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道化



「うーん、見つからないねー」


「………」


彼女と彼は生徒会室のある塔の上。ユートの指定席から学園内を見渡している。


そこから、学園内をコソコソと走り回る人達が確認できるが、彼等が探しているのは別の存在。


この学園の生徒達である。


「せっかく魔物達を使って邪魔者を一箇所に集めて置いたのに、見つけられなかったら意味ないよねー。もしかして、逃げちゃったのかな?」


「…それはない。……どこかに居る」


二人は再度、学園内へと視線を落とす。

しかし、見えるのは赤ローブの者達ばかり。一人たりとも学生は見つかっていないようだ。


そんな時、唐突に男の方が何処からか短槍を取り出して、明後日の方向へと突きを繰り出した。


「もうっ!ビックリさせないでよっ!」


女はプンスカと怒るが、男は気にした様子もなく槍の先端に刺さった物を女に見せつける。


「何?コレ?」


「虫…ではない…」


一見、ハエのようにも見えるが、よく見ると違う。小さな黒煙を吐いて壊れたソレは、彼等には馴染みがあまりない機械であった。


「ちっさいね」


ツンツンと虫型の機械を突く女。


「…視線を感じた」


男は、この虫を使っていた者を探す為に視線を周囲へと巡らす。


だけど、生徒は未だに見つかっていない。


そんな時、彼等に朗報が入った。


『こちら、六番。聴こえるか?三番、五番』


女の懐から声が鳴った。


「はいはーい。聞こえてるよ〜」


そう言いながら懐から青白く光る石を取り出して返答する女。五番。


その石は、通信石と呼ばれる。遠くの者と会話する為の物だが、作成できずに市場に出回る事が全くないアーティファクト同様に珍しい代物である。


『その学園に私の研究を邪魔した者が居るのが分かった。場所は、そこから東に行った所の地下だ』


「私達にやらせるつもりなのー?」


『違う。そこにはお前達の獲物も居るから教えてやったのだ』


「じゃあ、六番の標的はどうしよっか?」


『私が直々に手を下す。今、私は向かっている最中だ。決して逃すなよ』


「逃げても、六番ならすぐに見つけ出せるじゃないの?」


『私は無駄が嫌いだ』


その言葉を最後に石は光を失った。

通信が切れたのだ。


「それじゃ、行ってみよっか」


五番が元気に背伸びをしながら言い、無言で三番は頷いた。



〜〜〜



「ユートさん、なんだか外が騒がしくなってきましたよ」


ユートを起こす為に揺するマリンだが、安らかや眠りについている彼は起きようとはしない。


「起きなきゃ……抱きつく」


布団役をしているルルが何かを言っているが、既に抱き着いた状態だ。


「な、何が起きてるんでしょうか…だ、大丈夫ですよね…ですよね?」


「だ、大丈夫に決まってるでしょ!ユートが安全だって言ってたじゃない」


ミニラは不安を抱き続けており、カウリーウが強がっている。

周囲の学生達も怯えを見せており、助けを求めるような視線をユートへと向けている。


しかし、彼はーー起きた。


「ふぁーぁ…。はぁ、ヤられた〜」


欠伸をしてから天井を見上げて残念そうに呟いた。

偵察用の機械虫の一匹がやられたのが悔しかったのだろう。


「私はまだ何もしてない」


何を勘違いしているのか、ルルが何か言っているが、ユートは彼女の言葉をスルーして視線を下ろして生徒達へと向ける。


「安心してええよ。なんかあったら俺がなんとかしたるから」


呑気な言葉だ。

しかし、生徒達はユートの事を全面的に信頼しており、そんな気怠そうな言葉でも彼等は信用した。


「私だけを守ってくれる…。さすが、ユート」


頬を赤くしてイヤンイヤンと体をクネクネしているルルが視界に入ったが、ユートは見なかった事にして、他の機械虫を使って地上を見渡す。


あちこちに赤いローブの者達が走り回っており、物を破壊したり、色々な建物に押し入ったりと好き放題している。

しかし、物色などはしてないようで、まるで何かを捜しているように見える。


そんな彼等の間を歩く明らかに異質な二人の男と女の姿が見えた。刹那、その機械虫は破壊された。


「カァーッ、またヤられたぁ…」


「……何してるんですか?」


額に手をやって残念がるユートを不思議に思ったマリンが遂に我慢ができなくなって尋ねた。


そんなマリンに、ユートは優しげな声音で教える。


「地上の偵察やで。先生達と兵士達の戦いとか、学園内を暴れ回ってるアホ共を見てんねん」


ユートの言葉に引っ掛かりを覚えたマリン。


「…学園内に誰かが居るのですか?」


「おるよ。不審者が」


「……ん?」


ユートの言っている意味が理解できずに暫し考え、そして、理解できた瞬間、驚きに目を見開いた。


