X-3-2"X days:ゲームセンターに出会いを求めるのは間違っていたのだろうか"
「「かんぱいー!」」
「かんぱーい」
「あえー!」
邑と大が大きな声を出しながらジュースの入ったグラスを打ち鳴らし、私がやや遅れ、なぜか楓も声を上げた。
今日は、私と大の結婚記念日……というよりも、大が役所に婚姻届を提出した日だ。当時の私は、大学のレポートの締め切りが迫っていたため、大が一人で役所に行った。
「んー! お母さんのたくあん美味しー!」
「おいおい。せっかく作ったんだから、他のものも食えよ」
「わかってるわかってる! ……ねぇねぇ、『けっこんゆびわ』見せて!」
「あぁ? ……ったく、ほらよ」
私は持っていた食器をテーブルに置いて、左手の薬指に嵌めている結婚指輪を見せた。
「きれー! ねぇねぇ、お父さんは?」
「えっ」
「お父さんのも見せて!」
「……ほら、お前も見せてやれ……って、着けてないのか?」
大の手を見ると、その指にはなにも嵌められていなかった。
「お父さん、着けてないの……?」
「い、いや、外してるんだよ。普段は……ほら」
そう言うと、大は寝室からいつも使っているリュックを持ってきた。そしてその中からは、濃紺のケースに入った結婚指輪が出てきた。
「孤児院で働いていて連日連夜寝泊まりするようなことが多いから、いろいろあるんだよ……」
「……いろいろってなんだよ」
「ほら、子どもがオモチャにするといけないから……」
「……そうか」
できれば、常に身につけていてほしかったのだが……それは私のワガママか。
「ねぇねぇ、それ貸して!」
「あ、おい……」
言うが早いか、私達から二つの結婚指輪を奪った邑は、大が持っていた方を自分の指へ、そして私が嵌めていた方を楓の指にくぐらせた。
「見て! わたし達もキラキラー!」
「……そうだな」
私の小さな願いは、邑の輝くような笑顔に掻き消されていった。




