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X-2-2"麻子×邑:不器用っ子。をプロデュース"

 日も落ち始めたこの時間。私はふうを抱いてゆうと手を繋ぎ、近くの運動公園へやってきた。


「ほ、本当に今からやるの、お母さん……」

「何言ってやがる。当たり前だろ? ほら、まずは準備体操だ」


 準備体操をして充分に体を温めてから、いよいよ走る練習だ。


「いいか? 向こうの木の下まで勝負だ。……よーいドンって、お前が言っていいぞ」

「い、いくよ……。よーい、ドン!」


 娘の合図と共に、念のためにふうの頭に左手を添えて私は走り出した。

 少し経ってから振り返ると、ゆうはまだまだ後ろの方にいた。


「おら遅いぞ!」

「ま、待ってよ、お母さん……!」


 不器用というか、運動音痴というか。五十メートルもいかない所で、ゆうは音をあげた。


「お母さん、速すぎ……」

「なに言ってんだ。一年前まで妊婦だった人間に負けるのか?」

「そ、そんなこと言ったって……」

「見返すんじゃないのか?」


 その言葉に火が点いたのか、ゆうのスピードが急激に上がった。


「その調子だ。私についてこられるか?」



 ◆



 ぶっ続けで走って三十分ほど経過した頃、後方からズザッという音がした。見ると、ゆうが転んでうずくまっていた。


「大丈夫か?」

「うぅ……」


 どうやら、膝を擦りむいたらしい。


「……今日のところは、これで終わりだな。おぶってやる。……乗れるか?」

「うん……」

「また明日もやるぞ」

「えー……」



 ◆



 ゆうの傷口に消毒綿をあてて絆創膏を貼ってから夕食の準備をしていると、だいが帰ってきたため、久しぶりに家族揃って私の手料理を食する。


「んー! お母さんのたくあん美味しいー!」

「婆ちゃんの作り方を真似してるだけだっていつも言ってるだろ? あとゆう、お前一人で全部食うな」

「父さんの分も残してくれよ?」

「はーい。……お母さん、これからもずっと作ってね?」

「やだよ。私はお前の料理人じゃねぇ。舌で覚えて、自分で作りやがれ」

「えー……」

「……そうだ。今日聞いたんだが、ゆうが同じクラスの男子にいじめられてるみたいなんだ」

「……わたしのこと、『大麻の娘』って言うの……」

「『大麻の娘』? ……あぁ、なるほど。……その子、なんて名前なんだ?」

釜桐かまきりさんとこの零士れいじさんだ」

「ふーん……。……なぁ、釜桐かまきりさんって、確かシングルマザーだったよな?」

「そうだか? なんかあったか?」

「いや、ちょっと気になっただけさ」

「……そうか」


 話が一段落した直後、ベビーベッドに寝かせていたふうが泣き出した。こいつもご飯の時間か。

 私は食卓から立ち上がり、ベビーベッドの横へ行って自分の服を捲り上げる。


「よーし、ちょっと待ってろよ……」

「あ! わたしも飲んでみたい!」

「俺も飲みたいな」

「ダメに決まってんだろ。一昨日来やがれバカ父娘おやこ


 だいの言っていたことも気になったが、とりあえず愛娘に授乳するひとときに浸ることにした。

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