表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/108

解説はマリン

………((((((((((っ・ω・)っブーン


「俺はユート。しがない奴隷や」


そう名乗って周囲を見渡す。


彼の立つ場所はならされた砂地の上。

ここは、学園の校舎近くに建っているドーム状の大きな闘技場であり、見渡す限りの観客席もある。そこには観客席を埋め尽くす程ではないが、多数の生徒達の姿がある。


「私はハール・サモート。魔術と魔法の専門教師である」


ユートの正面に立つ男性が名乗る。

ビシッとした佇まいに、引き締まった身体つき。本当に魔術教師かと目を疑う程の肉体系のイケメン教師だ。


『さぁ!さぁ!!始まりました!今回は珍しく教師が挑戦状を投げ付けたようですが、決闘は決闘です!!あっ、申し遅れました!実況は私、商業科2年のマルサートが行います!そして、解説は!』


『えっ!ぼ、僕!?え、えーっと、ぼ、僕は商業科2年のマリンです』


拡声器によって大きくされた声が闘技場内に響き渡る。

だが、観客達は盛り上がらない。戦いが始まるのを今か今かと待ち構えている。


『あの…どうして僕ーー』


『今回戦うのは、このお二方!!なぜか学園長に任命されて教師をする事になった奴隷のユート先生!!」


実況のマルサートの声が大きく、解説役のマリンの声が途中で遮られている。


そんな楽しそうな事を実況室で行なっている間にも、生徒達の嫌悪感の混ざった鋭い視線がユートに突き刺さっている。

それに顔を僅かに顰めるも、すぐに笑みを浮かべるユート。


『対するは、魔法・魔術の遠距離戦を好む肉体派教師サモート先生!!』


サモートは大手を振って自身をアピール。

歓声の上げる観客の生徒達。ユートとの人気の差が歴然としている。


『えーっと、サモート先生は魔術とか以外にも、剣術や体術と言った事が得意で、どうして魔術教師なんてやってるのかーー』


『との事だそうです!!噂では、元Aクラス冒険者と(まこと)しやかに囁かれてます!!』


案外、解説役が板に付いているマリンだが、話は途中で遮られている。

おそらく実況室では落ち込んでいるだろう。


話がひと段落した時を見計らってか、審判役の男性教員がヘラヘラと笑うユートと瞳に怒りを宿したサモートとの間にやってきた。


「では、両者、準備はいいかね?」


審判の言葉にサモートは頷き、ユートは大きな欠伸をした。


ユートの態度に困った表情を浮かべる審判。怒りを通り越して殺気を放ち始めたサモート。


ユートは欠伸をしながら空を仰ぎ見ている僅かな時を使って過去を思い返す。

それは、とある学生三人を行動不能にまで陥らせた後の事。


ユートは学園長に呼び出されていた。

理由は勿論、三人の学生の一生に致命傷を与えた事だ。


「で、だ。どう言い訳をするつもりだ?」


学園長の厳しい視線が突き刺さる。


「言い訳もクソもあるわけないやん。敵は殺す。襲ってきたら念入りに潰す。この世界の常識やろ?」


「少し度が過ぎているが、確かにそうだ。だが、ここは学園だ。我々教師達は生徒達を守る立場にあるのだぞ。それを貴様は理解しているのか?」


「してるよ。だから、殺さへんかったんやんか」


ユートの言葉に先を思い遣られる学園長。大きな溜息を吐いて頭を抱えている。


学園長が次の言葉を口にしようと開きかけた刹那、


ーーバンッ


学園長室の扉が唐突に勢い良く開かれた。


「だ、誰であるか!?私の可愛い可愛い生徒を傷付けたのはっ!!」


入って来たのは、息を荒だて、血走らせた瞳に怒りを宿したイケメン熱血教師だった。


「ノックぐらいせんか。サモート」


「そんな事は二の次である!今は私の可愛い生徒を傷付けた最低チキン鬼畜変態イカれ野郎に用があるのである!」


この学園のトップである学園長室に無遠慮に入って来たのにも関わらず、学園長の言葉に「そんな事」で済ました。

その事に、額に青筋を入れる学園長だが、冷静沈着で有名なだけはあり、溜息を吐くと同時に怒りを抑えた。


「その最低なんとかはお前の目の前にいるぞ」


「目の前であるか!?」


すかさず視線を学園長からソファに気怠げにもたれかかるユートへと向けられ、


「…目の前?………貴殿がそうなのであるか…?」


訝しんだ。

それもそうだ。彼等からすればユートの見た目は子供のそれと同じ。しかも、身長が高くとも、言動自体が子供染みているので余計に判断し難い。


学園長が肯定を口にしようとしたが、その前にユートがあっけらかんと罪を認めた。


「せやで。俺がやった」


ユートはソファでダラけきっている。背後を振り向いてサモートと顔を合わせて会話しようと言う行動すらとらない。


「小僧。冗談でも言っていい事と悪い事があるのである」


「小僧?冗談?ハハッ、俺はガキちゃうし、冗談でもない。男に二言は無いってやつや」


「ならば、小僧…貴殿が私の愛しき生徒達を傷付けたのだな?」


