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異世界転生は小説より奇なり  作者: ゆーいっち
第一章~未定~
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第5話 【二度あることは三度ある】

一部グロテスクな表現有り

魔物と言えばファンタジーの世界。

モンスターと言い換えても良いだろう。

現実世界にもそれらに類似する存在を証明する証拠が数多くある様だが、虚偽の報告であったり捏造であったり、あるいは単なる見間違いなどといった場合が多く、その真偽の程は定かではない。

もっとも、それらの存在が確認されたという事実が発表されたところで実際に自分の目で見るまでは信じる事など出来るはずもなく、恐らくは遭遇する事さえなかったであろう。


しかしそれはかつての世界の話であり、今いる場所は異世界というファンタジーなのだ。

眼前に現れたその正体。

それは狼と呼ぶにはあまりにも異形な存在であり、まさに魔物やモンスターの類であると言えるだろう。


「なんだこいつは・・・」


殺傷能力の高さを一目で分からせる鋭利な爪と牙。

爪に至っては俺の知る犬類の物とは比較にならない大きさである。

四肢の筋肉も異常に発達し、見た者へとその膂力を理解させるのは容易であろう。

最も注目すべきはその顔の造りにある。

猿の顔の様な発毛をした犬の顔、とでも言えばいいのだろうか。

形容する言葉は他にもあるだろうが、不気味の一言に尽きる。


剥き出しの肉の様な嫌悪感を抱かせるその顔は怒りによって歪み、どう考えても穏便に事態を収拾する事は出来そうにない。

逃げ出した所で瞬く間に追いつかれ、その四肢に備える大きな爪が確実に命を奪うだろう。


ならば戦うしかないのだろうか。

一瞥でその戦闘能力の高さを認識できる相手へと戦いを挑む、ましてやこちらは生身の人間、勝てる算段など浮かぶはずもなく、それは自殺行為にも等しいと言える。


どちらの選択の先にも確実な死が待ち受けており、恐怖と焦りの感情は足を竦ませ、疲労による意識の混濁は思考を奪い、為す術がないと言う現実は、ただ立ち尽くす事それ以外を許さない。

ただ眼前の脅威に対して眺めている事しか出来ない状態は、違和感を感じるには十分すぎる程続いた。


「・・・?」


理由は分からないが、そいつは低い唸り声を上げているだけで、襲ってくる気配がない。

明確な敵意を持って目の前に現れた物だと思っていたが、今は様子を窺っている段階なのだろうか。

しかし、いつ襲い掛かってくるのかも分からない状況である事に変わりはなく、いつまでも膠着状態が続く保証はない。

諦めるのはまだ早いのではないかと言う希望が再び思考を巡らせ、ある結論に至る。


唸り声による威嚇のみで、排除しようという行動を起こさない。

つまりは警告であって、逃げればよいのではないか。


見当違いも甚だしい可能性があるが、現状それに縋る以外に手はなく、刺激しない様じりじりと後ずさりながらこの場を後にしようとしたその瞬間だった。

眼前のそいつは不気味な顔を更に歪ませ、強靭であろうその四肢による跳躍で襲い掛かってきたのだった。


「―――なんでだよ畜生!」


見当違いも甚だしかった。

何もかも諦め、死を待つばかりの瞬間に差した一筋の光。

しかしその先で待つのは再び迫りくる死の恐怖。

一連のこの流れに人は何を思うのだろう。

現状を嘆き、絶望を抱きながら悔恨の念と共に朽ち果てていく事になるのだろうか。

しかし俺の中から湧き出してくる感情は絶望には程遠く、重ねられた理不尽に対する怒りに満ちた物だった。


「―――ふざけんなよこの糞犬っ!」


怒りの感情は死に体だった身体を奮い立たせ、飛び掛かってくるそいつに向かって渾身の拳を振るう。

フィクションの世界であれば怒りによって尋常ではない力が宿り、相手を倒す事はよくある話だろう。

しかし今いるこの世界は現実なのである。

異世界と言う点において多少の疑問が残る余地はあるものの、空想などではないのだ。

都合よく逆転しましたなどという事は起きるはずもない。


振り抜く拳に手応えはなく、また自身の身体にも外傷が見当たらない所を見るとお互い空振りしたという事だろう。

素人同然である自身の攻撃が外れるのは理解できなくもないが、相手が空振りする事に多少の疑問を感じつつも、大きくバランスを崩した俺は前のめりに転倒する。

素早く振り返った瞬間、視界に不気味な顔が映ると同時に強烈な衝撃が身体を走る。

何をされたのかわからないまま、衝撃の勢いそのままに地面へと叩きつけられ、そいつは俺の身体へと伸し掛かり、鋭く大きな爪を両の肩へと食い込ませ、その不気味な顔から覗かせる鋭い牙で襲い掛かる。


この態勢は不味い。

馬乗りという物は厄介な代物なのだ。

対人戦なら対抗手段があるものの、相手は正体不明の謎の生物。

対抗手段とは言っても俺に格闘技の心得などはない為、相手が何であれどうしようもない事に変わりはなく、ましてや筋骨隆々の肉達磨、その膂力の前に人の力など及ばないであろう。


襲い来るその牙を前に、本能的に急所を避けるべく腕を差し出す。

当然、その腕はそいつの牙によって上下に挟まれる事となる。

鋭利な牙は皮膚、脂肪、そして筋組織を貫通、咬筋力による圧力は骨をも粉砕し、文字通り無残にも噛み千切られる事となるだろう。

しかし俺の腕が肉体から切り離されることはなかった。

川で洗った後、捨てるわけにもいかずに今の今まで持っていた上着が腕に絡みつき、その牙による進行を食い止めたのだ。

絡みつくと言っても、何重にもぐるぐる巻きになっているわけではなく、例えるならばせいぜい二つ折りにした上着が腕にたまたま掛かっていた、その程度に言っておいた方が表現としては正しいだろう。


