サイシュウ回 前話:You read "A" to "2".
星花女子学園の学校祭「星花祭」がいよいよ始まり、クラス中がてんやわんやになっている木隠墨子です。人混みがひどくて、少し、苦手です……。
わたしのクラス、高等部二年一組はお化け屋敷をすることになっていて、わたしは衣裳製作を担当しました。なので当日の今は数名のクラスメイトと一緒に受付当番をしています。
目が回るような激動の三十分を過ぎようとしていた頃。
「木隠さん、交代ね、回りに行っていいよ」
「わ、わかりましたっ!」
受付を次の当番に任せて、わたしは楓ちゃんを探しに行くことにしました。
◆
「えーっと、楓ちゃんは……」
「クレープいかがですかー?」
楓ちゃんを探して学校を回っていると、出店をしているクラスから声をかけられました。
……そうだ、楓ちゃんと一緒に食べることにしましょう。
「えっと、それじゃあふたつ……」
「ちょっと! これしょっぱくて食べられないんだけど!」
わたしがチョコクレープを買おうとしたところで、後ろからすごい勢いで中等部の女の子に割り込まれてしまいました。
「え!? そんなはずは…………うげ! なにこれしよっぱい!」
「うわぁしょっぱ!」
「ご、ごめんなさい! 生クリーム作るときに、お砂糖とお塩間違えちゃった!」
「えぇ!?」
「すみません、すぐに新しいの作ります!」
あ、あれ……?
なんだか、あわただしくなってしまいましたね……。
「どうしよう。確か生クリーム追加してからもう一人、高等部の先輩に売っちゃったはず……」
「だったら早く探して謝ってこない……と…………」
「あれ、木隠墨子じゃん。どうよ、それからは」
「……あ、巣原さん」
「あー! そうそう、この人だった!」
「……ん? なんのこと?」
見ると、巣原さんの右手には三割ほど残った食べかけのクレープが握られていました。
「すみません先輩! 変なクレープ売っちゃいました!」
「お砂糖とお塩間違えちゃってごめんなさい!」
「食べられたもんじゃなかったですよね!?」
「……は?」
後輩三人の謝罪責めに、巣原さんは少し困惑しているようでした。
「砂糖? 塩? 変なクレープ? ………………あぁ、そういうこと。……いや、なんでもない。……うん、しょっぱいわ」
「そうですよね!? すぐに交換します!」
「……いや、別にいいや。ごちそうさま」
そう言う巣原さんは、笑っているような、泣いているような、なんだか不思議な表情をしていました。
◆
「楓ちゃん! ここにいたんだ……」
わたし達がいつもお昼ご飯を食べたり、なにかとよくいる本校舎の高等部の陰の、いつもの場所。そこに、小さなレジャーシートを敷いて楓ちゃんは座っていました。
「……どうせ、なんの役割も当てられてないから」
「あ……」
楓ちゃんのいる高等部二年二組は演劇を交えた桃太郎の紙芝居をしているのですが、楓ちゃんはそれに関して一切役割を与えられていません。
毎年のことです。
みんな、楓ちゃんに気を遣って。楓ちゃんを、トラブルに巻き込まないように。
……けれど、楓ちゃん本人はどう思っているのでしょうか。なんとなく予想はできますが、真意を知っているのは、楓ちゃん本人だけ。
「……楓ちゃん。お店、一緒にまわろう?」
「………………うん」
楓ちゃんはそっと立ち上がり、シートを一緒にかたづけました。
「……さてと。お昼になったら食べ物の出店が混んじゃうだろうし、今のうちにお昼を買いに行こう?」
「……わかった。…………墨子は、なにか食べたいものある……?」
「えぇと、わたしは……」
『楓ちゃんが食べたい』
「楓ちゃんが食べたい」