先生ですが何か?
『戦いはまだ始まったばかりです!これからどんな戦いを見せてくれるのか、楽しみですね!マリンさん!!』
『えっ、は、はい…』
実況と解説の二人の会話が聞こえてくる中、闘技場で向かい合う二人は相手の出を伺うかのようにジッと睨み合っている。
だが、それは少しの間だけだ。
先に動き出したのはサモート。
片手をユートに向けて、初めと同じように詠唱破棄によって魔法陣を作り出す。
「『爆発!』」
最後のトリガーとなる詠唱を行い魔法を放つ。が、彼が魔法を放つと同時にユートも魔法を放った。
「『大爆発』」
彼等の間で両者の魔法がぶつかり合い、巨大な爆発が起きる。
それを予測していたのか、両者共、ほぼ同時にもくもくと辺りを覆い隠そうとする砂煙の中へと突撃した。
この場合、普通ならば視界が効かない砂煙の中での戦いは困難を極めるだろう。
だがしかし、ユートは普通ではない。
視界の効かないのはサモートだけ。完全にユートの有利な場面である。
そんな所に無謀にも突撃したサモートの行く末は『一方的に殴られる』であった。
砂煙が晴れて来て見えてくるのは、悲しきかなサモートの哀れな姿。
ズタボロになったサモートはなぜか全裸で、くの字に倒れており、その上ーー彼の背中に足を置いているユートは、サモートが着ていたであろう服を片手で掲げ上げながら、もう片方の空いた手で彼を指差し笑っている。
『これはっ!?一体、砂煙の中で何があったのでしょうか!?あのカッコよくて熱血だったサモート先生が変わり果てた姿になっています!!』
『ユートさんの目は、普通なら視界が悪くなる所でも見えますからね…』
マリンも少し呆れ気味だ。
少し離れた所から傍観していた審判がサモートをツンツンと突つき、反応がないことを確認した後、困ったように勝者を宣言する。
「しょ、勝者、ユート!」
「うぇーい」
勝てて嬉しいのか、持っているサモートの服を全て投げ捨て、パンツだけを指先でクルクルと回して主張する。
ちなみに、パンツはブリーフ型で、柄は黄色と黒のシマシマーー鬼のパンツだ。
それは兎も角、パンツにポケットから取り出した石を入れて観客である生徒達に投げつけるのはどうかと思われる。
『どうやら、ユート先生が勝ったようですが、どう思いますか?マリンさん』
『どうと言われても、ユートさんが負ける所なんて想像できないので…』
『確か、ユート先生はマリンさんの師匠でもありますものね!その考えは当然の事だと思います!』
『いえ、そう言う意味じゃーー』
『では、これにて決闘は終了です!生徒達は授業に戻って下さい!』
マリンの言葉をぶった切って解散を知らせる実況。
生徒達は言われた通り、ゾロゾロと闘技場を退出して行く。
哀れな姿で瀕死になったサモートが運ばれて行き、生徒の半数程が退出した頃。
ユートも退出しようかと思い、呟きながら足を出入り口に向ける。
「さて、俺もーー」
散歩に出掛けよ。と言い掛けた。
「少し待て。お前に少し聴きたい事がある」
だが、背後から何者かに呼び止められて『遅かったか…』と言った面倒くさそうな表情を浮かべる。
声を掛けてきた人の方へと振り返ると、そこには学園長が居た。
実は、ユートは学園長が近付いて来ている事に気付いていた。
だから、彼は学園長から逃げようとした。が、思ったよりも足が速かったようで逃げ損ねたのだ。
「はぁ…」
「なんだ、その『メンドくさいヤツが来やがった』的な溜息は」
「………」
彼女の言葉が的確すぎて何も言い返せなかった。
「まぁ良い。それよりも、例の三人組の生徒の事だが、お前、何かしただろ?」
「何かって?」
「ほぅ、トボけるのか。あの三人組は一生治らない傷まで負う酷い怪我だったが、今はピンピンしている。もう一度聞こう。何をした?」
「……俺は何もしてないけど?」
「そんな筈はない。だったら、なぜあの三人の傷が一つ残らず消えたのだ?」
「は?傷が一つ残らず消えたって冗談じゃなかったん?」
さすがのユートでも、例の三人に負わせた傷を一つ残らず治す事なんてできっこない。心当たりが全くないのだ。
だが、学園長の瞳は嘘を言っているようには見えない。
