俺、◯◯になりました
今日!遂に!便秘が!解消されました!!
そして、体重は激減…
便秘が治るのは良い事だと思います。だけど、体重は減らないで欲しい。
もう少し…もう少し体重があれば…
普段、人間達が使う魔法はユートから言わせてみれば空気中のマナに干渉して術式を描くと言った〈魔術〉である。
魔術を行使した場合、大気中のマナや体内にあるオドが魔術によって混合・変換されて”負の魔力”と化す。
”負の魔力”は自然や魔物が使用する事により大抵は”正の魔力”へと変換されるが、最近の魔物は”虚無の魔力”へと変換させる特殊な魔術を使用する。
”虚無の魔力”の使用用途はなく、ある一定の木々や地域などによって”正の魔力”へと変換される。
そうやって、魔力は巡る。
そこまで話し終えたユートは、ジュースが僅かに残ったコップの中身を飲み干した。
「……お前、名前は?」
「俺はユート。マリンの奴隷や」
「奴隷…か。ふふ、あーっははははっ!面白い!面白いぞ!」
ひとしきり笑った学園長は、真面目な顔付きで尋ねる。
「お前、ここで教師をやってみないか?」
「………」
嫌われたり、怒らすような事は色々した覚えのあるユート。だがしかし、笑われてから教師を勧められるなど思いもよらなかった為、口が笑ったまま固まった。
「なに、そんな大変な仕事ではない。生徒達に魔法…いや、魔術か…それに関して教えるだけだ。それに、もしやるのであれば、先程の無礼は許してやる。給料も、お前が満足する額を渡そう。どうだ?」
「ん〜〜」
我に帰ったユートは、暫し目を瞑って考える。
自分にとってのメリットとデメリットを天秤に掛ける。
もし、学園で教師をしなければ【ガレージ】に引き篭もって物作りに没頭できる。
だが、教師をすれば、その時間が減ってしまう。
逆に、教師をすれば、新たな発見が得られる可能性がある。お金も入り、この学園内である一定の行動の自由が認められるだろう。
どちらを取れば良いか悩むユート。
それはもう、両手で頭を抱えて唸る程に悩んでいる。
「一度やってみたら良いんじゃないですか?」
「よしっ、分かった。やる」
決め手となったのはマリンの言葉だ。
ユートからすれば、どちらに転んでも良かった。だから、誰かからの口添えがあって決める事ができたのだ。
もし、無ければずっと悩み続け、最終的には考える事を放棄していただろう。
「やってくれるか。なら、この書類にサインをしてくれ」
「はいよ」
学園長が取り出した規約などが書かれた羊皮紙に、書かれた事を読みもせずにサラサラと汚ったない字でサインするユート。
学園長はサインの書かれた紙をジックリと見つめ一つ頷く。
「今日からお前はここの教師だ。詳しい内容は後で伝える。職員達にも私から通達しておくので、今日は学園内でも歩いて何があるかを把握しておくといい」
〜〜〜
ユートは、学園長に言われた通り、学園内をウロチョロとしていた。
マリンは教室に行ってしまって、一人で学園内の徘徊を行っていた。
だが、全体を見るには一日じゃ足りない筈なのに、彼は昼までに一通り学園内を把握し終えてしまい、暇になったユートは学園の一番高い塔の頂上から地上を眺めている。
バカと煙は何とやら、だ。
「どうしてこうなった…?」
これまでの経緯を思い返して、どうして教師など務める事になったのかと自問自答する。
だけど、幾ら考えても答えは同じ。
「(俺がOKしたからやんなぁ〜…)」
はぁ…と大きな溜息を吐く。
この塔からは学園全体を見渡せる。それに魔改造されたユートの目を持ってすれば、容易く教室内を覗き見る事ができる。
例えば、カーテンが開いたままの女子更衣室などが当てはまる。
だが、彼はそれらに一切の興味を示さない。なぜなら、彼は前の世界に好きな子が居り、未だに一途に想い続けていたりするからだ。
例え、一言も会話を交わした事がなくとも、相手が自分の事を覚えてくれてなくとも、彼は小学生の頃から、その子の事が好きだったりする。だが、その事実を知る者は誰もいない。
「ヘックショイッ!うぅ…まだ風が寒いな…」
体をブルルッと震わせて、そこから見ているだろう者へ話し掛ける。
「後少しやで。後少しで、俺は世界を手に入れる。止めるんなら早くせぇーよ。せやないと、残り三つの”鍵”見つけてまうで」
ハハハッと笑い、無表情になる。
