世界が平和じゃなかったせいで男が性の権化に目覚めた。
木隠墨子です……!
道中、巣原さんがわたしに話しかけてきました。
「教科書には載ってないけど……。……かつて、世界各国の官僚から『救世主』と呼ばれた男を知っているかい?」
「いえ……」
「……それが、倉田楓の父親、蔵梨大」
「……すごい、人だったんですね……」
「……まあ、変な意味ですごかったよ。……奴は、そこそこ裕福な家庭に生まれた。割りと不自由なく暮らしてきた。そんな奴は中学生だった頃、家族揃ってとある発展途上国に青少年海外福祉ボランティアとして参加した。そこから、地球の運命は大きく変わった」
「……ずいぶんと、壮大なお話ですね」
「……規模が大きいのは事実さ。……奴がその国に滞在していた矢先、突然起こったテロをきっかけに、終わっていたはずの内戦が再び始まった。その結果奴一人を残して、奴の家族は全員死んだ」
「えっ……」
「なんとか生き延びた奴は、絶望した。前の日まで平和だったはずの村が、焼け野原と化していた光景を目の当たりにして。お世話になった村の人々も、大多数が爆撃に呑まれた。どうして自分だけが生き残ったんだ。奴はそう思ったはずさ」
「……」
「奴は考えた。自分にできることはなにかと。そして奴は気づいてしまった。『人手が足りないこと』に。そして『自分以外にも家族を失った人がたくさんいること』に。奴は……『家族を増やそう』と決意した」
「『家族を増やす』って……。……え? もしかして……」
「……ああ。奴は片っ端から、生き残った女性達と『結ばれた』。そして、奴の才能が目覚めてしまった。奴は人一倍『家族を増やす能力』が強かったんだ。……おかげで、村は恐ろしいスピードで再興した。それを見ていた他国の軍や役人が、次々と奴をヘッドハンティングし、世界中の衰退していた地域に奴を送り込んだ。……そうしているうちに、奴はいつしか『救世主』と呼ばれるようになった。奴の『人をシアワセにする力』は異常だった。だがその力は『世界平和』の名のもとに酷使され続けた」
「……」
「世界中を巡り、一通りその役目を終えると、奴は日本に帰国し、孤児院を開いた。奴は既に、温かい家族をつくることに執着していた。日本に戻ってきた今も、奴はその活動を続けている。今となっては、奴の家族が合計で何人いるかもわからなくなった。倉田楓の母親、倉田麻子に出会ったのは、そんなときだった」