ユートが出来る事と言えば、対象の体を機械に変える事ぐらいだ。例えるならば、ユートの身体半分や、マリンの妹であるキーニの片目などだ。
そこまでの事は出来るが、完璧に人を人の姿として元に戻す事などはユートには出来ない。
出来たとしても、魔道具を使用しての軽い怪我を治すぐらいである。
「お前以外にそんな事ができるヤツなんて居ないだろうが」
「いやいや。それはマジで俺ちゃうって。確かに完全治癒の魔術式は知ってるよ。けど、そんなもん俺の魔力じゃ無理や。それに、その魔力属性を俺はまだ持ってないからできへんよ」
できない理由を話したが、学園長は疑いの目をユートに向けたままだ。
「……では、誰がやったと言うのだ?」
「さぁ?魔力をより多く持ってて、属性が光系統のやつなら出来るんちゃうかな?」
「魔力と光系統か…」
学園長には何か思い当たる節があるようで、闘技場の壁に隠れて見えないが、校舎のある方向へと視線を向けた。
つられてユートもそちらへと視線を向け、彼女の視線の意味に気が付いた。
「成る程ね。アイツらか…」
魔力の量が異常に多く、珍しい聖属性の魔力を持つ者が居た。それと、隣に光属性の魔力を持つ者も確認できた。
その二名のどちらかがが三人組を治したのだとユートは確信した。
そして、その二つの魔力に渇望し欲しもした。
「良いなぁ…」
ユートにはない、全てを照らすかのような温かみのある純白の魔力に魅せられて羨ましげに呟いた。
ーーー
翌日。
全校生徒と全教師を校庭に集めての合同集会が行われた。
その理由は、ユートの初お披露目的なアレだ。
『おはよう諸君。さっそくだが、新人の教師を紹介する。昨日の事があったから既に知ってる奴の方が多いと思うがな』
学園長が拡声器越しに全校生徒に声を掛けてから、拡声器から口を話して眠たげに大きな欠伸をしているユートの方へと呆れた視線を向ける。
「昨日伝えておいた事、当然、考えてるよな?」
拡声器となる魔石をユートに投げ渡しながら言うと、ユートは飛来してくる魔石を視界に入れずキャッチして、欠伸を済ましてから学園長に視線を向けた。
「なんも考えてなかったわ。……まぁ、適当にやるって」
何も考えてなかったと言われた学園長は鋭い視線をユートに向けたが、彼はヘラヘラと笑って学園長と交代に壇上に上がる。
『えーー、俺が紹介されたユートや』
「もう終わっていい?」とでも言いたげな視線をチラッと学園長に向けると、睨み返されて話を続ける事にする。
『…趣味って言うか、よくやってる事は、人間観察と、”世界摂理への干渉”やな。後は実験とか物作りとかしてるわ。んで、この学園でアンタ等に教えんのは魔術と魔法の違いとか、そんな事やな。後は…んーー』
再度、チラッと学園長を見るが、顔を背けられた。これで終えて良いのか分からないユートは、もう暫くだけ言葉を繋いでおく。
『せやな。俺の事を少し話しとくわ。俺の職業は機械技師で、機械部品…主に、魔導機なんかを整備するのが得意や。ステータスは平均よりも低くて、たぶん冒険者のレベルで言ったらDにも満たへんと思う。…けど、体術とか戦闘は得意やし、知識量もアンタ等よりも圧倒的に多いから。そこんとこ、よろしく〜』
そんなグダグダな自己紹介だったが、生徒達は拍手をしてくれた。
いや、教師達が拍手したから、教師を見習って行ったのだろう。
誰もこんな自己紹介に拍手などしたくはないと心の中で思っているはずだ。
それから数分程が経ち、とある教室にて。
入って来て早々に気怠げに教卓にダラ〜ッと突っ伏した新人教師のユートは、手をフラフラとさせながら言う。
「ヤル気ないから今日は自習で」
「「「は?」」」
「「「「はあぁぁぁぁ!?」」」」
生徒達が驚くのも無理はない。
なにせ、彼は今日から赴任したばかりの新人教師である。そして、今日は彼が受け持つ授業の栄えある一度目。
なのに、なぜこんなにもヤル気がないのだろうか。
「せ、先生…?」
生徒の一人が躊躇いがちにユートを呼んだ。
「ん?」
彼は顔だけを動かして呼んだ生徒の方へと酷く眠たげな瞳を向ける。
「授業はしてくれないのですか?」
「んー、少し寝たらやる。それまで自習」
