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クレイジー・アクセル 【略:クレアク】  作者: 九九 零@異世界モノ大好物
第1章〜どうやら、異世界に迷い込んだらしい〜
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迷宮探索

端的に言えば、二層目はリョーガの足元にも及ばなかった。


この二層目のコボルトは、犬が二足歩行している様な姿だ。ユートはその姿を見てハイテンションで抱き着きに行って噛まれていたが、それは置いておこう。


コボルトのレベルは15前後で、リョーガとリリィが手を合わせて戦っている。少しづつチームワークが良くなっている。ドロップ品回収をしているユートは除くが。

二人のレベルは戦う毎にグングン上がっていく。ユートは、彼等から譲って貰える瀕死状態のコボルトを殺してレベルを少しづつ上げている。


この迷宮に入ってから三時間程で、リリィの「少し休憩するわよ」との言葉が彼等の耳に届く。ユートは『ガレージ』を出して、先に中に入り、リョーガとリリィが中に入ってから念じる(・・・)ことでシャッターを閉める。


ガレージの内装は何も変わってない。

地上でリョーガが倒したゴブリンの素材があちこちに置かれていたり、買った物が乱雑に置かれいたりして、少し汚い。

『ガレージ』の使い方を知らない彼等為、物置になってしまっているのだ。


だが、進歩もあった。”念じる”だけで『ガレージ』の開け閉めができるようになったのだ。


休憩に入った彼等は各々の行動を取り始める。リョーガは街でいつのまにか買っていた串焼きを『アイテムボックス』から取り出してタバコを吸いながら食べ始め、リリィは短剣を布を使って拭いている。そして、ユートはPCと向き合っている。


彼は首を傾げながらPCと睨めっこをしている。その理由は、画面に表示されているものにある。


『新しいアップデートが出ました。アップデートしますか?』


と、ポップアップが画面の中央に出現しており、言葉が書かれてる下に『はい』と『YES』だけがある。それを消そうとしても消す事はできず、二つ有る筈なのに一つしか選択技のない画面を見つめている。