視線を地平線の彼方へとやり、独り言を呟く。
「教師なんてガラじゃないし、少しやったら奴隷も教師も全部辞めてどっかに行こ。…どこがええかなぁ〜?」
表情を笑顔に戻して、先程までの事をなかったかのように塔から凸凹を手探り・足探りのロッククライミングらしき事をしながら地上へと降りて行くユート。
彼は一体何がしたかったのだろうか。
〜〜〜
ぐぅ〜っと音が鳴る。
辺りからは美味しそうな匂いやカチャカチャと食器の音が聴こえてくる。
数秒後に再度同じ音が鳴る。
音の発生源は、食堂付近の廊下で志半ばで力尽きている彼ーーユートからだ。
十数分前。彼が塔から降り終えた時、お腹が減いたからと言う安易な理由で、チラホラと学生達が教室から出てくるのに混じって食堂へと向かった。
向かったのは良かったが、彼はお金を持っていない。
持っていないからこそ、お金を持ったマリンが来るのを待った。忠犬ハチ公のように待ち続けた。
そして、十数分が経過した頃には彼は倒れていた。
目と鼻の先に食事が用意されているのに食べてはならない。それは、彼にとって拷問の如き所業である。
『ぐぅぅ〜』
彼のお腹が盛大に鳴く。だが、辺りの生徒達は見て見ぬ振り。誰も彼を助けようとはしない。
避けられている程だ。
そんな彼に女神が舞い降りた。
「あの…ユートさん、ですよね?」
明るいピンク色の髪で眉を常にハの字にした妙に胸が大きい彼女ーーミニラだ。
手を挙げて問いに応えようとしたが、途中で力が抜けてバタッと腕が落ちる。
その後、ぐぅぅ〜とお腹の音で返事した。
「もしかして、お腹空いてるのですか…?」
『ぐっぐぅぅ〜』
またもやお腹の音で返答した。しかも、今度はアレンジを加えて。
「よ、良かったら、奢りましょうか?」
「マジで!?」
ガバッと顔を持ち上げて、若干狂気じみた瞳をミニラへ向ける。
それに狼狽えたミニラは苦笑いを浮かべて一歩後退った。
「頼むわ!マジで腹減ってんねん!!」
ミニラの両肩を掴んでガタガタと揺らすユート。倒れるまで空腹に耐えていたとは人とは思えない行動だ。
「は、はいぃ」
揺らされながらも舌を噛まずに返事をしたミニラ。次の瞬間、突如、温かいぬくもりに包まれた。
「あんがとぉ!!」
感激を示す為か、それとも激動の末なのか、ユートが涙ながらにハグしたのだ。
余りにオーバーリアクションだが、その域に達するまで彼は空腹に耐え兼ねていたのだろう。
数秒後には何事もなかったかのように元に戻ったユートに食事を奢ったミニラ。
食堂のオバちゃんにメニューに書かれた内容を伝えて、出された物を持って食堂の端の方にある机席を陣取った。
「そういや、残りの二人は?」
食事に手を付けようとしたミニラは手を止めて答える。
「もう少しで来ると思いますよ」
「なるほど。んじゃ、俺の話はそれからでええや」
とか何とか言っているが、彼はミニラの食事の手を止めさせている。
自分だけがバクバクと山盛りの料理を口の中に放り込むように食べている。
彼の胃袋は本当に底なしだ。胃の中に《無限収納》でも入っているのかと思わせる程だ。
彼の食べっぷりに度肝を抜かれていたミニラだが、そろそろ食べ始めようかと食器を持ちーー。
「おっ待たー!」
「待たせた」
上げようとした瞬間に、活発な子と常に無表情な子がやってきた。
カウリーウとルルだ。
二人共、食事の載ったトレーを持っている事から、今から昼飯なのだろう。
それはそうと、この学園に来て始めに知り合った三人組が揃った為、先程の話の続きを再開させる。
「さて、三人揃った事やし、とりま報告しとくわ」
何かな?とでも言いそうな表情でユートが続きを話すのを待つ三人。
次の言葉を焦らすかのように溜めに溜めてから放出する。
「俺、教師になった」
「は?」「んっ」「え?」
三人揃っての驚愕の言葉にユートも苦笑い。
「奴隷なのに?」
「うん」
カウリーウが訝しみ、
「ユート、凄い」
「凄くはないな」
ルルは尊敬の眼差しを向け、
「おめでとうございます」
「いや、祝福されても困るんやけど…」
ミニラには祝福された。
彼女達のそれぞれの反応にユートは『少し早まったかな?』と思ったが、苦笑いを浮かべるだけに留めた。
食事を再開&開始する。それから暫く経ち、ユートが山盛りの食事を完食し終えた辺りに、変化が起きた。
「何なんだよアイツっ!!」
