四ヶ月経過:ねえ、あなたの声が聞きたいの
木隠墨子です。
今日、また新しい年がやってきました。今日はご飯を食べてから、近くの神社へ二人で初詣に行く予定です。
「はい、楓ちゃんの分のお雑煮」
「……ん、ありがと」
前掛けを着けた楓ちゃんの前に置いたのは、例年より少しだけ手をかけたお雑煮。
楓ちゃんはよくお餅を喉に詰まらせてしまうそうなので、小さく小さくちぎって丸めたお餅を入れました。それと、楓ちゃんがむせないように、三つ葉を抜いて、薄めの味付けにしました。
「いただきます」
「いただきます」
……少し冷ましたけど、温度……大丈夫かな? 熱くないかな? 熱さにびっくりしてこぼさないかな? 火傷しないかな? 楓ちゃんの方を常に気にしながら、わたしも箸を進めます。
「……楓ちゃん、また……フォークの握り方、間違ってるよ……?」
「……ごめん。……こう、だっけ……」
「えっとね、そうやってグーで握るんじゃなくて…………」
そうして楓ちゃんに子ども用フォークの握り方を教え直すのも、いつもの風景です。
◆
初詣に行ってきた帰り道。わたし達の吐息が白くなっていることに気がつきました。
「結構冷えるね」
「……うん」
「やっぱり元日だったし、神社混んでたね」
「……うん」
「楓ちゃん寒くない? 大丈夫?」
「……うん」
「……そうだ、自販機で温かいココアとか買って帰らない?」
「……うん」
「……あ、楓ちゃん今日の夜ご飯はなにがいい? 食べたいものある?」
「…………シチュー」
「いいよ。がんばって作るね」
「……うん」
「……ねえ」
「……なに」
「楓ちゃんは、さっきなんてお願いしたの?」
「…………………………墨子が、幸せになれるように」
「……そっか。わたしも、同じだよ。『楓ちゃんが、幸せになれますように』って」
「…………。……ありがとう」
わたし達の願い事は、同じでした。
……言葉だけは、同じでした。
だけど、わたしは知りませんでした。もっと早く気づいていればよかったんです。
同じ言葉でも、意味は違ったんだってことに。
もっと、楓ちゃんの心の声を聞いておけばよかったんだってことに。