そこまで言うと、再度顔を教卓に押し付けて本当に寝始めた。
相当眠たかった事が分かるが、生徒達からすれば良い迷惑だ。
「おいおい。この教師、大丈夫かよ。授業を放って寝始めやがったぞ」
「昨日のサモート先生との決闘で勝ってたから、ユート先生の授業少し楽しみにしてたんだけど…これじゃあね…」
「期待外れかな?」
などと生徒達からのブーイングを受けているが、ユートは夢の世界に旅立っている。
そんな時、一人の生徒がある事に気が付いた。
「なぁ、よく見てみろよ。コイツ、スッゲェ寝方してるぞ」
「寝方って…うわぁ…」
その生徒に言われてユートの寝方を注視してみると、分かる。
教卓の下には椅子がない。そんな所で、教卓に突っ伏して寝ているのだ。
言ってみれば、半分立ったままで寝ているのだ。
「ある意味、凄い人ね…」
その言葉に生徒一同が頷いた瞬間であった。
〜〜〜
それから暫く立ってから、彼はムクリと顔を上げて夢の世界から帰って来た。
「ふぁーあ……」
大きな欠伸をした後、「さてさて…」と呟き両目を擦り、勉強や遊びをしている生徒達に話し掛ける。
「ほなぁ、やろかぁ…」
寝惚けてらっしゃる。
生徒達も苦笑いだ。何人かは未だに雑談やらをしている。だけど、ユートは彼等の反応をまるっと無視して授業を開始する。
「えーっとなぁ、ではまずぅ、魔法とは何か。と言う事から始めよっかぁ」
間の抜けた声と共に開始された授業に何とも言えない表情をする生徒達。
「んじゃぁ、一番先頭の君が答えてぇー」
取り敢えず適当に、と言った風に、一番前の席に座る、一番ユートの近くの生徒が当てられた。
まさか当てられるとは思ってなかった生徒は、動揺しながら答える。
「えっ、ま、魔法とは……詠唱を唱えて世界の理に干渉する事によって発動する現象です」
「ぶっぶー。少し近いけど、間違ってるでぇ」
どこから取り出したのか、ジュースの入った瓶を口に当て、中身を一気飲み。
「ぷはぁぁっ!」
気持ち良さそうに息を吐き、強烈な炭酸で目が覚まさせた。
「魔法ってのは、ありとあらゆる現象を体内にある魔力を対価として払う事で発動させれる力や」
「…同じ事のように思えるんですけど?」
「アンタらが言ってたのは、魔術の説明や。簡単に言ったると、詠唱で魔術式を作り出して魔術を発動させるって事になる。んで、俺が言ってる魔法ってのは、詠唱がなくてもイメージと魔力だけで発動させれるやつ」
成る程、と言う風に頷く者が数名。首を捻っている者が数名。そして、大半は反論だった。
「先生!詠唱だけで魔法は発動しません!」
後ろの方の席の生徒がビシッと挙手してハキハキとした口調で言った。真面目そうだ。
「アンタら勘違いしてるみたいやけど、アンタらが言ってる魔法と、俺の魔法とは別物やで」
「別物…?それはどう言った物でしょう?」
「んーー、説明し辛いなぁ〜。直接見た方が早そうやな」
そう言った途端、ユートの周囲に呪文も魔術式の発動もなく、大気中の水が集まって水の球が三つ出来上がった。
これだけで彼の凄さが生徒達に伝わり、興奮する者や観察する者が居る。だけど、一番大きいのは驚愕だ。
フヨフヨと浮く水の球に視線を釘付けにする生徒達に説明する。
「俺は魔力総量が少ないから、これだけしか出されへん。けど、無詠唱で魔術式も無しで発動させれるってなったら戦闘には優位に立てるのは間違いないなやろ?」
水の球が崩れ落ちると、ユートは、またもや何処からか瓶を取り出して中身の”魔力回復薬”を一気に飲み干す。
「これが魔法。詳しく言ったら、失われた魔法や」
「失われた魔法…」
「す、凄い…」
「あ、あり得ない…」
色々と生徒達が言っているが、構わずユートは話を進める。
「まぁ、俺が教えんのはこう言う事やな。あと、人体学やら体術に武器の使い方。それに、魔科学と科学とかも知ってるから、俺が暇な時に興味あったら聴きに来ぃや」
言い終えると同時にチャイムが鳴った。
どうやら、彼の話は手始めの挨拶のようなものだったらしい。
「ほな、俺の授業はこれで終わりや。明日からは実技に移るから、頑張りやー」
そう言い残してユートは教室から出て行った。




