JK's law
木隠墨子です。
電子音のアラームが、わたしの頭を覚醒させます。
「……朝、か……」
枕元のスマホに手を伸ばし、アラームを止めます。
目覚めしから通常のロック画面に切り替わると、表示されたのは、現在の時間と、今日の日付。
九月の、第一土曜日。
ちょうど一年前の今日から、楓ちゃんとわたしは一緒に暮らし始めました。
けれど、わたし達の出会いは、その数ヶ月前に遡ります。
◆
当時、高校一年生になって間もなかったわたしは、放課後を使って高等部の校舎でゆっくり落ち着ける場所を探して歩き回っていました。
「やっぱり、今日はやめた方がよかったかな……」
その日は、前日の雨で地面がぬかるみ、至るところに水溜まりができていました。
「……ここなんか、いいかも」
なんとか見つけたのは、高等部の校舎の隅、植木が目隠しになって周囲から隔離されたそこは、静かで、とても居心地が良さそうでした。
人と話す勇気がでなくて、話し相手のいなかったわたしは、こうやって一人になれる場所が必要でした。
「あれ……?」
植木の根本に、なにかが落ちていました。
近づいてみると……。
「ひ、人!?」
ここの制服を着た小さな女の子が、うつ伏せで倒れていました。
「え、えっと……あの、大丈夫ですか?」
駆け寄って声をかけてみると、その女の子は、水溜まりに頭を沈めているのがわかりました。
「し、しっかりしてください!」
頭を水溜まりから出し……え、この子軽い……。頭を水溜まりから出して仰向けで寝かせると、泥まみれの顔が、現れました。
「え、えっと……とりあえず、顔拭かないと……」
わたしは持っていたハンカチで顔の泥を拭きます。女の子が、起きる様子はありません。
「ど、どうしよう……」
「……どうした」
そこに現れたのは、青いツナギの女の人。確か、用務員の……。
「あの……この子水溜まりで溺れていたみたいで……全然息をしていないんです……」
「この子……。あぁ……」
女の子を見て何かに納得したような感じの用務員さんは、片膝をついて……。
「えっ!?」
女の子の顎を上げて、人工呼吸を始めました。
しばらくすると、用務員さんは顔を上げます。
「もう大丈夫だ」
そう言って立ち上がります。
「えっ、行っちゃうんですか?」
「……そいつは私の妹なんだが、私を嫌っているんだ。だから、あまり顔を合わせるわけにはいかない。破ってはいけない決まり、暗黙のルールみたいなものだ」
「げほっげほっ!」
「あ、起きた……」
咳き込んだ女の子に気をとられていると、用務員さんは既にいなくなっていました。
「……ねぇ、あなたが助けてくれたの」
むくりと上半身を起こした女の子は、そう聞きました。
「……え、その……」
「……ありがとう」
わたしがどう答えていいか戸惑っていると、女の子はゆっくりと立ち上がり、スカートの汚れを払って去っていきました。
少し、勘違いをされてしまったみたいです……。




