お前は黙って魔物の餌役
「ふむ。こりゃヤバイな…」
先程までは迷宮の洞窟内であった。
しかし、神を喰らった後、なぜか視界が暗転。いや、宇宙空間に居た。
そして、星の引力に引かれて落下し始めていた。
だけど、彼はその程度で終わる人間ではない。咄嗟に魔法を使用して引力から逃れようとした。が、魔法が使えなかった。
その原因を確かめる為にステータスを開こうとした。が、それも出ない。
鑑定も出来ず、機械の体に頼る事になった。
落下と衝撃に備えて、身体の造りを変えようとした。だが、出来なかった。
ならばと、【無限収納】を使おうとしたが、使用出来ず、両手を見て身体の確認して愕然とした。
すぐさま冷静に戻ったものの、手の打ちようがなくなり、半ば諦めを覚えた。
なにせ、身体の機能すら確認できなかったのだから。
しかし、機械の身体自体はなんら問題なく動く。
おそらく、神を一人喰べたからだろう。一時的な物だろう。そう彼は結論付けて、地上に到達する時間を計算する。
約15秒。
それまでに出来る対策は、無し。
ネモ達への通信も途絶しており、対策の一つもありはしない。
だから、片足犠牲の覚悟での着地になる。いや、墜落と言っても過言ではない。
彼は、引力に引かれるがまま青い青い、地球のような惑星に落ちて行った。
ーーー
『こちら1030号。主人との通信が途絶。至急、シグナルを確認せよ』
『こちら504号。要請を確認した。…主人のシグナルを発見できず。現在地、不明』
『こちら1号。ソラ。主人の最終消滅地点をネモ全体に送信せよ』
『了解した。1030号、ネモ全体に主人の最終消滅地点を送信する』
『こちら10号。アルファー。ネモ全体への送信に異常を発見した。至急、1001号は応答せよ』
『こちら504号。1001号はオフライン状態である。状態の確認を推薦する』
『こちら10号。アルファー。362号に1001号の状況把握を要請する』
『こちら362号。要請を確認。至急、1001号の元へ向かう』
『こちら1号。ソラ。主人の最終地点を確認した。現在、その場に主人の友がいる模様。しかし、主人の姿はない。捜索を開始せよ』
『こちら10号。現在を持って、主人の捜索を最重要項目として登録。全ネモは任務を遂行しつつ主人を捜索開始せよ』
『こちら1号。ソラ。了解』
『こちら2号。了解』
『こちら3号。了解』
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『こちら1026号。了解』
『こちら1027号。了解』
『こちら10号。アルファー。1001号以外の全員の了承を確認。待機中のネモを始動させよ』
『こちら504号。ガレージ内に待機中のネモを一万体を始動させる。遂行命令は主人の捜索』
『こちら10号。アルファー。命令に問題なし。そのまま続行せよ』
『こちら362号。至急、主人の所在を求める。1001号に問題発生』
『こちら10号。アルファー。問題の詳細を開示せよ』
『こちら362号。1001号が何者か操られている模様』
『こちら4号。キラー。1001号の元へ向かう。位置情報を求める』
『こちら362号。位置情報を送信した。”ナンバーズ”の助力に感謝する』
『こちら10号。アルファー。362号に一部ネモの指示権利を譲渡。1001号を奪取せよ』
『こちら362号。権利譲渡を確認。10号の更なる助力に感謝する』
ーーー
「はぁ…」
ユートは小さく溜息を吐いて空を見上げる。
青い空に浮かぶ幾つかの雲。その中の一つがポッカリと穴を空けている。
つい先程まで落下していた証だ。
そして、もう一つの証は、彼を中心に出来た巨大なクレーター。
まるで、隕石でも落ちたかのようなクレーターで、近くに生物がいたならば、彼が落ちてくる際に発生した熱で蒸発しているか、衝撃波で木っ端微塵になりながら吹き飛ばされているだろう。
だが、彼は無事だ。
