表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生は小説より奇なり  作者: ゆーいっち
第一章~未定~
9/21

第8話 【持たざる者の価値 2】

精神的外傷を負う事となった場所へと再び向かう、それは人の足を竦ませるには十分すぎる理由である。

同じ状況に陥る事は絶対に無いという確証があったとしても、歩みを進める事には大きな抵抗があるだろう。

かといって今後の生活の為に向かわなければならない事実が変わる事はない。

もっとも、他者の施しを素直に無償で受け取れる事が出来るのならばこの事態は回避できるのだが、男と言う生き物は無駄に変なところでプライドに拘るものなのである。



討伐した魔物の報酬を組合から受け取ると言う少女の提案ではあったが、何故もう一度その場所へと向かう必要があるのか尋ねてみれば、その理由はなかなかに興味深いものであった。


魔物はその生命活動を停止させた際、その存在と引き換えに魔結晶という物を残すらしく、それを組合に引き渡す事で報酬を受け取れる制度になっているとの事。

組合が引き取った結晶は更にそこから国へと流れ、王国お抱えの魔導士のみが使用できる門外不出とも呼べる魔法、それによって結晶から情報を読み取り、その個体の有用な部位を抽出する。

その後、それらを必要としている場所、あるいは人物へと金銭と引き換えに受け渡されると言う仕組みらしい。

経済に関して詳しくは分からない。

しかし何時の時代、どんな世界だろうと技術の独占による利益の確保というのは変わらない物なのだろう。


討伐依頼に関してだが、急を要する場合に限り組合が出すものである。

勿論、個人での依頼も有る様なのだが余程の事が無い限りそれを受ける機会はないらしい。

今回はそのどちらにも該当はしないが、基本的に魔結晶の買い取りは常にされている為、特に問題はないとの事だった。


魔物を討伐すれば金品、あるいはそれに準ずる物を残す。

かつていた世界とは全く違う、まさに自身の知る異世界転生物やゲームの世界での話ではないかと思ったがどうやら理由があるらしく、これもまた非常に興味を惹かれる内容であった。


大気中の魔素を呼吸により取り込み、それを練る為の器官を経てやがて魔力と成し、不必要な分は主に呼吸によって排出するというのがこの世界で生物が魔力を扱う仕組みである。

しかし生命活動の停止によってその呼吸が行われなくなる事は体内の魔力の残留を意味し、その結果行き場を失った魔力はやがて体組織を侵食、同化し、ついにはその個体を構成していた要素から生命だけを除いた一つの塊になる。

