X-5-2"バツ1:私と吉美(もとかのじょ)。"
平日のある日。
私は楓を幼稚園に送ってから、とあるファミリーレストランに赴いた。
「いらっしゃいませー! 『ワクモリ屋』へようこそ!」
「……人と待ち合わせをしているんですが」
「あっ! ご予約の佐久間様のお席ですねっ! はい、ただいまご案内いたします!」
「あ、あぁ……」
若い女性店員に案内された席には、先客が一人。
「……久しぶりだな、吉美」
「……久しぶり、あーちゃん」
「その呼び方はよしてくれ。もう私達は……」
「……わかってる。でも、私にとって、あーちゃんはあーちゃんだから」
「……勝手にしろ」
「じゃあ勝手にするー」
私は呆れながら、元カノの向かいのソファに腰かける。
「……お前は、昔となにも変わらないな」
「えー? 変わったよー?」
「どこがだよ」
「母親になった!」
「……あぁ、電話でも聞いたな。いくつだっけか」
「今、中一。邑ちゃんと同い年だよ。名前は茜っていうんだー」
「……ん? 確かに電話で娘が二人いるとは言ったが、名前なんて教えたか?」
「えっ!? 言ってなかったっけ!?」
「……そうだったか? ……それよりも」
「……?」
「お前、既婚者なんだろ? なんで苗字変わってなかったんだ?」
「え、えーと、それは……。……その、ウチは、苗字変えてないの。ほら、このご時世、いろいろあるし!」
「……そうか」
「ねぇねぇ。……それより、今、どこに住んでるの? あーちゃんの家に遊びに行きたいなー」
「今か? 今は……。ん、悪い、電話だ」
突然、私のバッグの中で携帯電話が鳴った。この着信音は、楓の幼稚園からか。
「……もしもし、倉田です。…………はぁ!? 砂場で遊んでたら溺れた!? ……わかりました。すぐに行きます」
「……え、もう帰っちゃうの?」
「あぁ。迎えに行ったらパートの時間が近いしな。……また今度連絡する。じゃあな。あんまり昔みたいにぶりっ子すんなよ。私達、もう若くはないんだからな!」
「え、あ、ちょっと、まだなにも注文してないのに。……もー」
私は拗ねる元カノを尻目に、幼稚園へ急行した。
◆
あーちゃんがお店を出ていってしまったあと、私は携帯電話を操作して、通話ボタンを押した。
「……もしもし? ……やっぱり、あーちゃん地元に戻ってきてたよ。……大丈夫。すぐに住所聞くから。そしたら、もう一度『家族』の仲間入り……だね。……大」




