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異世界転生は小説より奇なり  作者: ゆーいっち
第一章~未定~
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第7話 【持たざる者の価値 1】

狛上 社( こまがみ やしろ) 俺の名前である。

文字面からは神社の類いが連想できるが、それらに一切の所縁はない。

自分の名前の由来を調べよう、などと言う小学校の頃に出された宿題で調べた事があるので間違いない。

幼い、とまではいかないが自活出来る年齢になる頃には両親は他界。

血の繋がりのある人達は、存在を認識している程度の関係であった為、天涯孤独の身になったと言っても差し支えないだろう。

以前の世界に戻れないとは思うが、俺がいなくなったことに気が付くのはせいぜい職場の人間くらいだろうか。

迷惑をかけてしまう事には変わりはない。

しかしそれを心残りと呼ぶのはこの世界に対する興味と比較すると弱すぎる理由であり、今後その事について思い悩む事もないだろう。




「―――なるほど。つまり俺は一度おいてけぼりにされたわけだな?」


「う・・・だ、だって仕方ないよ・・・まさか魔力の存在しない人間がいるなんて思わなかったし」


曰く、転移魔法は一度対象を分解し、それらを移動する先で再構築するという原理から成り立ち、目的地に魔法を使う者が認識できる何らかの魔力要素が必要になる事を条件に発動する事が可能になるらしい。

