表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/60

X-4-1"about Ⅹ(テン)years ago:大・ハザード"

 大都市の、超高層マンションの一室で、男の怒号と、幼い少女の悲鳴と、女性の叫び声が響いていた。


「この……裏切り者の、出来損ないがぁぁぁっ!」

「あうっ!」

「やめて……やめて、あなた! 私のせいなの! 私の教育が悪かったから! 福絵ふくえはなにも悪くないのっ! だから殴るなら、私を殴って!」

正子まさこ、お前は黙っていろ!」

「きゃあっ!」


 男は黒い革製のバッグから名刺ケースを取り出し、女性の頭に投げつけた。その衝撃で、ケースに入っていた「泊李ぱくり出版 営業第二課 伴田正十郎ばんだせいじゅうろう」と書かれた名刺が辺りに散らばった。


「……私が何度言っても、一向にテストで満点を取れない。一流大学を卒業し、私のように一流企業に就職しろとあれほど言ったのにも関わらず、だ。それが、小学校の時点でつまずいているなんてな。私の期待外れもいいところだ。……福絵ふくえ、お前は今日限りで絶版だ」


 男が、その凶悪な拳を少女に降り下ろそうとした、そのとき。


「やめろぉっ!」


 男の知らない、別の男の声が、玄関から聞こえてきた。


だいさん!」


 玄関にその姿を捉えるや否や、女性は嬉々とした声でその人物の名を叫び、少女の手を引いて男の元を離れた。女性の手には、携帯電話が握られていた。


正子まさこ……。何者だ、その男は……」

「この人は蔵梨大くらなしだいさん。私達の救世主よ!」

「救世主、だと……?」

「……大切な家族に暴力を振るうなんて、それでも一家の大黒柱か!」


 謎の人物、蔵梨大くらなしだいは、女性と少女を自らの背後に匿って、啖呵を切った。


「あなたには、もううんざりしてるのよ! いつも仕事の付き合いで家に帰ってこないし、帰ってきたと思ったらこれ。もう耐えられない! ……でもだいさんは違う。私達親子に、『幸せ』を教えてくれた。なにも考えなくていい『快楽』の渦で、包んでくれた。私も、福絵ふくえも、心から気持ちよくなれたの。あなたの方こそ、絶版よ!」


 女性の言葉に、男はひどく激怒した。


「おのれ、私という最高の夫がいながら浮気に惚けるとは……。愚かだ……実に愚かだ。……『くらなしだい』と言ったな……。私の妻に手を出すとは……。これは許されざる罪だ」

「お前に許しを乞うつもりもない。正子まさこ福絵ふくえも、俺の家族の一員だ! ……二人とも、俺の孤児院に行くぞ」


 そう言い残すと、蔵梨大くらなしだいは少女と女性を連れて走り去っていった。



 ◆



「……ここが、パパの『こじーん』……」

「『孤児院』よ、福絵ふくえ

「今日から、ここで一緒に暮らすからな」

「ありがとうだいさん。あのDV夫から私達を救ってくれて」

「大切な『家族』じゃないか。助けるのが当然さ。……そうだ、ここの施設を案内……お、安子やすこ! こっちに来い!」

「はーい!」


 ガラス扉の向こうからやって来たのは、小さな少女だった。


「どーしたの、パパ?」

「紹介する。新しい家族の、正子まさこ福絵ふくえだ」

「わー! よろしく!」


 少女は、女性と少女に対して元気に挨拶をした。


「……あれ、明日菜あすなは寝ちゃったのか?」

「うん。ご飯食べたら、お腹いっぱいになっちゃったみたい」

「そうかそうか。じゃ、正子まさこ福絵ふくえの案内をしてくれないか?」

「いーよ! ……ねぇねぇ、『ゆう』と『ふう』は、まだこっちに来られないの?」

「んー。まだ『その日』が来てないからな。『繋がる』のは、まだ早いんだ」

「そっかー、残念」

「しゃ、案内よろしくな」

「はーい! 二人とも、行こ?」


安子やすこ」と呼ばれた少女は女性と少女の手をとり、奥の方へと消えていった。

 去っていく三人を見送ると、蔵梨大くらなしだいは近くの窓を開けて、声を高々にして言い放った。


「俺と『繋がれる』人間は、みんな俺の家族だ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