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X-2-1"麻子×邑:君の名が。"

 ゆうが小学三年生になったある日のことだった。


 家に帰ってくるなり、出迎えた私に泣きついてきたのだ。

 普段はほとんど泣く姿を見せないため、私は何事かと思い、理由を聞いてみた。


「おい、一体何があった?」

「ぐすっ……。釜桐かまきりが、わたしのこと『大麻の娘だから、危ない奴なんだ』って言ってきた……」


 釜桐かまきりとは、今年クラス替えで同じ学級になった釜桐かまきりさんとこの息子のことだろう。


「大麻……?」

「……お父さんとお母さんの名前を合わせたら、『大麻』になるんだって」


 ……なるほど。漢字やニュースを理解し始めた頃の子どもなら、思いつきそうなことだ。しかも、いじる所が元々気にしていた名前に関してか……。


「……なぁ、ゆう。お前はそう言われて、どう思う?」

「……え?」

「確かに、お前は『大麻の娘』だ。……けどな、だからといって、お前はなにか悪いことをしたか? そうじゃないだろ? ……いいか、よーく聞け。私の前では、いくらでも泣いていい。私は、お前が泣いていたって迷惑しない。大歓迎だ。……でも悲しいが、私はいつまでもお前のそばにはいてやれない。私がいなくなったときにいつまでも泣いていたら、お前は格好の餌食だ。そうはなりたくないだろ?」

「う、うん……」

「そこでもう一度聞く。お前は何がしたい?」

「……見返したい。わたし、危ない奴じゃないもん!」

「そーかそーか。じゃあ、一ヶ月後の運動会で大活躍しろ」

「運動会……?」

「あぁ。運動会でチームの勝利に貢献すれば、バカにされることもなくなるだろ? 誰も『危ない奴だ』なんて言わなくなる」

「そうだけど……。わたし、あんまり運動得意じゃないし……」

「私が練習に付き合ってやる」

「お母さんが……? ふうも見ないといけないのに、大丈夫なの……?」

「はっ。私を誰だと思ってんだ。お前ら二人の母さんだぞ。かわいい娘のためなら、なにも怖いもんはねーよ。……もし、それでもダメだったら、私かだいが名前を変えてやる。それでいいか?」

「……うんっ。がんばる!」

「よーし。そうと決まりゃあ、これから徒競走の練習するぞ」

「えっ、今から!?」


 戸惑うゆうを尻目に、私は抱っこ紐を持ってきて出かける準備を始めた。

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