そんな都合よく事が起こるはずがないのだろうが、そうなってしまっているのだからそうとしか言えない。

不運の連続とも言える状況に於いて、この程度のラッキーあっても良いのではないだろうか。


惨事は回避したものの、その牙は上着を貫通、そして皮膚へと至り、骨を軋ませ、窮地を脱するとまではいかなかった。

襲い来る激痛に耐えつつも残っている腕で攻撃を繰り出す。

当然ながら仰向けの態勢では効果は期待できない。

そもそも万全の態勢であったとしても効果があるのかは定かではないが、このままでは死を待つばかりなのは一目瞭然、何かしらの打開策を講じなければならない。


魔物と言えど大きく見開いたその眼は弱点とも言えるのではないだろうか。

生物である以上、感覚器官への衝撃は一定以上の効果が見込めるはずである。

命のやり取りの最中、グロいだの気持ち悪いだの躊躇している暇はない。

親指を中心に残りの指を全て密集させ、その先端をそいつの眼球へと向かって走らせる。


グチャッと言った気味の悪い音を指先から感じ取ると同時に、いかにも犬の類が発しそうな鳴き声が上がる。

片方の眼球を潰されたそいつは噛みついていた腕から牙を離し、仰向けである俺の身体を跨ぐ様にして距離を取ったのだった。

あるいはそのまま逃げだそうとしたのかもしれない。

その場を凌ぐ為だけならば、逃げる相手を追う必要はなかったのだろう。

しかし窮地を脱するための手段であった戦闘行為は、殺害する為の手段へと成り替わり、逃走の兆しを見せたそいつへと更なる追撃を見舞う。


「―――糞がっ!」


この世界の生物、魔物の類に雌雄の区別があるのか分からないが、一瞬とは言え目前に現れたそれめがけて拳を伸ばす。

その衝撃は人間の男性ならば激痛を伴い、身動きできなくなる経験を一度や二度ならば経験しているのではないだろうか。

握り潰す為、更には捻りを加えながら先ほどのお返しと言わんばかりに引き千切ろうと力を込める。

いくら魔物の類と言えど、生殖器への攻撃はひとたまりもないだろう。


再びグチャッと言う気味の悪い音と共に、それが潰れた事を感じ取る。

引き千切る事は出来なかったものの、効果覿面と言ったところだろうか。

そいつは蹲り、無様にも地面を這いずりながらその場を離れようとしていた。

殺戮衝動はとどまることを知らず、ノロノロと動くそいつへと止めを刺すべく次なる行動に移る。


生命活動を停止させるために取った行動は絞首だった。

目の前のそいつに呼吸器官が備わっているか、貧弱な人間の腕で動物の首を絞める事は可能なのか、脳への酸素の供給を止める事は死に至るのか、そもそもこの異世界に酸素という概念があるのだろうか、様々な疑問が挙げられるが、そんな事はお構いなしにそいつの背中へと被さる様に伸し掛かり、首へと腕を絡める。


所謂裸締めというやつである。

完全に決まったそれは脱出不可能という話を聞いたことがあるが相手は人間ではない。

しかし四足歩行という生物の身体の構造上、背面からしがみ付かれては暴れて振り落とす程度の抵抗しかできなかったのだろう。

次第に動きは鈍くなり、ついにはピクリとも動かなくなる。

万が一のことを考え、更に力を込めようとするが、死力を尽くした身体にその意思は及ばず、自然と腕はそいつの首から抜け落ちてしまったのだった。


もし息の根を止める事に失敗し、再び襲い掛かられたのならば今度こそ為す術なくやられてしまうだろう。

不安を感じながらも暫しの間、様子を窺うが動く気配はない。

ついにその未知の生物は生命活動を停止し、迫りくる脅威を撃退する事に成功したのだった。


命を奪ってしまった事への罪悪感の様な複雑な感情を抱きながらも、ある種の達成感を胸に、ひとまずの安堵を得た俺の耳へと再び足音が聴こえてくる。


二度あることは三度ある。

一度目は謎の体調不良、そして二度目は謎の生物との戦闘、そして三度目は如何なる脅威が待ち受けているのだろうか。

身も心もこれ以上持たない事は明らかであり、更なる脅威が現れれば為す術なくそれに飲み込まれてしまうだろう。

そんな不安がよぎった瞬間だった。


「―――やぁやぁお見事。まさか一切の魔力を使うことなく素手で倒すなんて驚いたよ」


誰だこいつは。

人間の様にしか見えないが。


「それにしてもどうしてこんな事をしていたのかな?」


「・・・と言うかあんた誰だよ」


「おっとこれは失礼。私の名前はレア・フリーゼだよ」


敵である事も考慮しなければならないが、会話ができるという事は今後の異世界生活への本当の意味での第一歩と言えるだろう。


「ところで君、どんな理由で魔力を隠してるのか知らないけど治癒魔法くらい使わないと死んじゃうんじゃない?血まみれだし」


その言葉を皮切りに、俺の身体は糸の切れた操り人形の様に地面へと無造作に崩れ去った。


「うわっ!ちょっとちょっと大丈夫!?」


その言葉は耳に届く事はなく、俺の意識は途絶えた。





―――二度あることは三度あるのだ。


戦闘描写は難しい

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