レイルムとの出会い
「確か、この辺やったっけ?」
そう呟いたリョーガは、視線を前へと向ける。
そこには、小屋付きの大きな庭があり、その奥にはより巨大な屋敷がある。
手入れが良く行き届いているようで、庭には芝生が、鉄のような材質で出来た小屋は太陽に照らされてキラキラと輝き、屋敷は使用感に溢れているが、汚れ一つない。
「まぁ、行ってみるけ」
そう言って足を敷地へと踏み入れた刹那、すぐ側から何かが飛来して来た。
すかさず、その何かをキャッチしてから警戒心を高めて視線を巡らせ、耳を済ます。
足元からカラカラと音が聴こえてきた。
バッと視線を足元に向けると同時に、またもや何かが顔目掛けて発射された。
その何かをキャッチ。そして、原因を踏み潰す。
足裏で感じた硬い感触がグシャリと潰れたのを肌身で感じ取り、足を上げてみると、そこにはオモチャの戦車があった。
何かをキャッチした手を開けてみると、そこには小型の弾丸がーー。
「って、くっさ!!」
激臭だった。
動物の糞やアンモニア臭など。ありとあらゆる悪臭いをごちゃ混ぜにしたような猛烈な香りが弾丸から放たれていた。
リョーガは確信した。
こんな事をする奴は一人だと。
「ユートや」
それ以外の可能性なんて有る筈がない。
なにせ、戦車の造りは精巧で細かな所まで再現されており、弾丸なんて、イタズラ好きのユートの発想でしか造れない代物なのだ。
確実な確信を持てたリョーガは屋敷へと足を進めた。
その前に、弾丸を投げ捨ててから【アイテムボックス】に保管されていた水で手を洗いまくったのは言うまでもない。
ーーー
その頃、レイルム・シャンガルはと言うと、ノンビリと毎日を過ごしていた。
甘いコーヒーを飲みながら新聞を読むレイルム。ふと、視線を上げてみれば、部屋内をウロチョロと歩き回るミナが目に入る。
「ミナ。その手袋と靴、随分と気に入ってるみたいじゃの」
「掃除に便利なんです!」
どうやら、ユートが汗水流して三日三晩掛けて作り上げた力作は掃除道具として活躍しているようだ。
確かに、ミナの着けている肉球が主張された手袋と靴は【清浄】のスキルが付与されており掃除にはピッタリだろうが、決してユートはその為に挙げたのではない。
その格好でどこへ行っても汚れないように、そして、何度でも使えるように造られた物だ。
もし、この仕様用途をユートが見つけようものならば、心から嘆くだろう。
「レイルム様。少々お時間宜しいですか?」
ノックをしてから部屋に入って来てレイルムを呼んだのはメリナだ。
ユートが挙げた手帳を大事そうに胸に抱えている。
「どうしたのじゃ?」
「侵入者です。防衛ロボ《タンク君》が壊されました」
防衛ロボ《タンク君》とは、ユートが作った迷惑戦車である。
今では防衛用ロボットとして機能しているが、それまでは酷く迷惑な代物だった。
壁や天井を走り回り、人を見つけ次第に激臭を放つ弾丸や刺激の強い弾丸を放つ迷惑極まりない物だったのだ。
今ではキチンと防衛用として働いており、大変役に立っていた。
その機動力は猫人のミナでさえ捉えきれず、苦労した程であり、並大抵の人間などには負け知らずだった。
だが、それが侵入者によって破壊されたとメリナは言った。
そうなると、侵入者の強さは並大抵以上と言う事になる。
暫く考えていたレイルムは新聞から顔を上げてニヤリと笑い指示を出す。
「ミナ、メリナ。寛大に持て成してやるのじゃ」
「はーい!」
「はいっ!」
ミナはスタタタッと掛けて行き、メリナはユッタリとした動作で部屋を後にした。
「さて、儂も行くかの」
新聞をコーヒーの入ったコップの隣に置いてから、机に立て掛けた龍を模して造られた杖を手に持って部屋から退出した。
ーーー
レイルム・シャンガル。
彼は剣聖の位に最も近付いた者である。
生憎と剣聖には至れなかったが、歴史に名を残す程の名のある剣豪として世に知られている。
別名『刹那の螺旋』そう呼ばれる程に彼は強かった。
だが、そんな彼が目の前にした存在は決して敵対してはならない相手だと肌で感じ取った。
ただ視界に入れただけ。それだけで彼は怖気付いてしまった。
「ミナ、メリナ。下がってるのじゃ」
それでも、主人である彼は孫のように可愛がったミナとメリナを下がらせて奴の眼前に立つ事を選んだ。
奴の瞳は、人を何人も無差別に殺戮したような、そんな凶悪さを秘めており、漂う雰囲気は圧倒的な強者である事を示している。
脳内で模擬戦闘を繰り返して勝つ方法を模索するが、どうやっても勝てはしない。
しかし、レイルムは引かない。剣士であると共に、後方に控える彼女達の主人として引くわけにはいかないのだ。
恐怖心を抑え込み、いつでも仕込み刀を抜けるように杖頭を強く握り締め、気丈に振る舞うように努める。
そして、相対して間も無く。奴が口を開いた。
