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勇者


次の授業は昼からだ。

そうなると、途端に暇になってしまったユートは、塔に登って学園を眺め始めた。


「えっ!?今から勇者様が決闘するの!?」

「勇者様って…あんな奴の何処がいいんだよ…」

「そうですの。ご一緒にどうですの?」

「行く!行きます!!」


ドタバタとユートの足元付近の生徒会室から聴こえ、バンッと扉が閉まる音が聴こえると途端に静かになった。


「ったく、どうして女は英雄に憧れるかねぇ〜」


淋しそうな男の呟きが聴こえてくる。

塔の上から学園内を眺めていたユートは視線を足元に向けてウズウズしている。


「一体、いつになったら振り向いてくれるんだか…」


ウズウズ、ウズウズと落ち着きなく、足元の男性が気になって仕方がないユート。


「はぁ…何が勇者だよ!チクショーー!!」


男性が心の中に溜め込んだ物を吐き出すかのように雄叫びを上げた。

同時に、我慢できなくなったユートがヒョッコリと顔を生徒会室に覗かせる。


「うわっ!?」


男性は突然ヒョッコリと出てきた生首に驚いて尻餅を着いた。


生首であるユートは、ニッタァーと嗤ってから生徒会室にアクロバティックな動きで降り立ち、尻餅を着く男性に手を差し伸べる。


「お、おま、どうやって…」


だが、男性はユートの手を取らずに後退った。

なのにユートは気にした様子もなく、差し伸べた手をグッと握ってから戻して学園全体を見渡せれるバルコニーへと体を向ける。


「ここって眺めええよな。登んのは大変やけど、風とか景色とかスッゲェ綺麗でさ」


バルコニーの手摺につかまり、遠い目をして言葉を続ける。


「ってなわけで、聴いちゃったわけよ。勇者とアンタの恋心の話を」


「っ!?」


「せやからさ、今から闘技場に行って例の勇者と闘って恋を勝ち取ってみーへん?」


クルッと反転。ニコニコと笑みを浮かべながら男性の前まで行き、再度手を差し伸べるユート。


男性は躊躇いながらもユートの手を取って立ち上がり、顔を足元に向けた。


「相手は勇者だ。俺なんかが勝てるわけない…」


「勝てるって。なんなら、俺が手貸したるがな」


ニコニコと笑いながら男性の肩に手を置いて、男性に期待を持たせて顔を上げさせる。


「選びや。薬か、武器か、肉体改造か。なんなら全部でもええで」


肩から手を離してポケットから錠剤の入った小瓶を二つと小さな箱ーー《クエスチョン・ボックス》を幾つか取り出して近くの机に置く。


「好きなん選び。後は気持ち次第で勇者に勝てるから」


「勇者に勝てる……」


そう呟きながら、男性は選んだ。



〜〜〜



『勝者、勇者様ぁ!!いやぁ〜、素晴らしい闘いでした!まさに、圧倒的!ダーラス君は手も足も出ませんでしたね!』


昨日聴いた声が拡声器越しに闘技場に響き渡っている。

観客の生徒達は大きな歓声を生み、賑わいを見せる。


誰でも憧れを抱く勇者。彼が来てから毎日の恒例となった決闘に今日も決着が着いたようだ。


勇者の姿は、この学園の制服を着ているが、襟に勇者だけに与えられる小さな白い羽のブローチを着け、腰には白銀色の鞘をぶら下げている。


学園内の帯剣は認められていないが、勇者だけは特別に認められているのだ。


だからこそ、分かり易い。


勇者は応援をしてくれた生徒達に手を振りながら闘技場を後にしようと出入り口へと足を向ける。


だが、その出入り口からノッソリとユートが差し向けた者が現れた。


「勇者テンマアァァ!勝負シロォ!!」


勇者を視界に入れた途端、雄叫びを上げるかのように宣戦布告した彼の姿は変わり果ててしまっている。


筋肉が盛り上がり、制服が張り裂けて露わになった肉体。伸びて地面に着いてしまっている茶と白が織り混ざった髪。

今にも「フシューッ」と口から蒸気を吐き出しそうな程の形相を浮かべている。

あの時の男性だとは思えない程に見違えてしまった。


その原因は、彼の手に握られている黒いモヤを発する極太の斧だ。

ユートが作り上げた失敗作の中の一つ《狂戦士の斧(バーサク・アックス)》。


失敗作認定された理由は、名前の通りの狂戦士と化してしまうからである。意識はあるものの、全てが朧気で、前後の記憶までもが曖昧になってしまうのだ。


『おおーっと、乱入者です!!警備は何をしているのでしょうか!』


と実況は語るものの、遅れて来た情報に驚きを隠せなくなったのが拡声器越しに流れた。


『…えっ!?ウソ!…え、えーっと、どうやら、警備兵は全員医務室に運ばれたそうです!犯人は間違いなく彼でしょう!なので、先生方!お願いします!!』


彼女の声に教師達が数人、観客席と闘技内とを隔てる壁を乗り越えて彼に立ち向かう。が、魔法では彼の肉体に怪我の一つすらも付けられず、いざ接近戦となったとしても、攻撃する前に一瞬の内に接近され、軽く叩かれただけで壁へと激突し、強制的に意識を狩り取られる。


