別に理解している訳ではない
「ねー、ヒートファン。暇だから何か直すもの無いのー?」
「あるわけ無いだろ」
「じゃあ、直してあげるから、壊しても良い? ちゃーんと直すから大丈夫だよ?」
「やめてくれ」
なんだか物騒な会話に聞こえない事もないが、この二人、ヒートファンとアンリペアラーにとっては日常的に繰り返される問答である。そもそも、二人とも機械であるのだから、実際にはそこまで物騒な話では無いわけだ。わざわざ直すために壊すというのは、色々と意味不明ではあるのだが。
「じゃあ、そこの人。壊してから直すね!」
ただ、このアンリペアラー最大の問題は、機械と人間の区別が出来ていない。自分自身が人間に近い姿をしているせいもあるのかも知れないが、そもそも違いがあると思っていないのだ。だから、生物であっても、自分の能力で直せると思っているし、直せなかったとしても、直せなかったものに対して何か思うわけでもないのだ。
「おい! やめ」
「いっくよー。混沌[アークボルト]」
ヒートファンの静止の声も聞かず、アンリペアラーの持つ溶接棒から電流が、偶然近くを歩いていた男に向けて、発射されてしまった。心臓なんか貫いてしまえばそのまま心停止だ。うまく逸れたとしても、重度の火傷は免れないだろう。
「なんですか!? 光術[バリア]」
だが、男はすばやく自分を囲むかのように障壁を張り、電流を防いだ。防げたとはいえ、不意を撃たれたのには違いが無く、微妙に動揺している。そして、その男の正体にヒートファンが気づいた。
「なんだ、お前か」
「なんだとはなんでしょうか!? 寿命が縮むような思いをしましたよ! 流石にあんなのを直撃してしまえば、わたくしでも死んでしまいます!」
ヒートファンの雑な反応に冷静になれない男、ロジクマス。魔王イニシエンの力によって悪魔となった元人間であるが、実は身体構造的には普通の人間と大差は無いのである。
「お前なら大丈夫だろ。アンリペアラーのおもちゃになれ」
「わたくし貴方の恨みを買うような事したことありましたか!?」
「ちゃんと直してあげるから大丈夫なのにー」
「貴方はもっと学習してください! 何も大丈夫ではありません!」
声を張り上げるロジクマス、おそらくこの二人に絡まれてしまったのが運のつき。ヒートファンは助ける気が皆無であるし、アンリペアラーは逃がす気が皆無だ。だが、そんな三人にのっそりと近づく人が居たが、誰も気づいていない。
「もーう、なんで壊れてくれないのー」
「らしいぞ、ロジクマス」
「だから、何度も言っているはずで……!? 光術[バリア]」
この三人に近づいていたのは、グネデア。眠そうな顔で腕を振り上げている。位置の関係的に2人よりも先に気づく事が出来たロジクマスは咄嗟に障壁を張る。そこでようやく近くに来ていた存在に残りの二人も気づくが、もう遅い。
「ガキ共がウルセェンダヨ! 技術[インパクト]」
グネデアは振り上げていた拳をそのまま地面に叩きつける。そして、発生した衝撃波によって障壁で守られていない二人は、どこかに吹っ飛ばされていった。
「グネデアさん。もっと穏便な方法は無かったのですか?」
「メンドクセェ」