Who(Fu) needs you(Yu)?:part3
「……ごめん……な」
「…………?」
いままで聞いたことのない姉の声に、わたしは思わず布団から顔を出して姉の顔を見上げた。いつもの姉の声でも、幻覚の声でもないモノに、わたしは引き寄せられた。
「私は……お前を傷つけた……」
「……なにを、いまさら…………」
そう呟いたわたしに見せてきたのは、くしゃくしゃになったオレンジ色の折り紙だった。
「…………!」
わたしは驚いて上半身を起こし、折り紙を掴んで見つめた。
「……これ、覚えているか」
覚えているなんてものじゃない。
絶対に忘れもしない。この折り紙は。
「これって…………!」
「……ああ。昔、お前がくれたものだ」
「……まだ、持ってたんだ。捨てたと思ってたのに」
「……私もはじめは、捨てようと思っていた。『あの男』の言葉が心に居座っていて……この折り紙も、お前の気持ちを受けとる余裕もなかった」
「……でも」
「ああ。そのせいで、私は……」
「……今さら謝られても、わたしは許さないから」
「…………」
「……勝手にわたしを傷つけておいて、自分は勝手に幸せになるんだ」
「……それは」
「勉強も、運動も、生活も、なにもかも。全部、わたしの遥か上を行って。そして恋愛まで。……もう、これで、わたしがお姉ちゃんに勝てるものは完全になくなった。勝手に幸せに暮らせば?」
「………………」
「……なにか言い返したらどうなの。なんでも出来て、苦労なんて知らないお姉ちゃんなら、わたしを言い負かすことなんて簡単でしょ?」
「……私は」
「…………」
「……私は、お前にも………………いや、楓にも、幸せになってほしいんだ」
「……!」
「……私は、今まで散々楓のことを……。……だけど、今は……」
「おねえ……ちゃん………………?」
「すいませーん、面会時間おわりでーす」
「……また、別の機会に話す」
「………………わかった」
そう言い残して、お姉ちゃんは帰っていった。
なにを思って、なにを考えていいのかわからなくて、わたしは病室の窓から外の景色を眺めた。
太陽は既にビルの陰に隠れて、地平線の下に沈もうとしている。上空は、濃い青色が支配していた。まだ残っているアカネ色も、いつかは…………。
もうすぐ、夜が来る。クラナシの時間が、やってくる。けれど、やがてアサがやってきて、ユウ大な大地を光で満たして、昨日までの地球の記憶はフウ化していく。そうして一日が巡って、アスに続いてゆく。
その時、わたしはどうなっているのだろう。
お姉ちゃんは、もう一人じゃない。お姉ちゃんの隣には、生徒会長がいる。
わたしは…………。
『楓ちゃん』
……………………。
頭のスミっコで、声が響いた。