まさに、化け物に相応しい。


ただ腕を振るっただけで風が唸り、足を動かしただけで地面がヒビ割れる。

そんな彼を見て、本来の姿を印象付ける事などできやしない。


「勇者ァァ!!」


彼の血走った目は勇者テンマにしか向けられていない。周りの事など眼中にないのだ。


「仕方ありません…僕が相手します!先生方は生徒達を守って下さい!!」


さすが勇者。勇ましい言葉を教師達に投げ掛けて剣を構える。


だけども、彼は余り周りを見ないのだろうか。この場にいる教師は半数以上が気を失って倒れている。


「アハハ、アホやん」


その事に気付いているユートは闘技場を一望できる場所ーー闘技場の周囲に建っている魔法石によって結界を張って闘技場外に被害を及ばないようにする為の塔の天辺から笑って見ている。

ちなみに、服装は全身ローブだ。フードも付いているが被っていない。


「さて、バーサーカ君。頑張って勇者君を倒してね。まぁ、倒せんくても勇者君に本気を出させて欲しいかなぁ〜」


バーサーカと化した男性と勇者が睨み合っているのを数秒間見続け、次の展開に進まない事に苛立ちが込み上げてくる。


「前置きはええねん。早よせぇや」


少し苛立ちが混じったユートの言葉が聞こえたのか、バーサーカは最大限の威圧を込めて斧を掲げて雄叫びを上げた。


「グガアァァァァ!!」


その勢いのまま、斧を振り下げる。


ーーズドォン!!


地震が起きたのかと勘違いする程の地響きが起き、地面を陥没させた。

圧倒的である。


だが、勇者は気にした様子もなく、冷静に剣を構えて相手の見据える。

それが気に食わなかったのか、バーサーカは斧を引き摺りながら勇者に向かって駆け出した。


瞬く間に縮まる距離。轟ッと風を切りながら振り上げられる斧。


ーーギンッ


その重量は、例え、切り上げの攻撃だとしても相当な物だ。なのに、勇者は軽々と剣を横に構えるようにして巨大な斧の攻撃を物理法則を無視した形で防いだのだ。


それには、勇者の戦い方を観察していたユートをも目を見開かせて驚かせた。


「んなアホな」


ユートは咄嗟にスキルを使用して勇者のステータス及び剣のステータスを盗み見て、納得した。


「なるほど…面倒くさそうな奴やな…」


ユートをそう言わしめた彼のステータスは、


名前:原田 天馬

種族:異世界人

職業:勇者

状態:良好

レベル:36

HP:2519/2520

MP:1260/1260

STR:762

DEF:628

INT:89

DEX:87

AGI:233


[スキル]

〈アクティブ〉

【勇者の光LV6】【光の剣LV7】【光の盾LV7】【剣術LV8】【アイテムボックスLV6】【身体強化LV7】【先読みLV6】【鑑定LV4】


〈パッシブ〉

【翻訳】【剣士の心得】【全属性耐性】【全状態異常耐性】【物理攻撃軽減】【魔法攻撃軽減】【勇者の心得】


[魔法]

《光》


[称号]

異世界人、勇者、神に愛された者、神々の使い、神々の加護、精霊の加護




武器ーー《エクスカリム》


スキル

【全攻撃軽減】【波撃の光】【妖精の加護】【防御無視】【破邪の光】【重量軽減】


レベルがユートの何倍も低いのにも関わらず、ユートの何倍もあるステータスであった。


ユートに『こりゃ、バーサーカー君は負けるな』と思わせた程のステータスである。

自分自身でも勝てるかどうか危ぶまれる程の力量だ。


バーサーカーが猛攻を繰り広げるが、勇者は片手で軽々と攻撃を受け続ける。

それは、バーサーカーにとってとても悔しい事に違いない。

ユートに助力を得てまで得た力なのに、一切通用しないのだ。もし、反撃などされればたまったものではないだろう。


「はぁ…」


正直な話、ユートからすればバーサーカーが勝とうと負けようとどちらでも構わないのだ。


ただ彼は目的(・・)を成し遂げたいだけだ。だけど、既に見えてきた未来は失敗である。

ユートは諦めの溜息を吐いて、この場から早々と退散しようとする。


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