「傷付けたって言うか、行動不能にしたんやけどな」


ヘラヘラと笑って答えているユート。サモートからは後ろ頭だけしか見えていなくても、声からで判断できる。


「そうか……貴殿がか……」


バカにされているのだと。そう思えて仕方がないサモートは怒りを噛み殺したような声で納得する。


「決闘であるっ。貴殿に決闘を申し込むのであるっ!」


サモートは怒りを爆発させたかのような怒号で宣戦布告した。


それから、学園長も話に加わっての決闘に付いての話が勝手に進み、ユートが一言も発する事なく僅か一時間足らずで決行までこじつけられた。


そして、今に至る。


大きな、それはもう、回想まで含まれる大きな欠伸をしたユートが視線を下ろすと、今にも怒りを爆発させそうなサモートが居る。

どう言う仕組みか、全身から湯気を滾らせており、怒りのオーラを立ち昇らせている錯覚を覚える。


ユートの欠伸が終えるのを待っていた審判は、咳払いを一つ。「もう言わせないでくれ」と小声で呟いてから再度、同じ事をユートに向けて尋ねる。


「準備は良いかね?」


「いつでもええよ。負ける覚悟はできてるから」


ユートのネガティヴな答えに苦笑いを浮かべる審判は彼等から少し距離を置いてから、開始の合図を発する。


「始めッ!!」


「『エクスプロージョンッ』!!」


その言葉が言い終わるや否や、サモートは俊敏な動きで後方へと跳びながら手のひらをユートに向けて魔法を発動させた。


サモートの手のひらに合わさるように出現した魔法陣からは何も出ない。

代わりに、ユートの居る場所が大爆発した。


地面を抉り、空気を大きく揺るがす。距離を取った筈の審判をも爆風で吹き飛ばし、後方へ飛び退いたサモートでさえも爆風でバランスを崩して背中から地面に落ちた。


そんな威力の魔法を即興で放つサモートの魔法技能はかなり高い事が伺える。

そして、そんな魔法を生身の人間が喰らえば、結果は分かりきっている。


とても呆気ない終わり方だ。と言う風に、どこかスッキリとした表情のサモートは生徒達に軽やかに手を振る。


だが、生徒達の反応は薄い。

当然だろう。決闘が始まってすぐに終わったのだ。彼等が呆然とするのも頷ける。


そんな中でも、どこかの誰かさんに鍛えられた彼だけは我を保っていた。


『えっ、えーっと、今のはサモート先生が得意とする『エクスプロージョン』ですね。詠唱破棄を使ってもこれだけの威力…凄いとしか言いようがないですよね』


マリンだ。

彼の声でハッとして闘技場内を見渡す人が多数現れる。


『ハッ!?そ、そうですねっ!始まってすぐに終わりって言うのも味気ないですが、この威力!この破壊力!まさに眼を見張る魔法です!ユート先生の安否が気遣われます!!』


マルサートもその一人だったのだろう。

砂煙でユートの姿は確認できないが、誰の目に見ても明らか、彼は無事では済まないだろうと思わせられる。


今頃になって闘技場端に控えていた救護班が慌てて駆け出している。

そんな救護班にサモートは言葉を投げ掛ける。


「大丈夫である。威力は抑えたのである」


そう言い残し、彼は立ち去ろうと足を出入り口へと向けーー止めた。

サモートが唐突に足を止めた事に不思議がる生徒達。そんな彼等に答えを教えるかのように彼は笑った。


「ハハッ、アハハハハッ、アハハハハハハハハハハハハハハッ!!」


狂ったような笑い声が闘技場に響き渡る。

彼の笑い声に、ザワザワとし始めていた闘技場が一瞬にして静まり返った。


そして、視線は砂煙の舞う一点へと強制的に向けられた。


風に流されるがまま泳いでいた砂煙。だが、今はピタリッと動きを止めて、何かを待っているかのように思わせる。

そんな砂煙が闘技場内に響き渡っていた笑いが止まると同時に地面へと一斉に落ちた。


そして現れたのは砂まみれの正四角形の物体。


上面は砂で隠れしまっているが、側面だけでそれが何だか判断できる。


『あれは…なんでしょうか?解説のマリンさん、分かりますか?』


『いえ。僕にも何が何だか…ただ…」


『ただ?』


『は、箱に見えます…』


『箱…ですか。どうやら、あの黒い物体は箱のようです!』


解説のマリンと実況のマルサートが言う通り、それは箱だ。色は黒だが、何の変哲もない正四角形の箱。


誰もが不思議がる中、その箱が角から徐々に崩れ始め、光の塵となって行く。


そして、ようやく五体満足の姿で巫山戯たような笑みまで浮かべて彼は現れた。


「俺に魔術で挑むとかアホやろ。俺は全部の魔術式を記憶してんねんで」


一切笑みを崩さず、余裕のある立ち振る舞い。

服には傷一つ、汚れ一つありはしない。


彼はただ立っている。

それだけで、サモートが勝ったと思っていた生徒達を戦慄させた。


いや、生徒達だけではない。教師陣も、サモートも含め誰もが驚愕した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