魔法教授
「せやから、魔法って言う概念はお前らが持っている概念と全く違う代物やねん」
そう言って物を教えるのは、ユートだ。
アークノート学園の闘技場を”無理矢理”借り、他のクラスの生徒達とその教師も一緒になってユートの授業を受けている。
「はい、先生」
ユートの説明が終わると同時に一人の生徒が手を挙げた。
「ん?ペガサス君、どったの?」
「ペガサスではありません!天馬です!テ・ン・マ!」
「ああ、ごめんごめん。で、ペガサス君どったの?」
ペガサスこと、天馬。例の勇者君は暫く、呼ばれた名前に葛藤を覚えるも、これ以上言っても仕方ないと思い、本題に入る。
「今の魔法は魔術で、魔法は全く違う物って言うのは分かりましたが、それって本当に僕達に使えるんですか?」
「使われへんかったら教えへんわいな」
呆れたような仕草をしてから、「さてっ」と言って、言葉を続ける。
「ペチャクチャ話しててもしゃあないし、基本的な魔法発動方法は教えたんやから、とりま、簡単な呪文教えるからやってみよか。『炎は球体となりて緩やかに発射される、ファイアーボール』」
呪文を唱え始めると同時にユートの手の平に火の玉が形成され、呪文を言い終えると共に『ファイアーボール』は完成し、ゆっくりと発射され、飛んで行った。
それを見た生徒達は尊敬や感嘆の声を漏らし、自分もやってみたいと思って散り散りになって練習し始める。
ファイアーボールだけではなく、個人の持ち得る得意魔法属性を使用して、改変した呪文を使用して行っている。
が、誰一人として成功しない。
それは、授業時間が残り半分を切っても同じだった。
「ユート先生!本当に出来るんですか!?全然出来ませんよ!」
一人の生徒が業を煮やし、ユートに訴えかけた。
それに吊られて、数人の生徒もユートの元に集まってくる。
「俺はやり方を教えた。コツを掴むんはお前らや。魔術と違うって言ったけど、発動は魔術と良く似たもんや。ただ、魔力の込める場所が違う。手やなくて、声に込めんねん」
ユートの目には、ほとんど全員が”手”に魔力を込めていたのが見えていた。
だが、魔法と言うのは、術式を作るわけではなく、言霊を使用して発動させる物である。
生徒達が苦労しているのは、”魔力を声に乗せる”と言うのが難題なのだ。
ユートの助言を聴いて、またもや散り散りになる生徒達。
それから、何度も何度も魔法の練習をする生徒達。しかし、この日は誰一人として魔法を使う事が出来なかった。
〜〜〜
ユートは一日に一限だけ授業を受け持っている。その為、その日の授業が終わると物凄く暇になる。
しかし、今日は違った。
なぜか校内を走り回っていたのだ。
その訳は、勇者一行の一人に問い詰められて逃げ出したからだ。
その相手とは、バーサーカー事件の時にユートの隠密を見破った神無月であった。
『貴方は何者なの?』
と、彼女はユートに尋ねた。そして、彼女が浮かべる訝しみの瞳は確実にユートを見抜いていた。
彼が例のピエロの一人だと、目が語っていた。
そして、ユートは逃げ出した。
逃げ出すのは得策ではない事を良く理解していながらも、突発的に逃げてしまったのだ。
なにせ、ユートは女性が苦手だから。
別に、彼は同性愛を持っているわけではない。
ちゃんと女性にも興味はある。
しかし、過去に行ったバイトで女性に対するトラウマを植え付けられて、それから女性が苦手だったりする。
その為、彼は逃げ出したのだが、それは彼女に全く別の理由とは言え、答えを教えているようなもの。
当然、神無月は真実を突き止める為にユートを追い掛けた。
そして、学園内での壮絶な追いかけっこが始まったのだった。
それから、ユートが捕まったのは、昼を過ぎた頃。食堂にて、隠密までも使用して隠れて食事をしていた時であった。
「やっと見つけたわよ」
ドンッと机を叩かれて言われた拍子に、ユートは椅子に座りながらピョンッと跳ねると言う芸当を見せた。
「どうして逃げたの?」
「いや、追い掛けられたから」
「そこじゃない!始めの時よ!」
「……始め?」
暫し考えたが、ユートは彼女の言っている事が理解できなかった。