それを魔結晶と呼ぶらしいのだが結晶と呼ぶには何とも不気味な代物である。


「―――それって呼吸止めたらやばいんじゃないのか?」


結晶の正体もそうだが思わず口にしてしまう。

呼吸の停止とは何も死亡だけを意味する物ではなく、ひょんなことから意図的に停止せざるを得ない状況になる事も多々あるだろう。

魔力という未知の力が自身の想像からかけ離れた危険性を含んでいる事に、やはり現実の異世界という場所はそんなに都合の良い物ではないのだと痛感した瞬間だった。

もっとも俺には魔力、と言うより魔力を練る器官が存在しない為に気にする必要などはないのだが。


「そんなことないよ?魔力が身体を侵食するのには呼吸の停止だけが条件じゃないしね。詳しく話せば長くなるんだけど・・・あっ!そろそろ例の場所に着くよ!」


確かに少女の言う通りだろう。

問題があるのならばこの世界の生物の生存率が恐ろしく低い事になる。

どの程度の生物が存在し、どのように生活しているのか。

それらについて詳しくはまだ知らないが、少女の話から一定量存在する事だけは予想できていたはずだ。

冷静に考えれば分かる事ではあるが、やはり例の場所へと向かう事は少なからず俺の身体に異常をきたしていたのかもしれない。

あるいは未知の領域であるがゆえの杞憂であったのだろうか。

頭の回転がお粗末だから、という事ではないと思いたい。


浅慮であった自身の発言は若干の後悔の念を抱かせるが、突然の少女の叫ぶような声によって消え去った。


「社!社!ちょっと見て!イーリーウルフの死体が残ってるよ!」


討伐、つまりは死亡した魔物は魔結晶を残す、と聞いていたが少女の言う通り魔物の死体がそこには転がったままであった。


「間違いないな。俺が倒した奴だと思う。片目ないし」


「凄い!凄いよ社!王国お抱えの魔導士もいないのに!なんでかな?気になるなぁ!」


少女の興奮度合が凄い。

死体を見て興奮している、文字面だけ見るととんでもないサイコ野郎に思えてくる。

やはり異世界、この世界の人間の感覚はかつて居た世界のそれとはどこかズレているのだろうか。


「しかし参ったな。これだとその魔結晶?とやらを入手できないから金銭の入手は無理か・・・」


もちろんこの死体を必要とする者に売り渡せば金銭を得る事は簡単だろう。

しかし、王国お抱えの魔導士だか何だか知らないが魔物の素材を扱う事を独占しているという事からそれが危険な行為である事は容易に想像できる。

下手に売りさばいて目を付けられ、技術を奪われただの文句を言われるような立場になれば今後の生活に支障が出る可能性が高い。

最悪、国の利益を損なう行為とみなされ、反逆罪に問われ死刑になるなんてことも十分あり得る。

この国について、そもそも国が複数あるのかどうかさえ全くと言っていい程に知らないわけだが、それでもその程度は予想出来る。


「社は何を言ってるのかな?このまま素材として売却したらいいと思うよ?」


お前こそ何を言っているんだと心の中で返し、続く言葉を口にする。


「・・・まだ詳しくは知らないが素材の売買は国が独占している商売みたいな物だろ?それを害する可能性があるって事で違法、あるいは反逆みたいにとられたりしないのか?異世界生活の第一歩が犯罪者からのスタートとか勘弁してほしいんだが・・・実際の所どうなんだ?」


第一歩では語弊があるかもしれないが、自活する為という意味ではあながち間違いないだろう。


「確かにその可能性も否定はできないけど・・・この事態は非常に珍しい、と言うより恐らくは王国を除けば初の出来事なんだよ。過去に何人も魔物を結晶化させずに討伐しようと試みた人がいたんだけど全て失敗しているらしくてね。かくいう私もそこに含まれるんだけど・・・それはさておき、それならば、と結晶の解析、抽出を試みた人もいたんだけどそれも全て失敗。あ、勿論私も含まれるよ?それでね、挑戦する人が後を断たなかったらしいんだけど、それでも国がその行為を取り締まる事は無かったんだよ。それはつまり自分達以外に出来るはずがない、やれるものならやってみろって言う意思表明とも取れるよね?裏を返せば達成した事例を取り締まる事は国としての自信、あるいは威厳の崩壊を意味すると思うんだよ。結果として民衆の支持を失う事にも繋がる可能性が大きいからね。とは言ってもこれはあくまで想像でしかないから断言は出来ないけど処罰を受けると言った事にはならないと思うよ?結晶化しなかった理由も大体ではあるけど予想できてるから国の利益に損害を与える程、一般的に普及はしないって事も付け加えておこうかな?」


「・・・」


頭の回転の速い奴ほど思考をそのまま言葉に変換して話す事が出来る、というのが自身の経験則である。

あくまで経験に基づいた物であり、全ての人間がそうであるとは言い切れないが少なくともそのように感じられた。

魔導士という存在は皆がこうなのかという疑問を抱いたが今は関心を示す場所はそこではない。

結晶化せずにそのままの形を残した理由、大方予想が付いている事にこそ問題がある。


「普及はしないって事はつまり方法があるって事だろ?それこそ問題になるんじゃないのか?」


今回の件から検証を重ねていく事で、今後一般的とも呼べる方法が確立される可能性は十分にあるだろう。


「心配しなくても大丈夫だよ?だってこんな事は社にしか出来ないんだからね。もう予想できてるんじゃないかな?」


ここまで言われたのならばある程度予測は出来る。

魔力の存在を前提としたこの世界に於いて異端とも呼べる存在。

つまりは魔力が存在しない者にしか出来ないと言う事になるのだが、何か特別な事をした記憶はない。

それ以前に、死に物狂いで無我夢中であった為、あの戦闘の記憶など思い出せる物ではないのである。

結果に繋がる原因は分かったがその経過までは分からない。


「・・・わからんな。降参だよ」


言葉と共に両手を小さく上げ、少女へと視線を送る。

考える事を放棄したわけではないが分からないものは分からないのだ。


「社の立場で考えたら難しかったかもね?何も特別な事は必要じゃないんだよ」


正解を聞いてみれば、それは本当に何も特別な事を必要とはしなかった。

ただ魔物を倒すだけ、それだけであった。

口で言うのは簡単だが、実際には困難を極める事は体験済みである。



討伐した魔物の変化の有無。

魔法をその身に受ける事は他者の魔力を少なからず体内に取り込む事になるらしく、そこに理由があると少女は言う。

魔力と一括りに呼ばれてはいるが、それを練る個体が違えばその性質にも違いがあり、そんな異質とも呼べる魔力が体内に入れば何らかの影響を受ける事は想像に難くないだろう。

しかし魔力という物は主に呼吸によって体外へと排出されるという仕組みのせいか、命尽きるまでその限りではない。

では命を落としてしまった、つまり討伐された者にはどのような影響を与えるのか、となれば魔物が魔結晶へと成り変わる事実に辿りつく。


「―――つまり魔力の干渉無しで倒せばこうなるってことか?」


「そういうことになるね」


良く出来たメカニズムだと関心はしたものの今の知識では上手く活用する術など思いつかない。

それどころか今後生活するにあたって金銭を得る方法が失われてしまったのではないか。

知りたくもなかった事実が露呈したのだった。


「なぁ・・・これって詰んでない?」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