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問題発生……?


ユートが教師となってから一月が経過した。

それまでに魔法を扱えるようになった生徒は極少数だが、事実、使えている為、生徒達が躍起になって頑張り始めていた。


既に、ユートの出る幕はなく、授業も観ているか、もしくは放置だけに収まっていた。

そんな毎日を繰り返していた。


「ユート、何してるの?」


ユートは学園の中庭にある噴水に腰掛けて空を見上げていた。

それが気になったのか、最近、ずっと付き纏ってくるルルが尋ねた。


「平和やなぁ〜って思って空見上げてただけやで」


彼の言う通り、本当に意味のない行動。

ただ、呆然と空を見上げていただけだ。


授業を放置して。


「それじゃあ、私もする」


そう言ってルルもユートの隣に座って空を見上げる。


彼女も授業を放って。


「ユート、最近、調子悪い?」


「いや?なんで?」


「そう見えただけ」


「そか」


太陽が心地よく、風が吹くと髪が揺れる。

噴水の水飛沫がたまに当たり、涼しくも感じる。


そんな風にノンビリとしながら最近の彼は一日を過ごしている。


「ここに居たのね。……何してるの?」


そこに神無月までやってきた。


彼女の場合は授業を抜け出したのではなく、今の時間の授業を担当しているユートを捜しに来ていた。

彼女達の授業は、迷宮探索であるが勇者達も一緒にいる為、ユートは安心して授業を放置している。

一応、監視は付いているが。


「空、見てる」


「意味は?」


「ない」


やれやれ、と言った風に溜息を吐いてから、ユートを挟んだルルの反対側に腰を下ろす神無月。


「貴方、最近調子悪いんじゃないの?」


「…なんで?」


「そう見えただけよ」


「そっか…」


なぜかルルと同じ事を聞かれて自分の手へと視線を移すユート。

しかし、身体にある自己診断プログラムを使用して診断した結果、体調は良好。機械部分にもなんら不備はなく、正常そのもの。


彼女達二人に言われた事に小さく首を傾げながらも空を見上げなおすユート。


今日も平和だ。と、呟く程に、平和だ。


小鳥が鳴き、授業中の生徒達の声が聞こえ、噴水の水が落ちる音が聞こえ、風に揺られる木々や草の音が聞こえる。


いつもと何の変わりもない毎日。

今日は気持ちの良いぐらいの晴天なだけだ。


「そう言えば俺ーー」


何かを言いかけたユートだったが、不意に立ち上がって何処でもない遠くを見つめた。

そして、苦笑いを浮かべた。


「ハハッ、今日も平和やと思ったんやけどな」


「「どうしたの?」」


息の合った二人の声にユートはニコッと笑って彼女達に見えた(・・・)事を伝える。


「敵襲や」



〜〜〜



「ーーーってな訳で、守り固めて、生徒は安全な所に移動させた方がええと思うで」


「授業を放置して何をしてるのかと思えば、外の監視か。感心できる事ではないが、良く見つけてくれたと感謝しておこう」


学園長室にて、ユートは敵襲を知らせた。

敵の数はおおよそ二万以上の魔物の軍勢。到着予測時間は三日後と。


普通ならば慌てて行動する程の魔物の襲撃。だが、ユートが真っ先に発見し、対策を考え、緊張感に欠ける口調のお陰で学園長は余裕を持って冷静を保てた。


「これからの行動は私から教師達に伝えておこう。お前は…そうだな。生徒達に慕われてるようだし、安全な場所を確保するまで生徒達の面倒を見てやってくれ」


「はいよ」


軽々と答えたユートに、どこか違和感を覚えた学園長だったが、それを気にするよりも、 目先の問題を優先した。



〜〜〜



取り敢えず、生徒達を闘技場に集めたユートは、暫く魔法に関しての講演を行い、それから魔物の襲撃がある事を伝えた。


だが、彼の緊張感の抜けた声に、誰も怖がらず、動揺すらもしなかった。

彼等はユートが嘘を付いているのではないか。と疑った程だ。


しかし、魔物が迫って来ているのは事実。

ユートの目が見えすぎる事は周知の沙汰である。

その為、誰もが疑ったが、少し考えればユートへの疑いは晴れ、若干の違和感を覚えながらも無言でユートの言葉に耳を傾けた。


