているけど恋人としてのデートってこれで良かったのだろうか。

食べ終えて30分程経ったのでそろそろ図書館に移動したいのだけど、聡一様はまだぼーっとしている。


「聡一様、そろそろ図書館へ行きませんか?」


「へっ、ああ、そうだな。それ持ってやるよ。」


聡一様がトートバッグを持ってくれる。図書館までの間も一言も話さなかった。聡一様は本来、無口な人なのかもしれない。

しまった。図書館に行っても記憶系の本は見られないじゃないか。どうしようさらっと心理学の本を読んで帰るか。



図書館にいる間ずっと聡一様がそばを離れないとは夢にも思わなかった。結局、図書館に滞在したのは20分程ですぐに帰る事にしてしまった。聡一様は特に本を見る気はなかったようだった。ならなんでついてきたのか?


「お前、本借りないのか?」


名前が分からないから貸出カードは作れないなんて言える筈もなく。


「図書館で読むのが好きなんです。」


と苦し紛れで答える。聡一様はそうかと納得した様子でそれ以上は突っ込んでこなかった。



私と聡一様は公園でお弁当を食べ図書館に行って帰るというデートを何度か重ね続けた。


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