X-3-1"X days:冴えてる娘の育て方"
「くそっ、こんのっ……」
「はぁぁぁぁぁっ!」
『\Winner! ユウ!/』
「はぁ、はぁ……。またかよ……」
「やったー! お母さんに五連勝っ!」
十二月のとある日曜日。冷えそうな体を温めるために、私達親子はコントローラーを両手に持って対戦するパンチングゲームで遊んでいた。なお、私は絶賛五連敗中だ。いつの間にかゲームまで上手くなりやがって……もう私が勝てる分野がほとんど無くなってきている。邑の器用さは、どこまで伸びていくのだろうか。悔しいが、同時に楽しみでもある。
「よし、少し休憩するか。楓にメシやらないといけないしな」
「……お母さん」
「……どうした?」
「……お願いがあるんだけど……」
「……なんだ? この間も言ったが、お前には飲ませないぞ」
そう伝えて、楓の眠るベビーベッドへ向かう。
「違うの! わたしが……わたしが楓に飲ませてあげたいの!」
「……はぁ?」
思わず、そんなすっとんきょうな声が出てしまった。
「わたしも、楓のお世話したい!」
「お前なぁ……」
……なるほど、妹が生まれてかれこれ一年以上が経った。母性本能がくすぐられる、という奴か。私も昔、オフクロのおさがりの人形を使って、よくままごとをしたものだ。
「お前にはまだ早い」
「大丈夫! わたし、最近いろいろできるようになってきたから!」
……さすがにそれは、器用になったからといってどうこうできる話じゃない。
まったく……。無理だと分かれば諦めるか。
「……悪いな楓。ちょっとだけ、姉ちゃんのワガママに付き合ってやってくれ」
私は楓を抱え、絨毯の上で正座して待機中の邑の腕にそっと抱かせた。
「……やれるモンならやってみろ。私が見といてやる」
「うんっ! ……ほら、楓。お姉ちゃんのおっぱいだよー」
誰の真似だそれは。
邑は、まだ全く発育の進んでいない自身の胸に楓の顔を近づけた。
「……飲まないよ?」
「当たり前だろ。これは私の特権だからな」
私が必要以上に胸を張って答えていると、邑の腕の中の楓が動き出した。
吸い付いたのだ。
「ひうっ!?」
突然の楓の行動に、邑は思わず情けない声を出した。
ちゅぱちゅぱと、出るはずのない邑の母乳……いや、姉乳を必死に吸おうとする楓。おい、気なんか遣わなくてもいいぞ。
「くっ、くすぐったい……」
……娘よ。
どれだけ器用になっても、出来ないこともあるんだぞ。