彼は消せないと知ると、なんとなく『YES』をクリックした。すると、画面全体が真っ青になり、下に黒と白のゲージが表示された。

黒が多くて、白が少しづつ進んでる事から、黒が白で埋め尽くされれば更新は完了するみたいである。


それにしても、ゲージの進みは遅い。一分を消費しても1mmも進まない。この速度では休憩中に終えれるとは思えない。彼は諦め、PCを点けたまま放置する事にした。


リリィの出発の合図でガレージから出て迷宮探索を再開し始める。リリィは、二層めをクリアしてない為、次の層への入り口がどこにあるかなど全く知らない。

なので、迷路を進むが如く先の見えぬ道を行く彼等。


リョーガの力は圧倒的で、向かい来るコボルトを棍棒で殴り飛ばし、瀕死と化したコボルトをリリィかユートが始末する。

リリィは持ち前の俊敏さを発揮して敵を翻弄しながら首筋を斬り倒している。

ユートは言うまでもなく、迷路に来る前に買った短剣で敵にトドメを刺すか、ドロップ品の回収だ。その為の鞄も背負っている。


そろそろ一日が過ぎようとした時、遂に彼等は二層目を抜けた。


「どないする?」


三層目に降り、ユートが尋ねる。携帯で確認した時刻は午後十一時半だ。もう寝ても良い時刻である。


「どないするって、行くに決まってるやんけ」


「いや、もう十一時やねんで。このまま行ったら眠たさでヤバイと思うで。特にリョーガが」


「それもそうね。さっきから欠伸ばかりしてるし」


ジト目でリョーガを見るリリィ。今も欠伸をしかけて止めた。


「は?俺はまだいけるし。欠伸ちゃんが勝手に出て来るんやんけ」


「ほなさ、この層の魔物を一匹倒してから”ガレージ”で寝るってのはどうよ?」


リョーガの訳のわからない言い訳にやれやれとしながら提案を出す。


「便利やな”ガレージ”」


「やな。でもな、コンクリは冷たいで」


「知ってるわ」


話が纏まり、この層の魔物を倒してから『ガレージ』で寝る事になった。

魔物を探す事、一分足らず。そこまで歩く事なく見つける事ができた。


「おったな」


「やな」


その魔物を前に立ち止まって呟く二人。だが、彼等は決して突撃しようとはしない。なぜなら、その魔物が気持ち悪いからだ。


「オォォォオォォン」


人間の声と言うには程遠い洞窟内に響き渡る声。その正体の見た目は完全な人間だ。鎧を付け、武器も手に持っている。だが、それを見て誰もが人間ではない。と断言できる。

鎧は錆びだらけで、肉は腐り果て、顔の原型すら残っていない。

魔物を見ても名前を答えれないリョーガですら知っている。


「ゾンビか…」


腐臭を漂わせ、ノロノロと歩く姿は映画でも出てくるゾンビそのものである。


「なによ。あれぐらいどうって事ないでしょ」


リリィは肝の座った女性である。ゾンビを見ても嫌な顔一つせず言ってのけた。

彼等は別にゾンビなのが嫌な訳ではない。なにせ、ゾンビ映画などを見て耐性が付いているからだ。だが、彼等でも無理なものはある。

それは、臭いだ。この層自体そこまで臭くなかった。どちらかと言えば土の匂いだった。だが、ゾンビが近くにいるだけで腐臭が鼻腔にコベリつく。

それが、途轍もなく嫌なのだ。


「ユート。お前行けや」


「え…嘘やろ…」


彼等からゾンビまでの距離は一〇〇メートル程。なのに、腐臭は彼等の元まで来ている。もし、近くまで行ったならば、どんなに臭いか。想像するだけでユートは吐き気を催した。


「ええから行けって」


そう言ってリョーガはユートを前に押し出す。一歩。押された時に出した足は一歩だけだ。なのにも関わらず、ユートはエズいた。


「オエッ…」


彼は血の匂いなどは余裕だ。いや、好きと言っても過言ではない。だが、さすがのユートでも腐臭は無理だ。


「もう、なんなのよ…」


そんな彼等に呆れるしかできないリリィ。自らが行こうと足を踏み出したーーその瞬間。


ゾンビが途轍もない速さで駆け出した。彼等の元へと。


腐臭が強くなり、リョーガは逃げ出した。遥か後方の角から鼻を摘みながら顔を覗かせている。なんと行動が素早い事か。

ユートはユートで、鼻に千切ったタバコを押し込んで臭いを変換していた。彼は自分の役目を放棄したりはしなかったみたいだ。短剣を片手にヤル気を見せようとしている。だが、腰は引けており、今にも逃げ出しそうだ。

リリィだけが何とも無さそうに短剣を構えて迎え撃とうとしている。いや、少し語弊があった。リリィでさえも顔を顰めている。


普通の人間が出せる速度以上で駆けてくるゾンビ。それに対するは、今にも逃げ出しそうなユートと顰め面のリリィ。


徐々に近付く距離。遂にユートは我慢の限界を迎えた。だが、決して彼は逃げた訳ではない。

彼のとった行動は一種の攻撃であった。だが、決して攻撃とは言えない偶然の産物。


「ガ、ガレージ!」


眼前に出したスキル『ガレージ』。彼は逃げ切れないと悟った為にその中に逃げ込もうとしたのだ。だったのだが…。


ズガアァァン!


洞窟内に響き渡る激突音。突如出現したシャッターにゾンビが衝突した音だ。

頭の悪いゾンビには避けるなどの思考はできなかった。その為、勢いを殺す事なくシャッターへと一直線に突っ込んだ。

数秒の空き時間。その後、動き出した二人。シャッター裏に回り込み、二人が目にしたものは臭いだけでなくその光景でも顔を顰めてしまうものだった。


「…なんて言うか、その、キモ…」


「そう…ね。これはちょっと…」


人の型が一切残っていなかった。腐り果てた身体は木っ端微塵となり、周囲に撒き散らされ、見るも無残な光景があった。だが、ユートはニヤリと笑った。


「なぁ、これリョーガに見せてみよや」


「…何考えてるの?」


リリィは訝しむ瞳でニヤつくユートを見る。これまでの彼の行動を見る限り、彼は人が嫌がる事をしない人間に見えた。だが、今の彼は全く違うものにしか見えない。


「リョーガ!ちょっと来てや!」


彼の笑みは悪巧みを企む悪い笑みだ。その為、これから彼が成そうとする事がリリィには簡単に予想がついた。


「だ、ダメ!来ちゃダメ!」


鼻を摘みながらユートの呼び掛けに応えたリョーガが駆けてくる。それに、リリィは必死で止めに入った。


「止めたらオモロないやん」


「なんでよ!止めなきゃどうなるか分かってるんでしょ!?」


「分かってるから呼ぶんやんか」


彼は笑っている。物凄い笑みだ。これから悪さをする人が浮かべる笑みではない。まるで、無邪気に笑う子供の笑みである。


「リョーガ!」


「来ちゃダメ!絶対に来ちゃダメよ!」


二人からの正反対の呼び掛けに戸惑い、足を止めるリョーガ。


「なんで止めるんよ」


「だ、か、ら、なんで呼ぶのよ!?」


「面白そうやから?」


「もうっ!」


ユートの余りの発言に地団駄を踏んで怒るリリィ。リョーガは立ち止まったまま。と言うよりも、一歩ずつ下がって行っている。


「ホントになんなのよっ!」


リョーガと言いユートと言い、彼等はハッキリ言ってしまえば問題児だ。リョーガは人の言う事を聴かないし、ユートは突然予期せぬ行動を起こす。訳の分からない二人組だ。彼等はリリィの苦労も考えるべきだろう。