「なぁ、ユート知らん?」
「………」
これまでの心構えはなんだったのか。と言える程に拍子抜けした言葉に驚きすぎて言葉を発する事も忘れさせられた。
それがレイルムとリョーガの初めての出会いであった。
〜〜〜
場所は移動し、応接室のような客室にて。
「ーーっと言う訳じゃ。上手くいけばアークノート学園。失敗しておったらサスリカじゃろうな」
レイルムが話した内容は、ユートが何の為にどこへ旅立ったか。と言う事だった。
「成る程、成る程。で、ここには居へんと」
「すまぬが、そう言う事じゃ」
レイルムとリョーガの会話が一区切りされると同時に、空になったコップが回収されて、新たなコーヒー入りのコップが机に置かれた。
「あ、どうも」
「ごゆっくりどうぞ」
リョーガは普段はアレだが、一応は礼儀を知っている人間だ。
だからこそ、コップを置かれたら小さく会釈して礼を言う。
「ユートと大違いじゃの…」
リョーガとユートとでは色んな所で違いが多い。まるで正反対だ。
ユートの友人だとは俄かにも信じ難い。
「レイルム様。アレを出さなくても良いのですか?」
ふと、メリナは何かを思い出したかのようにレイルムに進言した。
「ああ、そうじゃったな。持ってきてくれぬか?」
「はい。ミナに頼んでおきます」
そんな会話をして、メリナは部屋から退出して行った。
のほほんとした雰囲気が部屋内に漂う。
リョーガはソファにもたれかかり、チビチビとコーヒーを飲んで味を嗜みながらタバコを吸っており、レイルムは机に置かれた新聞に目を通している。
そして、自分の目を疑った。
「りょ、領主が死去っ…!?」
「ん?」
何事かと思い、レイルムの視線の先にある記事を読むリョーガ。
そこには、『ハウグリル・サートンが何者かによって殺害された。死体は依然として見つからず、ララトゥールの村にて戦争跡を発見』と書かれていた。
なぜかレイルムの頭の中にリョーガとの会話が思い返された。
『わざわざ、ラ・ドルミィから来てもらったのにすまぬの』
『いや、移動は楽やったからええんよ。捜すのに手間取っただけや』
『それにしても、良くここが分かったの』
『ん?ああ、ユートがこの辺やって言っててんよ。んで、ここに来る前にユートが居った村でようやく手掛かり掴めてんよ』
『そうか。それは大変じゃったじゃろうて』
その時は他人事のように感じていた。
だが、思い返した言葉に『ユートが前に居た村』との言葉が入っていた。
それは、新聞に載っているララトゥールで間違いない筈だ。
内容と日にちも多少の誤差はあれど、一致する。
恐る恐る視線を上げてみると、『どうしたんだろう?』的な表情を浮かべた凶悪顔が目に入った。
一瞬、悲鳴を上げそうになったものの、それは失礼だと自分に言い聞かせて自制を利かし、それとなく尋ねてみる。
「お主、ララトゥールの村から来たんじゃよな?」
「せやで」
「そこで何か起きたりせんかったか?」
「起きる?…ああ、アレか」
「アレ、とは?」
「アホ集団が煩くして寝られへんかったから、叩き潰した」
「………」
間違いなく、目の前の存在が新聞に載っている問題に噛んでいた。
レイルムは返す言葉が見つからなかった。
まさしく、ユートの友人に相応しいとも同時に思った。
どちらも滅茶苦茶な存在なのだ。
ユートは機械や魔術に関して超が付く程の一流で、体術も飛び抜けているのに対し、目の前のリョーガは、居るだけで脅威となる圧倒的存在感があり、熟練の剣士であるレイルムでさえも戦う前から平伏してしまう存在。
力量は戦ってみないと分からないが、戦いたいと言う気持ちすら彼を前にすれば戦意を否が応でも失くすだろう。
ユートの場合は戦う前から決着は付いていたが。
「まぁ、良いか」
ここの領主は碌な人間ではなかった。
権力を振りかざし、悪逆非道を繰り返していたのをレイルムは良く知っていた。
実は、その被害者に何度かなった事もあったりした。
だからこそ、この様な形でアッサリと切り捨てられた。
「して、リョーガよ。これからーー」
何かを言い掛けたレイルムだったが、突如部屋に押し入って来た輩の所為で話を止められた。
「レイルム様。申し訳ありません」
遅れてやって来たメリナが、彼等を止める事が出来なかった事に謝罪した。
その輩とは、
「リョーガ!勝手に行くなっていつも言ってんだろ!!」
「はぁ、はぁ、はぁ…は、速すぎだ」
少し怒った口調のエリオスと、情報屋のザグサだった。
散々走らされたのか、ザグサは息切れしており、肥大に粒の様な汗を浮かび上がらせている。
「なんじゃ、リョーガの知り合いかの?」
彼等が押し入って来たとしても一切動じないレイルム。
リョーガの存在とユートが居た頃と比べたらマシな方なのだろう。
「いや、俺の下僕や」
「そ、そうか…」
だけど、リョーガの発言には苦笑いを浮かべた。