しかし、神無月はユートの反応を別の意味で捉えた。
「しらばっくれるつもりなの?それなら、私にも考えがあるわよ」
「えっ!ちょっ、ちょい待って!今思い出すから!」
うーん、と唸り、彼女が言いたい事を察しようとする。だけども、何一つ分からない。
始めと言えば、二つある。
闘技場でのバーサーカー事件の際、神無月に発見され、連れてかれ、その場の戦闘を有耶無耶にして逃げ出した事。
そして、つい先程の授業終わりに彼女に追い掛けられた事。
このどちらかが正解なのだろうが、ユートの思考は明後日の方向へと向かっていた。
「分かった!アレや!この前、ゴブリンと戦った時に逃げたやつや!」
「……は?」
「え?」
ユートは今の状況に全く関係のない事を言って赤っ恥をかいた。
要するに、自爆した。
まさか、魔物の中でも最弱の部類に入るゴブリンに背を向ける人が居るなど思いもしなかった神無月。
ズレた答えよりも、ユートの発言に絶句した。
「ゴブリンに…負けたの…?」
「ま、負けてへんし!ちょっと気分が優れへんかったから、移動しただけやし」
「……貴方と喋ると調子が狂うわね」
はぁ…と溜息を一つ。
ユートと会話をしていると、彼が逃げた事などどうでもよくなってくる。
ユートの対面に座った神無月は、ずっと気になっていた事をもう一度尋ねた。
「ゴブリンに負ける癖に魔術とか魔法に詳しいって…ホント、貴方って何者なの?」
彼女の問いにユートは苦笑いを浮かべて答える。
「俺は……俺は、ただの人間や。少し物事を追求してしまうだけの研究者や」
「研究者…ねぇ〜」
神無月は訝しむ視線をユートに送り、その視線の意図に気が付いたユートはニコッと微笑んだ。
「嘘ね」
「いやいや、ホントやって。世界の摂理を調べて研究する研究者やって」
ユートの言葉は、一応の言葉が付くが本当である。
だが、それでも神無月は訝しむ目をやめない。
まるで、彼の心を覗き見るかのようにジッとユートの目の奥を見つめている。
「なら、証拠はあるの?」
「証拠?それなら、俺が教えてる魔法があるやん」
ユートの教える魔法は今はもう失われてしまった過去の遺物である。
そんな代物、この世界を普通に生きていて見つけれるものではない。いや、それどころか、遺跡を探った所で見つけれるものでもない。
だが、神無月はそんな事を知らない。
ユートも同じく、知らない。
「それも、そうね。じゃあ、もう一つ質問」
「なに?」
「貴方のその言葉使い、どこで覚えたの?」
「どこって、東方やで?俺、獣国出身やから」
シレーと嘘を自然に吐くユート。
嘘発見器があっても見つけれない程に自然で見事な嘘だ。
そんな言葉、ユートの心を読まなければ分かるはずもなく、神無月は信じるしかできない。
だが、相手を疑う事をやめない神無月の目には、ユートが嘘を言っているようにしか聞こえないのだ。
ユートがニコニコと笑みを浮かべ続けているのが嘘を言っているように聞こえる事に拍車をかける。
「なら、黒騎士って名前に聞き覚えは?」
「黒騎士?なんで?」
「その人も同じ言葉使いだったのよ」
「なら、俺と同郷かな?知らんけど」
「そう」
話が済んだとばかりに神無月はユートの前から立ち去る。
しかし、彼女の中に生まれた疑問は、肥大化し、より一層ユートを疑うのだった。
〜〜〜
「はぁ…」
ユートはいつもの様に生徒会室のある塔の上で黄昏ている。
しかし、彼の表情は影が曇っている。
その理由とは、
「ホンマに俺の身体能力って低いなぁ〜…」
ステータスについてであった。
彼のステータスは低い。だからこそ、体術を極めようとしている訳だが、未だに右半分の機械に頼ってしまっている。
機械の身体に頼れば、ある程度の動きは可能であり、ありとあらゆる技術を可能とする。
しかし、彼の左半分の生身の身体は弱いまま。
力を上手く扱えず、出来る事と言えば、少しの体術と剣を扱うぐらいである。
普通に生きるだけならば、それだけで十分事足りるのだが、ユートの場合は違う。
彼は彼なりの意図があり、思惑があった。
だからこそ、彼は力を求め、知識を集めている。
「はぁ…」
彼は自分の無力さに溜息を吐き続ける。