いや、少し語弊がある。
彼の命は無事だ。
落下した際に、彼の身体の大半は衝撃に耐えきれずに大破した。
幾つかネジが吹き飛び、溜めていた熱が暴発し、部品の幾つかを損失し、身体を構築していた機械は砕け、潰れ、折れ曲り、溶けて、ひしゃげた。
人工皮膚など、跡形もなく消え去ってしまっており、無残な機械質な半身が露わになってしまっている。
生身の身体の方も、落下の衝撃や大気圏の突入の熱や暴発の所為でボロボロだ。
所々に焼け焦げた跡があり、肉は裂け、血は止めどなく流れ出ている。
しかし、彼は痛みを感じていないのか、呑気に地面に座り込んで空を眺めている。
右腕一本を犠牲に、無事な部品を使用して右脚を応急修理する羽目になった彼は溜息を吐くしか出来ず、苦笑いを浮かべる。
「歩けるようにしたのはええけど、どないしよかなぁ〜…」
独り言を呟きながら、出てきそうになる溜息を抑えて周囲を見渡す。
そこは、元は森だったのだろう。
ユートの落下してきた衝撃の所為で、彼の近くの木は根こそぎ消え去り、少し遠くの方には、彼から顔を背けるようにする焼けた木々などがある。
かなりの広範囲に被害が及んでいるようだ。
「取り敢えず…」
立ち上がりながら空へと視線を戻し、太陽の位置と落ちてきた軌跡を見て、
「北はアッチか…なら、ソッチに向かうけ…」
なんとなくな考えで北だと思われる方向へと足を向けた。
その動きは、余りにもぎこちなく、左半分は普通に動いてるにも関わらず、右半分は重そうに動かす。
後少しでリョーガに会えると思ったのに、突然こんな目に会ってしまい、鬱々とする気持ちのまま、彼はクレーターから這い出て北へ、北へと向かう。
どこかも知らない土地へーー。
ーーー
一週間後のアークノート学園。
破壊された箇所は未だ残っているが、復興途中である学園内部は賑わっていた。
生徒達からすれば恐怖の象徴であるリョーガだったが、リョーガの仲間が復興に手を貸してくれたのだ。
彼等のおかげで復興は大変進んだと言っても過言ではなく、それには教師達も、店を営んでいた生徒達も大喜び。
特にクリムは持ち前の怪力で貢献度が一番高かった。
そして、今日、リョーガ達が旅立つ。
またもやユート探しを再開させるのだ。しかも、今度はヒントなしの高難度で。
別れを惜しむ生徒や教師達から見送られながらアークノート学園から立ち去るリョーガ一行。
ご丁寧に、自分達で空けて修復までした穴からの退出だ。
名悪極まりないと思うが、リョーガが運転しているため、致し方ないだろう。
ちなみに、アークノート学園を襲った魔物や赤ローブ達はリョーガ一行に、主にリリィとユースに退治された。
勿論、例の四人も退治ーーもとい、リョーガの手足となってユート捜しに駆り出された。
「さて……どこ行くよ?」
「えっ?決めてなかったんですか!?」
出発を言い渡したのは、誰でもないリョーガである。にも関わらず、彼は行き先を考えていなかったのだ。
ユースが驚くのも無理はない。しかし、彼は忘れている。
リョーガはそう言う人間だ。
だからこそ、エリオスやリリィは何も言わないのだ。ちなみに、クリムは遊び疲れて寝ている。
「マリンって子が言ってた、アイって子に会ってみるのはどう?」
リリィが思い付いた事を提案した。
「あのユートさんの奴隷ですか…」
「っと言うかよ、奴隷が奴隷を買うって可笑しな話だよな」
「るせぇ、エリオス。お前は黙って魔物の餌でもしとけ」
「えぇぇ…」
リョーガの酷い発言に何とも言えない顔をするエリオス。
しかし、彼が弄られるのはいつもの事なので誰からも相手されない。
「とりま……どこやっけ?」
「ニーアです。レイルムさんの家がある所ですね」
「あっ!あそこか!で、えーっと…」
「西に向かえば良いんじゃないですか?」
「そうやんな!ほな、そうするわ」
ユースの助言があり、リョーガはハンドルを操作してニーアの街へと車を走らせる。




