世界が終わるその前に
今日で世界は終わります
皆さん、神に祈りましょう
起きてテレビをつけて見れば
宗教放送かと寝ぼけた意識のなか思った
それはいつものニュース番組で
詳しいことは不明だが
宇宙でなんやかんやあって、巨大隕石が地球へ向かってるそうな
いつも通り寝坊した私に残された時間は
あと二時間
余命二時間とはなんぞや
という事で現在に至る
私は本屋へと足を運んでいた
神より紙
それだけ本が好きな私は、本能的に本屋へ向かうのです
本だけに
いまのは無しでお願いします
我が生涯に一辺の悔いが残りました
外に出て驚いたのは、青い空の代わりにどす黒い隕石が一面を覆っていたのです
「梅干しみたい」
これが今日最初の発言です
恥ずかしくはありません
皆さんも見ればそう思うのです
見せられないのが残念です
街はパニックでした
どこへ向かっても結果は変わらないのに、車は避難しようと列をなしています
情報は人々を惑わし、地下鉄に行けば、頑丈なビルなら、昔の防空壕なら、助かるという
根拠のない救いが混乱を加速させていました
それなら、私の防空壕は本屋です
三十分かけて本屋に到着しました
「さすが店長、惚れるわ~」
ほぼ全てのお店が閉まっているのに
この本屋はやっている
自動ドアをくぐって中に入ると
「っしゃっせぇ~」
というやる気のないバイト並みの歓迎があった
これもいつも通りだ
レジカウンターには黒髪に眼鏡の若い男性
バイトっぽいが店長だ
「店長~!信じてたよ~!」
そう言いながら近づくと
「お客様、店内はお静かに」
普通に怒られた
「も~、最後くらい無愛想なのやめたら?」
「最後くらい普通の客でいてください」
ビシッと返される言葉は
頭をスッと通りすぎて行く
「いいじゃん別に、他に客いるわけないんだし」
「いますよ」
店長はそう言って店の奥を指差す
「うそ」
たぶん今日一番で驚いた
店の奥はゆっくり本が読めるようテーブルと椅子が並べられている
確かにここから椅子に座る人の後ろ姿が少し見えた
「えー、こんなときに本屋来るなんてバカじゃないの?」
「それは自虐ですか?それとも僕に喧嘩を売ってるんですか?」
「あ、もしかして」
そう言って店長を見ると
こちらを睨みながら溜め息をついた
「ずっとお待ちでしたよ」
「そうなんだ、そうかそうか」
なんだか嬉しくなった
「じゃあ私も本読みまーす」
そう言いながら奥へと進む、適当に一冊の本を持つ
『よく会いますね』
彼が言った最初の言葉は今でも覚えてる
『僕も本が好きなんです』
はにかむ彼はそう言いながら私の前にいつも座った
『あの人店長なんですか!?バイトさんだと思ってた、トイレいってきます』
これは覚えてるけど忘れよう
そして
『あなたは幸せそうに本を読みますね、そんなあなたが』
『僕は好きです』
これは忘れちゃいけない
私の最後はこの本屋で
神より紙
紙より
最期はあなたと
「あっ、店長」
「はい?」
「今までありがとう」
笑顔でそう言うと
店長はいつも通り
「ごゆっくり」
と返した