ニーア
レイルム達の住む街、ニーア。
そこに、とある四人組が足を踏み入れた。
その者達の名は、リョーガ、エリオス、ユース、リリィ、クリムである。
「さて、ユートがココに居るって言う情報は得たが、これからどうするよ?」
席について始めに声を発したのはエリオスだ。
街に入ってすぐにある酒場に入った彼等はこれからの事を話し合う。
つもりだったが、リョーガには関係のない話らしい。
「そんなもん、草の根掻き分けてでも探したらええやんけ」
「誰が?」
「お前が」
「またかよっ!コンチクショー!」
この会話は何度目だろうか。
エリオスは半泣きになりながら街中へと駆けて行った。
「エリオスさん、毎度の事ながら頑張ってますね」
「そうね。街に入る度、リョーガの無茶な命令で動かされてるものね」
「可哀想なのっ!でも、頑張って欲しいのっ!」
走り去ったエリオスを哀れむような会話をする三人。
もう何度も行われている為か、反論は一つも無く、哀れみを送るだけだ。
「それはさておき、僕は宿屋を確保して来ます」
リョーガに面倒事を押し付けられる前にユースは逃げた。
「私はクリムと一緒に街を散策してるわ」
「するのっ!」
リリィとクリムはそう言って酒場を後にした。
一人残されたリョーガはと言うと、
「ギルドにでも行くけ」
特にこれと言ってする事がない為、リリィとクリムが飲んだ飲み物代を机に置いて、冒険者ギルドへと向かった。
ーーー
俺の名はエリオス。
酒場を後にした俺は、いつも通りだが、他の酒場へと向かった。
理由は一つしかない。
「なぁ、少し情報が欲しいんだが」
どこの街にも情報屋は居る。
これまでは余り縁のない日陰者達だったが、リョーガと出会ってからは違う。
裏ギルドから暗殺ギルドまで。そう言う闇取引などに関して縁が深くなってしまった。
「何のだ?」
「ユートって奴の事だ」
「………」
情報屋は少し考える素ぶりを見せている。
この場合に当てはまる事は二通りある。
一つは、ユートの情報を知らない。
もう一つは、金の計算をしてやがる。
だが、こいつはそのどれもが違った。
「お前、ユートの何なんだ?」
そいつの瞳から強い感情が漏れ出し、俺を警戒しているのが伺えた。
どう言う事だ?
これまでは、金さえ払えば何でも教えてくれたが、ここに来て初めて情報屋が警戒する所を見た。
兎も角、どう返答しようか。
嘘を言うか、事実を述べるか。
悩んだ挙句、俺は真実を語る事にした。
「俺の仲間がユートの古いダチなんだ。それで、行方不明になったユートの所在を調べている」
「なら、その友達とやらに合わせてもらおうか」
こんな事は初めてで正直に驚いた。
情報屋は大抵、表には顔を出さない。裏方の人間だ。誰かと顔を合わせる事なんて、まずしないだろう。
「ああ、分かった」
少しばかり取り乱したが、これと言って問題はないはずだ。
それに、リョーガとは一緒に行動している為、わざわざ街を渡る必要もない。
リョーガはおそらくギルドだろう。
いつも、金を稼いでいるのは俺らよりもリョーガだからな。
〜〜〜
冒険者ギルドに情報屋と共に来たのは良いが、リョーガは依頼を受けたようで街の外に行ってしまったようだった。
「どうする?待つか?」
「そうだな」
俺達はギルドの中にある酒場エリアへと移動し、そこで適当な飲み物を頼んでリョーガの帰りを待つ。
ギルド嬢が飲み物を届けてくれ、それを飲んでいると、飲み物に興味を示さない情報屋が口を開いた。
「お前、ユートを捜してると言ったな」
「ああ」
「捜してどうするつもりだ?」
「どうするって…」
どうすんだろ?
リョーガは何か目的があったみたいだが、俺には特にない。
俺は好きでリョーガに付いて行ってるだけだ。
同行を許して貰える代わりに、俺はアイツの雑用をしている。
まぁ、ユートは噂に聞く限りじゃ、危ない奴じゃないだろうけど、リョーガ同様に頭がイかれた奴なのだろう。
それでもリョーガの友人なのは代わりないけどな。
「俺には皆目見当が付かん。これから会うリョーガにでも聴いてくれ」
「そうか…」
俺と情報屋は黙って飲み物を飲む。
中身が空になれば、新たな飲み物を頼む。
情報屋は束になった鉄製のカードを組み替えたりしている。
その仕草を眺めながら時間が過ぎて行くのを感じ取っていると、ふと情報屋が顔を上げてカードから視線を外して俺を見た。
「このカードはユートに貰ったものだ。アイツは俺らの命の恩人なんだ」
命の恩人…か。
そう言えば、俺もリョーガに命ほど重たいものじゃないが、未来を助けられたような気もしなくはない。
そう言う事ならば、俺と同類なのかもな。
「俺はな、奴隷だったんだ。買われるのを待つだけの奴隷だ。だが、アイツが…ユートが来てから全てが変わった。ツマラねぇ日々がアイツが来てからと言うもの、毎日が楽しくて仕方なかったんだ」
まぁ、すぐに買われて出て行ったがな。と言って寂しそうに笑った。
「どこに買われたんだ?」
「それは…ユートの友人を確認してから答える」
このタイミングなら答えてくれると思ったが、やはり無理だったみたいだ。
にしても、ユートかぁ…。一度しか会った事ないが、いや、会ったって言えるのかどうかも怪しいが、一体、どんな奴なんだろな?