「せやから、学園長が何か言うまでは待機って事で。慌てて学園から逃げ出したりしたらアカンで。下手したら死んでまうからな」


ユートの口調は軽い。軽いが、言っている事は重みがある。

誰もユートの発言を否定したり、反対したりしない。全員が従順に彼の言葉に従う。


そうでなければ、学園長はユートに生徒達の面倒を押し付けたりはしない。


生徒達は知っているのだ。

ユートの発言は大抵が正しく、従わないと酷い目に合う事を身を持って知らされている。

それは、ユート本人から何かされた訳ではなく、ユートの言葉に背いた者が偶然発生した事故で痛い目を見たからだ。


例えるならば、迷宮で10層からは行くな。と言われていたのにも関わらず、調子に乗って10層から先に進み、瀕死状態で回収された。

などと言う事だ。


ちなみに、それは実際にあった事だ。

だからこそ、誰もがユートの言葉に従う。


「あっ、それとな、ペガサス達の勇者グループは学園の守備に参加してや。それ以外は安全な所に避難になってるから」


補足を入れてから、ユートはポケットから色々な物を取り出し始める。

長い机であったり、フォークや皿などの食器などだ。


「ほな、少し早めの晩飯でも食おか」


ユートなりの気の紛らわせ方だ。

生徒達の表情から動揺などは見えないが、幾人かの生徒の瞳が恐怖に怯えていたのだ。

それを視認したユートは即席で考え付いた事を実行した。


「『ガレージ』62番」


彼が一言呟くと、地面を裂いてガレージが現れた。

勝手に迫り上がるガレージのシャッター。

そして、そこから現れたのは、機械で造られた二匹の犬。


『ワンッ!』

『ガウッ!』


声とも取れなくない機械の擦れるような音で吠える二匹はユートの足元に擦り寄ってから、お座りをして命令を待つ。


「ネモ呼んで」


『ワンッ』

『ガウッ』


二匹の犬が颯爽とガレージへと戻って行く。

それを横目に、未だに動こうとしない生徒達へと再度声を掛ける。


「早よ降りてきぃや。美味い飯食わせたるがな」


ユートの言葉に、一人、また一人と動き出す生徒達。

勇者達はガレージを目の当たりにして唖然としている。


『お待たせ致しました主人』


半数以上の生徒達が降りて来た時、ようやくガレージからくぐもった声を発しながらネモが現れた。

彼の付けている面は、兵士達が着けていそうな頭をスッポリと覆うヘルムだ。

しかし、形が兵士達のと全く違う。


目の部分は緑のガラスで横一文字で覆われ、まるでSFに出て来そうなヘルムなのだ。


「飯作って。材料あったやろ?」


『はい。在庫はーー』


「別に詳しく言わんでええから。在庫は多いやつから使って」


ネモが長々とした話をしそうになったから、途中で言葉を遮ったユート。


『分かりました』


それだけ言うと、ネモはガレージへと戻って行った。

そして、そこまで時間を掛けずに運んでくる大量の食事。

勿論、運んでくるのは、機械質な犬達だ。

背中に料理を載せたお盆を乗せて、運んでくる。


それを器用に伸び縮みする尻尾で掴んで机に置いて行く犬達。

その数、おおよそ50はくだらない。


生徒全員が闘技場に降り立つ頃には、既に食事は並べられており、食事を開始している生徒達も居た。


犬達が大量にガレージから出て来て、生徒一人一人に飲み物を配り歩き、嫌がる生徒にも無理矢理にでも持たせる。


全員に配り終えると、一匹の犬がユートの前で『ギャンッ』と吠えた。


「全員、飲み物持ってるな?」


生徒全員が見える闘技場と観客席を隔てる壁の上に立って、周囲を見渡すユート。

ユートの言葉に、置いたばかりのグラスを手に取る生徒もいる。


全員がグラスを手に持っている事を確認してから、ユートはニッコリと笑って言う。


「ほな、これからの安泰を祈って、乾杯!」


「「「か、乾杯!!」」」


よく分かっていないだろうが、ユートの行動通りにグラスを掲げて言葉を発する生徒達。


それから、飲めや歌えや騒げや食えや。の大団円が始まり、学園長達が来た頃には、彼等の頭の中にあった不安、魔物の襲撃など一切合切消え去っていた。


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