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Kissing day

「フウウゥゥゥァァァァァッ!」


 憎い、憎い。

 憎い憎い憎い憎い憎い憎いっ!


「死ねえぇぇぇっ!」


 わたしは、大嫌いな姉に鉢合わせしてしまった。自分の通っている高校と、怨めしい相手の勤務先が同じというのは、やはり少々無理しすぎただろうか。


 わたしは、その日の授業で使った彫刻刀を鞄から取り出し、力の限り投げた。


 けれど、わたしはなにをしても不器用だった。


 投げたうちの二本は弱々しく姉の足下に転がり、次の二本は姉の体に突き刺さる直前に華麗な手さばきによって受け止められた。

 これで、姉の両手はふさがった。

 わたしは残った最後の一本を渾身の力で振りかぶり、放り投げた。

 しかしわたしの企みは外れ、姉は一歩左にずれてそれを難なく交わしてしまった。刺さる標的を失った彫刻刀は、無駄に遥か遠くへ飛んでいってしまった。


「……」


 冷静な姉の表情。なんだか蔑まれているみたいで、耐えられなくて。


「アァァァァお姉ちゃんのバカァァァァァッ!」


 わたしは、逃げ出した。



 ◆



 少しだけ平静を取り戻し、ふっとばしてしまった彫刻刀を求めてわたしがやって来たのは、人気のない、高等部の校舎隅。


「…………あ」


 数メートル先に例の彫刻刀を見つけ、駆け寄る。


 すると。


「あっ……」


 植木の根に足を引っかけ、前の夜に降った雨によって形成されていた泥だらけの水溜まりに、顔からダイブ。


 不器用ゆえに受け身がとれなかったわたしは、水溜まりの底に頭を強打し、気絶したまま顔を水溜まりに沈めることとなった。



 ◆



「げほっげほっ!」

「あ、起きた……」


 温かくて柔らかい感触ののち。わたしは、咳き込みながらも目を覚ました。


 立っていたのは、わたしとは比べ物にならないくらい長身で、スラッとしていて、まるでモデルのような肢体を持つ女子だった。いや、もしかすると本当にモデルをしているのかもしれない。


「……ねぇ、あなたが助けてくれたの」


 わたしはとりあえず、明後日の方向を向いている彼女に声をかけてみた。


「……え、その……」


 返事からするに、存外会話はそこまで得意ではないようだ。


「……ありがとう」


 わたしはとりあえずお礼を言って、立ち去った。

 落ちていたはずの彫刻刀は、いつの間にか消えていた。しかし、わたしは数分後に五本全ての彫刻刀が鞄の中に入っているのを見つけることになる。わざわざそれらを返しにきた人間は誰か……考えないでおこう。イライラする。


 ……それにしても、わたしを人工呼吸で助けてくれた彼女。

 いくら倒れていたからといっても、普通人工呼吸なんかするだろうか? 血気盛んな人間ならもしかしたらするかもしれないが、彼女はそういう人間には見えなかった。


 と、なれば……。


 彼女は、わたしの逃げ場所になってくれるかもしれない。

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