常に笑ってる腹黒そうな奴ってのが第一印象だったが…。
「なぁ、ユートってどんな奴だったんだ?」
「アイツか?アイツは…そうだな。兎に角、イタズラ好きだったな」
イタズラか…。
言われてみりゃ確かにそうだな。
リョーガに渡す物に何かしら仕掛けがあったしな。
「それに、大人びてて、子供っぽい。何に関してもヤル気の無さがあったけど、何かに必死になってたな」
遠い目をしながら思い返す情報屋。
「初めて話したのは、俺に毛布を貸してくれた時だった。今でも憶えてる…アイツも寒かっただろうにな…」
情報屋の話から察するに、ユートは奴隷落ちして、買い取られたと言う事だな。
で、情報屋はその時にユートと知り合ったって訳か。
……ユートって一体何者だ?
っと、そろそろリョーガが戻って来そうだな。
リョーガの気配を探ってみれば……すぐに見つかった。
ギルドの隣にある解体所に居るみたいだ。
また依頼に関係のない巨大な魔物でも倒したんだろう。
「どうやら、帰って来たみたいだ。隣の解体所に居る」
「そうか…」
情報屋は寂しそうにトランプを見つめてからポケットに仕舞い込んだ。
ユート、かなり慕われてるみたいだな。
飲み物を飲み過ぎてお腹の中がチャプチャプしてやがるが、その分の金を机に置いて立ち上がる。
俺に合わせて情報屋も立ち上がり、俺達は隣の解体所へと足を運ぶ。
解体所に入ると、すぐにリョーガの姿が目に入った。
当たり前か。バカでかいバッファボアのすぐ近くに居たからな。
「リョーガ。ユートの事を知ってる奴を連れて来たぞ」
「ちょい待ち。今交渉中や」
そう言って、職員と何やら会話してから、解体用の台をガンッと殴ってヘコませ、半端脅しのような形相で二、三言吐いて俺らの元に来た。
職員は膝から崩れ落ちている。
まぁ、その気持ちは理解できなくもない。
「で?」
「あ、ああ。この情報屋がユートの知り合いらくてな。お前に合わせてくれって言ってたんだ」
そう言って俺の背後に居る情報屋をリョーガの視界に入るようにする。
すると、情報屋がビクッと身動ぎした。
予測だが、リョーガの威圧的な視線に驚いたのだろう。
「お、俺はザグサってもんだ。お前はユートの友達だと聴いたが、ほ、本当か?」
強がってはいるようだが、怯えているのが見えてなくても分かる。誰だってそうだろう。
それなりに冒険者として過ごしてると何となく分かるんだ。コイツは危険な奴だってな。
情報屋もランクは違えど感じているのかもしれないな。
「なんや?俺がユートのツレで何が悪いんや?文句あんのか?あ”ぁ?」
どうもリョーガのご機嫌は斜めの様子。
少しタイミングをマズったか?
「い、いや。そう言う訳じゃ…と、取り敢えず、これ見てくれ。ユートの友人なら分かるはずだ」
そう言って情報屋が取り出したのは、例のカードの束だ。一枚一枚に何やら柄が描かれており、ハッキリとした材質は分からないが、良くしなる金属質な物の様だ。
「そのトランプがどないしんたんよ?ユートと何か関係あんの?」
それはトランプと言うらしい。
リョーガのその言葉に情報屋は目を見開いて驚いている。
「やっと…やっと俺はユートの友達に会えたのか…。話には聴いていた…お前がか…」
何やら情報屋はひどく感動しているみたいだ。
ユートと一体、何があったのかは知らないが、涙を流す程の事じゃないだろ。
「俺が知ってる事なら全部話そう」
ーーー
冒険者ギルドの酒場へと舞い戻ったエリオス達。
そこで、ザグサが語った事は、ユートは奴隷になった後にシャンガルと名乗る貴族に買われた。と言う話だ。
そして、それ以上の情報は入手できなかった。
「成る程な。って事は、そのシャンガルって奴の所に行ったらええんか」
「おいおい、相手はシャンガル家なんだぞ。そう簡単に行くわけないだろ」
リョーガの発言を一蹴りしたザグサ。
だが、我が道を行くリョーガは決して諦めない。
「んなもん、俺が知るかよ。貴族やろうが何やろうが、俺には関係あらへんわ」
「はぁ…やっぱりこうなるよな…」
エリオスはリョーガの言葉に呆れの混じった溜息を吐いて、他の方法を思案してから思いついた事をザグサに尋ねてみる。
「ザグサ。誰か仲介を頼める奴は居ねぇか?」
「残念だが、誰も居ないんだ。あの一家は少し特殊でな、この街の誰かに仲介をさせたいのなら領主と掛け合うしかないだろうな」
「領主か…」
エリオスは領主に掛け合うのも難しいと考えているが、それは領主が居た場合の話だ。
この街で悪政を敷いていた元凶の領主。それは、数日前にララトゥールの村にて殺害され、今では土の中で安らかに眠っているだろう。
まさか、この街の領主を殺してしまっているなど梅雨も知らないエリオス達は、どうしようかと悩む。
「っ!?リ、リョーガは!?リョーガはどこ行きやがった!?」
気が付けば、すぐ側に居た筈のリョーガの姿がなく慌てるエリオス。
当然の反応だろう。今までの話を聞いて、リョーガが何をするかなど易々と想像できるからだ。
これはマズイ。そう思うエリオス。だが、目の前にはエリオスが焦る理由を全く理解していないザグサが居る。
説明する時間は惜しいが、人手は多い方が良いと判断したエリオスは簡潔ながらに説明する。
「あのバカ、シャンガル家に行きやがった!早く止めなきゃヤバい事になるぞ!!」
「?そりゃどう言うーー」
意味だ?とザグサは問おうとしたが、言い切る前にエリオスは焦燥を露わにギルドを飛び出して行った。




