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Bed outside

 綺麗に並べられた、ラックの中の本。ラックの上にのせられた、雑貨類。これらは全て、わたしの私物です。

 繊維の密度が高いカーテンは光を遮り、僅かに隙間から漏れた街灯の光だけが、儚げに差し込んでいます。


 今日も、新しい朝がきました。僅かな希望にすがる朝です。


 天井は、今日もいつも通りです。


 壁も、今日もいつも通りです。


 隣で可愛らしい寝息をたてている(ふう)ちゃんも、いつも通りです。


 いつも通り、裸です。


「あぁ……やっぱり……」


 残念ながら、朝の凄惨な光景もいつも通りでした。


 (ふう)ちゃんは、極度の不器用さんです。

 そのせいか寝相も悪くて、いつも寝返りをうつ度に着ている衣服を破いてベッドの外に捨ててしまい、服代でいつも困窮しているそうです。あと、居眠りもできないって言ってました。人前で裸を晒すことになるからって。


「だったら最初から裸で寝たらいいのに」とは、恥ずかしくてとても言えません。本人が気づくのを待ちます。


「片付けておこうかな……。あ、でも自分で始末するって言ってたっけ……」


 ベッドから出て、床に散乱している物を拾おうとパンツに手を伸ばした時、(ふう)ちゃんに言われていたことを思い出して、やめました。


 わたしは部屋のドアノブ回して、廊下に出て、右へ進み、階段を降りて、階段の横へ。そして右の扉のドアノブを回して、リビングダイニングへ出ます。

 腰辺りまで伸びた髪をゴムで束ねて、まずは朝ご飯の準備を始めます。

 食パンを二枚オーブントースターに入れてスイッチオン。食パンを焼いている間にフライパンをガスコンロに乗せて火を点け、少し温めたらバターを落として広げ、ベーコンと卵を焼いて蓋を。トマトとレタスを軽く水洗いしたら食べやすい大きさに切ってボウルに盛り付け。ちょうどベーコンエッグが焼けたから仕切り付きのプレートに乗せて、トーストが出来上がったからオーブントースターから取り出し、プレートのもう一つのスペースに。

 次は電子レンジに水を注いだマグカップをかけて、ちょっと待ちます。


 電子レンジがチンと鳴った直後、廊下からものずごい音がしました。理由は、なんとなくわかりました。

 廊下に続く扉へ視線を向けると、数秒後に(ふう)ちゃんが出てきました。いつも通り、ボロボロです。


「おはよう」

「おはよう、(ふう)ちゃ……。今日も悲惨……だね……」


 同居人の(ふう)ちゃんのあいさつに答えて、その姿をまじまじと見てしまいます。


 パンツと、ビリビリに引き裂かれた上にゴムが切れたパジャマのズボンを片手に持ち、下半身は何も身に付けていなくて、同じくビリビリに引き裂かれたパジャマの上着がギリギリ隠すべき場所を隠している。そんな(ふう)ちゃんの姿に、毎度のことながら驚きを隠せません。


「それもこれも全部……全部全部全部全部全部全部全部全部全部……お姉ちゃんのせいだぁァァァァァ-~/3/」’!?_…「26?7・,」?##@っ!!」


 (ふう)ちゃんが叫びながら空いた手で壁を叩いた刹那、(ふう)ちゃんの手首からゴキッと変な音が聞こえてきました。



 ◆



「まだ……ヒリヒリする?」

「……もう、大丈夫」


 そう言ってはいるけれど、(ふう)ちゃんの目は潤んでいます。


「でも……」

「大丈夫」


 わたしの言葉を遮るように強く言い放って、(ふう)ちゃんはベーコンエッグにこども用のフォークを突き刺しました。(ふう)ちゃん、不器用だから箸が使えないんですよね……。


「でも泣いて……」

「泣いてない」


 また強く言い放って、(ふう)ちゃんはココアに差したストローに吸い付きます。(ふう)ちゃん、不器用だからマグカップやコップで直接飲んだらこぼすんですよね……。


 約一年間こうやって同棲してきて、少しずつですが(ふう)ちゃんの出来ることと出来ないことがわかってきました。

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