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過ぎてしまった年月。

 ……木隠墨子こがくれすみこです!


 ふうちゃんのお父さんが、大変な苦労をして、大変な人になってしまったのはわかりました。

 ……でも、それと「ふうちゃんの傷」に、どんな繋がりが……。


「……当時大学生だった倉田麻子くらたあさこは、とあるゲームセンターで蔵梨大くらなしだいに出会った。偶然にも、倉田麻子くらたあさこはそのとき恋人と別れた直後で、一応人柄はよかった奴がその心の穴を埋めてくれるのではと感じ、のちに結婚。二人の娘を産んだ。それが……」

「……用務員の倉田くらた先生と、ふうちゃん…………」

「当たり。彼女は奴を心から愛し、奴も彼女を心から愛した。その証拠に、奴は今も昔も唯一彼女とのみ婚姻届を出した。ほかのどんな女性と結ばれてもね。奴にとって、彼女と二人の娘は特別な存在だった。だから決して失わないように、その周囲を堅牢なものにしようとした」

「堅牢な、もの……?」

「四人が住んでいた家の近所、娘の学校、倉田麻子くらたあさこが通っていた産婦人科。彼女の古くからの友人、親族、そして彼女の元恋人に至るまで。蔵梨家くらなしけに関係するあらゆる女性と結ばれ、周囲の平穏を保とうとしたんだ」

「そんなこと……」

「できるんだなぁ奴には。……あと家には監視カメラと盗聴器も仕掛けていたね。……だから、特にトラブルもなく幸せな家庭を装えていたんだ。倉田くらた先生に初潮が来るまでは」

「えっ……」

「……例外もまあそこそこいたけど、基本的に奴は結ばれた女性が産んだ子どもが初潮を迎えたら即座に襲って、またその子どもを産ませていたんだ。すぐにでも温かい家族を増やすために。倉田くらた先生も、その例に漏れなかった」

「ひどい……」

「でも、そこから綻び始めた。まあそれ以前からちょっと怪しかったんだけど。……奴の家族になった女性は十中八九奴の虜になる。だから自分の子どもが奴に襲われていても子ども自身は気にもとめないし、自分も『あらあらうふふ』で済ませてしまうんだ。……だけど、奴にとって特別だった倉田麻子くらたあさこ倉田くらた先生は、ほとんどその影響を受けていなかった。大切にしていたから、奴もあまり手を出していなかったんだろうね。それが、奴にとって裏目に出た。奴に襲われることに恐怖した当時十三歳の倉田くらた先生が倉田麻子くらたあさこに助けを求め、奴の所業に激怒した倉田麻子くらたあさこは奴を家から追い出し、その後二人は離婚した。……そして、倉田麻子くらたあさこは二人の娘を連れて自身の地元に移り住むことになったんだけど…………って聞いてる?」

「……ぐすっ……。そんな、ことがあったなんて……わたし、全然知らなかった……」


 涙が、溢れて止まりません。ふうちゃんが、そんな環境で生まれ育ってきたなんて……。


「……ここまではただの序章。本題はここからだってのに……。そんなんじゃ、耐えられないぞ?」

「……ぐすん。……いえ、大丈夫です。……続きをお願いします……!」

「……あそ。んじゃ、続きを……って、あちゃー、もう着いちゃったか」

「着いちゃった……?」


 話に集中していてよくわからなかったのですが……見回すと、ここは空の宮市内のとある住宅街にやって来ていました。


「ほら、こっちこっち。あんまり他の人に見られるとマズイから、さっさと行くよ」

「あっ、はい!」


 わたしは巣原すばらさんに導かれて、住宅街の一角にあるとあるマンションのエレベーターに乗り込みました。


「えーっと、一三◯二号室だから、十四階建ての……十三階っと……」

「……あの、これからどこに……?」

「ん? ……倉田楓くらたふうが育ってきた家で、彼女が壊された場所。……そして、過ぎてしまった年月を取り戻せるかもしれない場所」

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