「ど、どう言う事ですか!?そ、それじゃあ、先生達は魔物と不審者との挟み撃ちって事に…」


「いや、アイツ等が狙ってんのはソッチやないで。俺等や」


「………」


マリンだけでなく、聞き耳を立てていた生徒達までもが絶句した。

そんな彼等を励まそうと、ユートは口を開きーー閉じた。


睨みつけるかのような厳しい視線を扉へと向けて、戯けたように言う。


「あらら、見つかっちゃった」


生徒達は初めてユートのそんな顔を見た。

そして、底知れぬ恐怖を覚えた。


声は優しく、いつもみたく巫山戯たような口調なのにも関わらず、外の事よりも、ユートが怖く感じた。


ユートの表情が真剣そのものへと変わって行き、最後にはニッコリと微笑みを浮かべた。


それは、生徒達を安心させる為なのだろうが、それまでの表情を見せられた生徒達は安心できずに、視線を向けられた者はビクッと肩を震わせたり、視線を反らせたりした。

間違いなくユートは怯えられてしまった。


それでも、彼は笑顔のまま語り掛ける。


「ちょっと出てくるわ。後はマリンに任せるから、頑張りや」


いつもと変わらない軽い口調。

いつもと変わらない笑顔。

いつもと変わらない態度。

いつもと変わらない大きな背中。


なのに、誰もがどうしても彼がユートだとは思えなかった。

明らかに彼の纏う雰囲気が変わったのだ。


「ユ、ユートさん…」

「ユート」

「…ユート、さん…」

「ユート!」


マリン、ルル、ミニラ、カウリーウから呼び掛けられ、振り返って笑みを返すユート。しかし、その後の言葉はなく、無言で扉へと歩いて行った。


そんなユートを見送る彼等の違和感を残して。



ーーー



その頃、リョーガと言えば、


「やっとや!やっとユートをボコボコにできる!」


装甲車ーーTYPE-2の助手席で、へっへっへっ、と凶悪極まりない笑みを浮かべて拳を握り締めて意気揚々としていた。


彼等は一度、サスリカの街に立ち寄ったが、そこから既にユートが経った事を知り、アークノート学園へ向かっている途中なのである。


「リョーガさん、目的が変わってますよ」


ユースが後部座席で外の景色を眺めながら答えた。

そんな彼に逆ギレをかますリョーガ。


「知るかボケェ!そんな事より、いつ着くねん!?」


「今日中には着くのっ!」


運転手のクリムが答えた。


彼等は着実にユートに近付いてきている。

アークノート学園で色々と問題が起きているのも知らずにーー。



ーーー



迷宮にある隠し部屋から出たユートは、出た瞬間に侵入者の男女二人と出くわした。

いや、わざとユートがタイミングを合わせて出たと言った方がいいのかもしれない。


「ここから先は学園長の趣味の物があるから関係者以外立ち入り禁止やから、引き返して欲しいんやけど?」


顔を合わせて一番にユートが言葉を発した。

どうやら、学園長の趣味はユートに見抜かれていたようだ。


ちなみに、学園長の趣味は可愛いヌイグルミの山だったりする。


「人の秘密って魅力的だよね〜。って事で、入りたいんだけど?」


「いや、アカンって。学園長に俺が怒られるから」


「えー、別にいいじゃん。減るもんじゃないし。少しだけ。お願いっ!」


両手を合わせて上目遣いで懇願する女性だが、ユートの態度は変わらない。

断固として拒絶する。


「だから、無理やって。学園長って怒ったら怖いんやもん」


「えー」


なぜか、ユートと女性との変な会話に発展しているが、男性が元々の目的の会話へと戻す。


「…五番…そこまでにしろ」


「はーい」


少し残念そうに返事をした女性ーー五番。


「それじゃあ、本題に入るよ。そうだね、まず、君は何者なの?」


「俺はこの学園の教師してるユートってもんや。まぁ、今は学園長の趣味を隠すような役割してるけどな」


「それじゃあ、それじゃあ、生徒達がどこに隠れてるか知らない?」


「ん?それなら、もっと下やで?詳しい場所は知らんけど、通ってくのは見たからな。地図いる?」


「えっ!いいのっ!?ありがとー!」


ユートから地図を受け取り、嬉々として、手を振りながらユートと別れて迷宮の奥へと進む三番と五番。


どうやら、彼女達ですらユートの嘘を見抜く事は出来なかったようで、言葉巧みに騙されている。


そんな彼女達を見送ったユートは一息吐いて、本物(・・)の地図を手に取る。


「そのまま行って、死んでくれへんかなぁ〜」


彼女達に渡したのは、50階層までのルートが描かれた地図だ。

ただ、危険な場所や、罠が大量にある場所を重視して通らせている為、一つ間違えれば死にかねない。


本当はサモートに渡すつもりであったものだったが、危機を脱する為に彼女達に渡したのだ。


そして、彼は願う。

このまま死んで帰って来なければ良いのに、と。

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