難しい事は分からないがその魔法は魔力が身体を巡っている事を前提とするらしく、魔力の流れていない身体には無効、結果として俺は置き去りにされたらしい。

しかしそれは些細な事であり、最も重要視するべき点はそこではない。


「まぁそれはいいんだ。助けてもらってるわけだし感謝こそすれ文句なんかないよ」


「そっか。社はわざと意地悪な事を言ってからお礼を言うすけこましさんなんだね?」


「・・・なるほど。コマされた気分はどうかなお嬢さん?」


「ふふっ。案外悪い気分ではないかな?」


お互いだいぶ打ち解けたのか、随分と軽口を交わせる様になったものである。

最初に出会えた人間がこの少女で本当に良かったと言えるだろう。

それはさておき、ファンタジーの世界ならではの、もっとも重要な事を確認しなくてはならない。


「―――さて、俺には魔力を練る器官がないから自身で魔法を使う事は出来ない。そういう事か?」


「そうなる・・・のかな。厳密に言えば使用出来ない事に加えて他者からの魔力の関与も一切受け付けないって事になるよ」


心の中で抱いていた希望、夢、願い、それらの崩れ去る音が聞こえた気がする。

魔法とは、異世界転生を夢見る者、全人類にとって憧れの対象であると言っても過言ではない。

魔法が存在し、それを使用する事が当然のこの世界。

突き付けられた現実は自身の存在価値を疑う余地のない物へと変化させる。

魔法の有無以前に存在価値があるかと問われれば解答に困るが、やはり戸惑いは隠せない。

明らかに気を落とした様子を見た少女は励ますように言葉をかける。


「でっでもほらっ!社は魔法なんて使わなくても魔物を倒してたし私はすごいと思うよ!思わず見蕩れてたくらいなんだから!」


「・・・というか、あの戦い見てたのなら途中で助け―――」


「あっ!違うからね?見蕩れてたってそういう意味じゃなくて・・・その何というか・・・物珍しさ?とか・・・いや決して悪い意味とかではないんだけど」


相変わらず人の発言に被せてくる少女に悪気がないのは理解している。

しかし、やはり物珍しさ、つまりはこの世界で生きていく上で好奇の眼差しに晒されながら生活していかなければならないのか。

悩んだところでどうする事も出来ないだろう。

それにいつまでもこの少女の所で世話になる訳にもいかない為、自活できるように住居の確保、まずは金銭の確保が先決なのである。


長い時間少女と話し込んでいたおかげで金銭を得る方法については理解している。

この世界で金銭を得るのはそれほど難しい事ではないらしく、大金を手にして毎日豪遊、などといった事を望まなければ日々生活していく上で困る事はないとの事。

・・・俺が魔力を持ち合わせていない事を除けば、であるが。


基本的な手段は3つある。


①労働に勤しむ


これは魔法を前提とした世界であるが故に、その一切を使えない俺が職に就くことは不可能らしい。


②新たな魔法の開発、提供による報酬


論外である。

一応補足しておくと、新たな魔法の開発に成功し、それが有用だと認められれば国や教会に提供する事でそこから金銭による報酬を受け取れるらしい。

特許みたいなものだろうか。

俺には100%不可能なので詳しくは聞いていない。


③魔物の討伐、及び未知の生命体、土地の発見による報酬の受け取り


やはりと言うか、魔法が有り、魔物が存在する事からこの様な金銭の獲得手段は容易に想像できた。

ある程度人の集まる場所には必ず冒険者組合という物が存在し、そこに登録することで冒険者の資格を得る事が出来る。

一切の魔力を持たない俺が唯一就ける職らしい。


どうやらこれを軸に生活していくしかない。

しかしこの冒険者、当然の事ではあるがやはり魔法を前提とした物であることに変わりはない。

討伐するにも魔法、移動するにも魔法、何をするにも魔法、魔法、魔法。

タフルの森最弱種と言われているあの糞ったれな犬、イーリーウルフでさえまぐれで勝てたような物なのだが継続的に続ける事など出来るのだろうか。

元より適当な性格をしていた為に、案外いけるだろう、何とかなるさ、と流してしまった事は仕方のない事だと言える。

決してヤケになったからではない。


問題となるのはやはり、冒険者組合に登録する際の服装と自身の魔力についてだろう。

服装に関してのみならば寝間着に等しいとは言え、上着を羽織ればそれほどおかしな格好ではない。

しかし少女の服装から想像するに、それは恐らく異質と呼べるだろう。

魔力皆無という理由で好奇の目に晒される事になる上に、服装がそれに拍車をかける事は避けたい所である。

どこの人間だと尋ねられ、異世界人です、と馬鹿正直に答えれば最早変人扱いは必至である。

かと言ってこの世界の一般的な服を買う金もないわけだがどうしたものか。


「―――なぁ。俺の魔力、いや存在しない物ではあるんだが他者の感知から誤魔化す方法ってないのか?」


無い金を年端もいかない少女に無心するなど、プライドが許さない。

ましてやいい年迎えたおっさんである。

服装はこの際無視するとして、自身の魔力が存在しない状態を解決する方法を尋ねる事は必須条件とも言えるだろう。


「ん?んー・・・」


少女は少し考えた後、何か思いついたような顔をこちらに向ける。


「それならいい方法があるんだけど町に行かないと用意は出来ないかな。せっかくだし一緒にいってみない?私も色々と必要なものはあるし。あっ!ついでに社もこの世界の服装にしたほうがいいかも!」


この流れはまずい。

人の集まる町に行く事は今後の為にもなる。

買い物に行く事も問題ない。

むしろこんな美少女と一緒に買い物出来るなど御褒美以外なんだと言うのだろうか。

問題は無一文という情けない現実にある。

幼い少女のヒモの様な生活など男としてのプライドが許すはずなどないのだが、案外悪くないのかもしれない。

今後一緒に生活するわけでもないのにヒモと形容するのはそもそもおかしいのだが。


「ちょっとまて。知ってると思うが俺は金なんか持ってないぞ」


一瞬悪くないなどと考えた自分を戒めながら、大人として、男としてのプライドが勝利した言葉にはある意味予想通りの返答が待っていた。


「大丈夫だよ私持ってるから。早く行こう?」


魔力が物を言う世界に於いて、かつていた世界での考え方、つまりは大人の立場の様な物は存在しないのかもしれない。

少女は数少ない魔導士という立場であり、対してこちらはと言うと魔力も無い職も無いただの凡人、もっと言えばそれ以下の存在なのだ。

唯一少女より優れている事と言えば重ねた年齢のみである。

年齢が優劣を付ける基準になるかどうかなど言うまでもない。


だからと言ってこのまま少女の金で事を解決する事など出来はしない。


「いやいや待ってくれ。こっちの世界ではそれが普通なのかもしれんが、そこまで世話になるわけにはいかんだろ。ただでさえ恩返しが難しいっていうのにこれ以上借りを作るのはさすがに申し訳ないんだが」


「私は全然気にしないよ?」


この手の会話は相手の人柄にもよるが、大抵の場合こちらの意図を汲んで貰える事は少ないだろう。

等価交換という訳ではないが、何か条件でも出してくれた方が気を揉む必要が少なくて済むのだが、やはりこちらのその意図を汲んでは貰えなかったようだ。

だからと言って相手に非などあるはずもなく、むしろ無条件でこちらに良くしてくれているのだから感謝こそすれ文句など出てくるはずもない。

言ってみれば只の自己満足みたいな物なのである。

これ以上何を言っても結果は変わりそうになく、ここは少女の提案に乗るしかないかと諦めかけた時だった。


「あっ!いい事思いついたよ社!」


「社が倒したイーリーウルフの討伐報酬を受け取ればいいんだよ!それなら社も負い目を感じなくて済むんじゃないかな?」


「私も冒険者の資格を持ってるから私が討伐したことにして報酬を受け取るでしょ?そしてそのお金で必要な物を買い揃えればいいんだよ!そうすれば社も納得いくんじゃない?」


確かにそれならばほぼ自身の力で金銭を得る事が出来るだろう。

しかしその提案は代替え案とでも言えばいいのだろうか。

結局のところ少女の世話になる事には変わりないのだ。

物事に対して一々理由を付けては否定的になる。

捻じ曲がった性格が招いた思考は、早く出発しようと急かす少女によって消え去り、一度死にかけた例のあの場所へと足を運ぶ事となったのだった。




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