「分かった。やめるわ」


リリィがプンスカと怒るので、妙に素直にユートはバカな事を止めた。

『ガレージ』を仕舞い、腐臭漂うこの場を離れて臭いのしない場所へと移動する。


夜。寝る時になると、普通は一人が見張りをして、残りが睡眠を取ると言った事をする。だが、彼等には『ガレージ』がある為、そんな事は関係ない。

その為『ガレージ』内で食事を取り、寝始める。ユートを除いて…。


ユートはニヤニヤと悪巧みを企む笑みを浮かべながらリョーガの元へ行き、手に何か(・・)を握らせた後、何食わぬ顔でPCの元まで歩いて行った。

彼はこう見えてかなりの悪戯好きなのだ。そして、一度決めた事や始めた事は中々諦めない。


翌日、朝一にユートは起きた。朝と言ってもお日様は挨拶しに来てくれない。携帯の時刻で午前六時になっているから朝なのだ。


それは兎も角、彼は起きてから三人分の朝食を作り始める。

ガレージ内に置かれた皮袋一杯に入ってる買い溜めされたパンを三個取り出し、昨日に残った肉を挟み、野菜を入れる。所謂、バーガーだ。


野菜を入れる量はバラバラだ。

リョーガのは、彼が気付かない程度に入れる。

リリィのは、肉と均等になるぐらい入れる。

ユート自身のは、野菜がドッサリだ。


彼等の好みに合わせて入れている。ただ、リリィだけは分からないので、適当である。


出来た朝食から器に置いていき、彼等が起きるのを朝食を片手にPCを眺めなかまら待つ。

PCの液晶に映し出されているゲージは3/2まで進んでいるみたいだ。


「ぅん、んんっ」


リリィが起きたみたいで、伸びをする声がユートの背後から聞こえた。

振り返って確認すると、眠たそうに欠伸をして目を擦っている。


「おはようさん」


とりあえず朝の挨拶をしたユート。彼は余り朝の挨拶をしないので、珍しい。


「…おはよう」


またもや欠伸をするリリィ。大きく広げられた口元は手で覆い隠されている。


「これ、朝食やから」


「ありがとう」


朝食をユートから渡され、礼を言ってからバーガーを受け取り、パクパクと小さな口を大きく開けて頬張り始めた。

リョーガは未だに寝ている。グースカといびきをかきながら気持ち良さそうに寝ている。

彼が手に持つアレは健在である。


取り敢えず、ユートはリョーガを軽く蹴ってみた。


「うぅ……うう”う”……」


流石のリョーガも軽くと言えど、安全靴で蹴られれば痛いみたいだ。

実は、ユートが履いている靴は普通の靴に見えて防水の安全靴なのだ。今の時代に珍しい鉄板入りなのだ。だが、そんな事はユート以外誰も知らなかったりする。


もう一度蹴る。蹴る箇所は脇腹だ。なぜなら、そこには骨がないので、内臓に直接攻撃が当たるからだ。


「う”ぅぅ…」


リョーガは、表情を顰めて寝返りを打った。起きる気配はなさそうだ。少し楽しくなったユートは再度、蹴りを放とうと軽く足を持ち上げた。

その瞬間、寝ていたはずのリョーガの目がパチっと開き、足を掴まれた。


「おはよーさん」


ニッコリと笑顔を作って朝の挨拶をする。ユートはこの後、自分がどうなるかが簡単に予測できた。


「朝からイラつかせんなボケナス!!」


般若の形相を浮かべたリョーガはユートの足を掴みながら大きく横に振る。

それに伴い、ユートの体も引っ張られた。


リョーガが手を離すと、結果は必然。ユートは壁際まで投げられ、頭を壁にゴッチんこした。かなり痛そうである。


今日も今日とて彼等は変わらず漫才を繰り広げる。それを一観客として眺めながら朝食を食べ終えたリリィ。


ユートからすれば美味しくない簡易料理だったが、リリィは美味しそうに平らげていた。今も、手に付いたパン屑などを舐め取っている。


「あいたたた…」


頭を抑え、痛そうにしているユート。仕草は演技のようにしか見えないが、彼は本当に痛がっている。ただ、まだ演技のように見せる余裕があるだけだ。


そんなユートを人1人を簡単に殺せそうなほどの強烈な眼孔で睨みつけるリョーガ。

そんな事はいつもの事なユートは苦笑いを浮かべながら言う。


「取り敢えずさ、朝飯(あさめし)食えよ。あそこ置いてるから」


PCの置かれている机にある朝食を指差して言った。そんな事でリョーガが彼を許す事も、話題をすり替えられる事はないが、腹は減っているみたいで、素直にユートの言葉に従った。

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