戦闘開始
遅くなりました…
魔物達は森の方角から向かって来ているとのユートの情報を頼りに、教師達や兵士達は三日の内に学園の守りを固め事に勤めた。
そして、遂に三日が経ち、魔物達が歩み寄って来るのが偵察が確認できる距離まで来た。
学園を囲う壁の上で、教師達は魔物の集団を見て戦慄を覚えているが、ユートと学園長は違った。
こんな時にでも呑気に会話している。いや、こんな時だからこそ呑気なフリをしている。
「確か、お前が言ったのは二万だったはずだな?」
「せやな。けど、増えてるみたいや」
「どのぐらいだ?」
「五万って所やな」
「多いな…」
さすがの学園長でも顔を顰めた。
「まぁ、計算で言ったら俺の考えた策使ったらギリギリなんとかなる量や」
「そう…だな…」
それでも不安なのか、顎に手を置いて考える学園長。
ユートが考えた策と言うのは、罠だ。
それも一つや二つではない。数多もの罠だ。
古典的な”落とし穴”や紐を引き千切ると重みで落ちて来る岩石など。その他に特筆すべきなのは、重みが加わると爆発する”魔導式地雷”なんて物までもが設置されている。
全てユートが考えた罠であり、設置に教師や兵士を総動員させた。
そして、罠にかからなかった魔物を魔術で一掃する。と言うのがユートの筋書きだが、学園長は一抹の不安が残っている。
「まぁ、これで確実って訳でもないから、勇者とか兵士達にも手伝ってもらうんやんか。それに、ここは優秀な人達が集まる学園なんやろ?」
「ああ…ああ、そうだ。確かにそうだ」
「俺は力になられへんから、ここまでやった。せやから、後はアンタ等の出番ってわけや」
ニヒルと笑って壁からロッククライミング擬きで降りて行くユート。
退出の方法はダサいが、学園長は彼から僅かばかりの希望と勇気を貰った。
「よしっ!」
少し気弱になっていた自分に喝を入れる為に頬を強く叩いて、学園を守ろうとする声を張り上げて言葉を掛ける。
「この世界の未来を補う生徒達を命を賭しても守り抜け!これは学園長命令だ!!」
帰って来るのは、無言。
しかし、ただの無言ではない。ヤル気に満ち溢れた無言である。
決意を固めた強い眼差しが学園長に突き刺さり、すぐに消え去る。
刹那。遠くの方が爆発した。
そこは、ユートが”魔導式地雷”を設置した場所だ。
その爆炎が魔物との大規模戦闘の始まりの合図となった。
〜〜〜
「やっぱり、ユート、どこかオカシイ」
「そっか?」
ルルに言われて両手に目を向けて自己診断を行うユート。
現在、彼は迷宮の二階層にある隠しエリアに居る。いや、彼だけではない。全校生徒全員が居る。
先程聴こえてきた爆発音で戦闘が始まった事を知り、怯える生徒も居れば、気丈に振る舞う生徒も居る。
しかし、全員の瞳に映るのは、恐怖。
ドンヨリとした空気が部屋内に充満している。
彼等の周囲を除いては。
「大丈夫?」
「うん、調べたけど不備は見つからへんし、大丈夫やと思うで」
「ユートさんって、時々変な事を言いますよね」
ルル、ユート、マリンだ。
「ど、どうして、なの?こ、怖くないの?」
「ふ、ふんっ、この程度で怯えてたら冒険者なんてなれないわよ!」
ミニラは怯えきっており、カウリーウは怖いくせに気丈に振る舞っている。
「いやいや、冒険者ってそんな難しいもんちゃうからなカウリーウ。んで、ミニラは、怖がるのは自由やけど、何が起きても対処出来るように準備だけはしときや」
「は、はぃ…」
気迫のない返事が返って来るが、ユートはそれ以上言う気はないのか、笑みを浮かべながら明後日の方向を向く。
「川から二人…いや、三人か。……ん?六人?どう言うこっちゃ?」
どうやら、魔物達との戦闘に紛れて誰かが侵入してきたようである。
気配を感じ取って侵入者の数を数えたが、余りにも気配が曖昧で、首をかしげたユート。
「ちと、不味い…どないしよか…」
うーん、と唸るユート。
「まっ、ええか」
暫し考えていると、考えるのがバカらしく思えて、思考を放棄しようとした。
「何が良いの?」
だけど、ハタから見れば意味不明な言動をしていた為、ルルに不思議に思われて尋ねられた。
暫し、話すかどうかを考えたユートだったが、考えるのが途中から面倒くさくなったから、先程感じ取った気配の事などを洗いざらい話した。
「ーーってな訳や」
「危険?」
「いや、大丈夫ちゃう?この部屋って、完全に隠れてるし、学園長しか知らんかったみたいやし、それに、そこの扉には色んな魔術が掛かってるし」
ユートが横目で見た扉は、この部屋に通ずる唯一の出入り口である。
その扉は、なぜそこまでする必要があるのか。と問いたい程に厳重になっており、強固なのは勿論の事ながら、隠密や気配遮断などなど、完全に外界から隠された部屋なのだ。
実は、学園長の趣味の物を置いており、この三日間に急いで片付けられていた。などとは誰も知らないだろう。
それは兎も角、ここは安全だと主張するユートに、密かに聞き耳を立てていた生徒達が僅かに安堵した。
「俺達はここで待ってたらええだけや。せやから、怖がるんじゃなくて、先生達の無事でも祈ったりや」
そう言い残し、彼は寝転んで睡眠を取り始めた。
「やっぱり、ユートさんは自由ですね。だから、僕達も安心できるんですけどね」
おちゃらけた風に言い、周囲を見渡すマリン。
既にユートに言われた事を実行している生徒も見受けられるが、未だに怯えて肩を震わす生徒もいる。
そんな生徒にマリンは近付いて、大丈夫だと、安心して良いのだと言って、心のケアをし始める。
そんな彼の行動に吊られてか、何人かの生徒達もマリンを真似して行動し、暗い雰囲気が充満していた部屋を少しづつ明るくして行く。
ちなみに、ルルはユートの側で猫のように丸まって寝ている。まるで、ユートのペットだ。




