X-5-4"バツ1:特別学級に移されるそうなのでお母さんに連絡を"
おねーちゃんに、げんきがない。
でも、おかーさんも、げんきがない。
「ふぅ……今月も、キッツいな……。パートのシフト増やしてもらうか……? いやいや、楓の学校が……」
ぺんをもって、ほんをみつめてうなるおかーさん。さいきん、かおのせんがふたえかも。
「おかーさん、げんきだして?」
このあいだは、おねーちゃんにつぶされちゃったおりがみのつる。おかーさんは、よろこんでくれるかな?
「ん、折り鶴か……。ありがとうな、楓」
よかった、よろこんでくれた。
「お前は、本当に良い子だな。……邑も、昔みたいに戻ってくれるといいんだがな……」
◆
「じゃあ倉田さん、ここ読んで」
「……はい。えーと『おひさまさんさん、すばらしいな。とんぼさんも……』……?」
「……あー、わかった。もういいです。次、久住さん」
「はい! 『おひさまさんさん、すばらしいな。とんぼさんもキラキラ。ビューティフル・ドラゴン・フライング』」
「……倉田、まだカタカナ読めねーのかよ」
「はいそこ、私語をしない」
「はーい」
「……」
いちねんせいのときからいのこりはあったけど、にねんせいになってからは、いのこりのじかんがもっとふえた。
じゅぎょーも、ほかのこにおいつけなくなってきた。
どうしよう、どうしよう。
◆
おひるやすみ、たんにんのせんせーに、いわれた。
「今度、お母さんを学校に呼んで、三人で今後の学習方針について話し合いましょう。……大丈夫です。いざとなったら、倉田さんだけの特別学級をつくって、そこで先生と勉強しましょう。一対一で頑張っていけば、みんなと一緒に卒業できますから」
「…………はい……」
むずかしいはなしだったけど、「とくべつがっきゅー」にはいるかもしれないのだけは、なんとなくわかった。
◆
そのひのよる、わたしはたんにんのせんせーにわたすようにいわれたぷりんとをおかーさんにわたした。
「……面談? この時期に珍しいな……。……次の火曜日、か……。その日は吉美と会う約束が…………いや、大丈夫だ。必ず行く」
「とくべつがっきゅー」のはなしだなんて、いえなかった。おかーさんに、しんぱいをかけたくなくて。
「……これ、捨てといて」
きゅうに、おへやから、おねーちゃんがでてきて、どあのまえにごみぶくろをおいたとおもったら、またおへやのなかにはいっちゃった。
「あ、おい邑! 他に言うことがっ……! ……ったく……」
そういっておかーさんがげんかんにもっていったごみぶくろのなかには、「ひょーしょーじょー」とか「めだる」みたいなのがいっぱいはいっていた。
おねーちゃんが、いつももってかえってくるもの。
わたしは、どうしてももらえないもの。
ほしいのに。もっと、いっぱい、ほめられたいのに。
ほめてもらえるものがいっぱいあるのに、おねーちゃんは、すてちゃうんだ。
おねーちゃんにとって、わたしがほしいものは「ごみ」なんだ。
わたしがどりょくしてももらえないのに。
おねーちゃんはなにもしてないのにもらえてる。
どうして?
おねーちゃんは「おねーちゃん」だから?
わたしは「いもーと」だから?
どうして、どうして。
どうして、お姉ちゃんは、簡単にわたしにとって大事なものを「ゴミ」にして捨てるの?
………………許せない。




