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再周回:Did you read "A" to "Z"……?:part FUSION

「す、墨子すみこ……!?」

倉田くらた先生、お願いします!」

「…………ああ!」


 墨子すみこに抱きしめられている。姉が来た。温かい。やわらかい。

 一体なんなのだろうか。全く理解が追いつかない。二人は何をするつもりなのだろうか。

 わからない。

 わからない。

 わからない。


ふうちゃん、ちょっとの辛抱だからね」

「え……?」

「……出てこい、すぐそばにいるんだろ」


 姉がどこかに向かって、呪文を唱えるようにそう言った。

 すると。

 墨子すみこに抱きしめられているその隙間から姉を見つめるわたしの視界の中に、幻覚あねが現れた。姉の隣に現れたそれは、驚いたような表情で姉を凝視した。


「……そこに、いるのか」


 わたしの視線の先から幻覚あねが立っている場所がわかったのか、姉は毅然とした様子で、隣にいる幻覚あねと対峙した。


『な、なんのつもりだ……!? お前なんか必要ない! 私一人で十分だ! 消えろっ!』


 幻覚あねが姉に殴りかかるが、当然幻の中の世界の住人が現実の人間とが接触することはない。幻覚あねの拳は、姉の顔をすり抜けるばかりだった。


「……いいか、よく聞け。お前の役目は、終わったんだ」

『な、なんだと……!?』

「……私の代わりに、いままで妹と……ふうと向き合ってくれてありがとう。……でも、もう十分だ。これからは、私自身がふうと向き合っていく」

『いまさら何を言っているんだ。もう遅いんだよ! これまでも、これからも、私があいつを導いていく! 地獄の果てまでなぁっ! あいつの行き先は既に決まっている。お前に道案内してもらう必要はない! お前なんかいらないんだよ!』


「……そう、お姉ちゃんなんかいらない。わたしを怒らせたお姉ちゃんなんか」


「……。……確かに私は、ふうの気持ちをないがしろにしてきた。ふうがくれようとしていた気持ちを……『愛情』を私は忘れていた。それと一緒に、嫌なものまで思い出してしまうから。……けれど、もう大丈夫だ。私は大切なものを……『愛情』を、そして『愛』を思い出した。たとえそれによって嫌なことまで思い出してしまうとしても……私は……いや、『私達』は、その何倍もの愛でもってそれを乗り越える。乗り越えてみせる。もう私は、昔の私じゃない。……本当は、こう言ってやりたい相手がいるんだが……どうにも上手く伝えられそうにない。だからお前に言う。ふうの一番近くにいたお前に」

『…………』


 幻覚あねは、どうしようか迷っている様子だった。


『……か、仮にお前がどうにかなったところで、何も変わりはしない。何も変えられやしない! お前が、あの出来損ないでわがままで凶暴なあいつを変えられるはずがない。そして変える価値もない。あいつは、この世界のガン! 切除されるべき害悪だ! そしてそんなあいつを抑えるためのルールは、この私だ! 見てみろ! お前に構ってもらえなかった。ただそれだけの理由で、関係ない善人が迷惑を被ることになった。少なくとも三人の人生が狂わされることになった! お前達と違って『愛』で結ばれていない二人が、将来うまくいくわけがない! ……いや、たとえその場だけうまくいったとしても、どうせクズみたいな関係だ。互いの精神を擦り減らし、共倒れするのがオチだろうな! そんなトラブルの元凶が、この世界にいていいはずがない!』


「……そう、わたしなんかがいていい世界じゃない」

「……お前、言っていることがめちゃくちゃだぞ。私の次は、私の大切な妹までも貶すのか。お前は何かを否定することしかできないのか。……昔の私は、そうやって否定することしかできなかったのか」

『なっ!』

「……っ!」


 虚をつかれたように、幻覚あねは目を見開いた。

 ……そして、そんなわたしも、また。


「私は、ずっといままで否定し続けてきた。……今は……お前のことを否定するつもりは、ない。昔の私はふうも、愛情も、否定していた。そしてお前は、ふうも、お前を生み出した私も、否定している。お前は、昔の私と一緒だ。だから私は、そんなお前を認める。どちらも同じ、『倉田邑くらたゆう』だ。……もうお前だけが背負うものじゃない。お前は……私だ」

『ああああああああああああああああああああああああっ!!』


 突然、幻覚あねが頭を抱えて苦しみだした。まるで、自身に入り込んでくるものを拒むように。


 次第に幻覚あねは粒になって、姉と融合した。


 そうして、幻覚あねという『過去』と、姉という『今』が一つになって、お姉ちゃんという『未来』になった。


「うぅ……うっ」


 急に、わたしの視界が歪んだ。大量の水滴を伴って。

 なんの前触れもなく。

 ……いや、前触れは……。


「うっ、うっ……。お姉ちゃん、墨子すみこぉ……」


 そこに、確かにあった。

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