X-5-5"バツ1:嫌いと好きは紙一重"
「じゃあ、六時くらいには帰ってくるから。腹減ったら、冷蔵庫の中にあるもの食って待っててくれ。……じゃあ、行ってくる」
「いってらっしゃい、おかーさん」
「…………」
私はしっかりと扉に鍵をかけて、家を出た。
パートが休みの今日は吉美と会う約束があるのだが、七時から小学校で楓の担任と面談があるため、あまり長居はできないな。
……あれから、吉美とは週一の頻度で会うほどになった。日頃の悩み事を聞いてもらったり、たった三ヶ月だったとしても幸せだったあの頃の思い出話に花を咲かせたり。
親が死んだ私にとって、もう、頼れるのは吉美しかいなかった。
今日は、吉美の知り合いが経営しているエステに行く予定だ。生まれてから、あまりそういう美容系の店には行ったことがなかったため、楽しみ半分、緊張半分といった気持ちだ。
◆
「じゃあ、六時くらいには帰ってくるから。腹減ったら、冷蔵庫の中にあるもの食って待っててくれ。……じゃあ、行ってくる」
「いってらっしゃい、おかーさん」
「…………」
きょーは、おかーさんとせんせーとわたしで、だいじなおはなしをするひ。でも、おそいじかんだから、わたしはいっかいげこーして、おともだちとあそびにいったおかーさんがかえってきてから、いっしょにがっこーにいくことになったの。
「……わたし、部屋にいるから。楓は勝手に遊んでて」
そういって、おねーちゃんはおへやにはいっていった。
……どうしようかな。
……のど、かわいたな……。
「おねーちゃん、じゅーすのみたい」
「自分で用意して」
どあのそとからおねーちゃんにたのんだけど、だめだった。
わたしは、しょっきだなからがらすのこっぷをだして、ぶどーのじゅーすをいれた。
「あ、こぼしちゃった……」
てぃっしゅ、てぃっしゅは……あ、むこーにあった。
「いたっ!」
てぃっしゅをとろーとおもったら、ろーてーぶるのあしにあしをぶつけて、ころんだ。こっぷがろーてーぶるからおちて、われて、ふたをあけたままのじゅーすのぺっとぼとるがたおれて、ころんだわたしにかかって……なきそーになった。
「うっ、うっ……」
「……いったいなに……? ……楓」
おねーちゃんは、あきれてるみたいだった。
「……ごめんなさい、じぶんでじゅーすのもーとおもったの……。おねーちゃん、ごめんなさい…………」
もう、なみだががまんできなくて、ないちゃったわたしに、おねーちゃんはいった。
「楓は不器用なんだから、余計なことしないで。そして邪魔をしないで。……お願いだから」
……え……?
じゃまなの……?
「じぶんでよーいして」って、おねーちゃん、いったのに……。
わたし、ひとりでやろーとしたのに。
よけーなことなの……?
「……そうやって」
「……?」
「そうやって、おねーちゃんは、わたしのだいじなものをぜんぶひてーするんだ。わたしがもらえないものがかんたんに、すてるくらいてにはいるから。……おねーちゃんにはわからないよ。なんでもできるかみさまには、わたしのきもちなんて。だから、おりがみのつるもぐちゃぐちゃにできるんだ」
「……わたし、もう誰も信じられないから。楓のことも。……お母さんも、楓も、二人ともどうせいつか、わたしを傷つけるんでしょ……?」
「……いいんだ、それでわたしがどんなめにあっても」
「うん」
「じゃあ……じゃあもーいーよ。おねーちゃんが、わたしの『しあわせ』をぜんぶ、ぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶとるなら。わたしも、おねーちゃんのこと……」
「……」
「だいっきらい!!」
わたしは、われたこっぷのはへんをつかんで、おねーちゃんに…………。