「だよなっ!去年までメチャクチャ弱かったよな!?巫山戯んなよ!」
「少し落ち着いきましょう。僕達、冒険科が負ける訳ない筈ですよ。何か裏があるに違いありません」
全身泥だらけになった男の子三人が怒り狂ったまま食堂に入って来たのだ。
一人はゴミ箱を蹴り壊し、一人は近くの机で食事をしている男子生徒の食器を叩き落とし、最後の一人は負けた理由を考えながらも苛立ちがあるのか、対向者の肩にワザとぶつかる。
タチの悪い輩だ。
だが、誰も注意しようとはしない。それより、嫌そうな顔して彼等から距離を取っている。
カウリーウ達も彼等と同様に、嫌そうであり、面倒くさそうな表情を浮かべている。
ユートも勿論、彼等が入って来たのに気付いている。しかし、彼の思考回路はイカれているのか、ガラの悪い輩の事を可愛らしいヤンキーにしか見ていなく、微笑ましそうに笑う。
生易しい視線がガラの悪い三人組へと異様に突き刺さる。
「あ”?」
「なんだよアイツ?すっげぇ俺達の事を見てるぞ」
「見てますねぇ。なんだか、身体がムズムズするような視線ですねぇ」
三人はユートの視線に気が付いて、彼の方へと行き先を変えた。
「ど、どうしましょう。き、来ましたよ…」
「あんなの放っておいて、早く食べて移動しようよ」
「ユート、食べるの早い。凄い」
こちらの三人は、一人を除いて言外に関わりたくないと言っている。
ルルだけが独自の世界観を持っているようで、全く別の事に気を取られているようだ。
ミニラは縋るような視線をユートやカウリーウに向け、カウリーウはチラチラと三人組を気にする仕草をしており、ルルは何故か尊敬の視線をユートに向け続けている。
「はぁ…」
ユートは小さく溜息を吐いて席を立ち、向かってくる三人組の方へと向いてニッコリと笑いながら言う。
「なんか用?」
「それはコッチのセリフだ!」
「お前が俺らに変な視線を向けるから来てやったんだろうがよ!」
「喧嘩売っているのならば買いますよぉ?」
ボロボロの服装で怪我もしてるにも関わらず強がる三人組。
側から見ればユートが浮浪者に恐喝されているようようにも見えなくはない場面だ。だが、実際は違う。
「観てたで。マリンに投げまくられてた所」
「「「ッ!?」」」
ユートの一言に動揺を露わにする三人。彼等の心の傷に追い打ちを掛けるかのようにユートは言葉を続ける。
「っにしても、マリンに負けるなんて、お前ら雑魚すぎな。弱いにも程があんで。そんなんで魔物と一対一で勝てるん?」
相手を煽るかのように笑うユート。が、彼は一切そのつもりはない。
いつも通り笑っただけだ。この場ではそう見えるだけだ。
そして、彼の煽りに一番乗りしたのは、一番口の悪い金髪君。
「ザケンナよ!テメェ!!」
ユートの胸ぐらを掴んで持ち上げようとする金髪君。だが、上がらない。
それは、ユートの身長が地味に高いだけではなく、彼の体重が重すぎて持ち上がらないのだ。
「ん?よく見たらコイツ、奴隷じゃねぇか?」
ユートの首元にある首輪に気が付いた金髪君の腰巾着的な存在の茶髪君。
マスクがズレてチラ見させている首輪を指差して言った。
その瞬間、ザワザワと食堂内が騒がしくなり始め、三人組の最後の一人の薄緑髪君がニヤリと笑った。
薄緑髪君が茶髪君の耳に何やらボソボソと呟くと、茶髪君もニヤリと笑い、わざわざこの場にいる全員に聴こえるように大声で言った。
「おいおい!マジかよ!コイツ奴隷だぞ!!奴隷が椅子に座って飯食ってやがるぞ」
その言葉に反応したのは、無関係な生徒達。声を発した茶髪君に嫌そうな表情をするものの、奴隷であるユートに対しても嫌悪感を露わにしている。
言外に『出て行け』と伝えてくる生徒達の視線の束にユートは顔を顰める。
ついでに金髪君の手から逃れようと少し身動ぎした。
それを怯えてると取ったのか、茶髪君は嘲笑いながら煽り続ける。
「ここはお前みたいな奴隷が来て良い場所じゃねぇんだよ!奴隷は奴隷らしく這い蹲って命乞いでもしてりゃ良いんだ!」
「そうですねぇ。奴隷は道端に生えてる草がお似合いですねぇ」
薄緑髪君も便乗して煽る。これでもかって程に挑発する。
さすがのユートもそこまで煽られーー煽てられたら乗らない訳がなく、
「うん。お前ら、いっぺん死んでみる?」
ものすっごい笑顔で怒りを示すと言う妙技を披露した。
「あ”?誰に物言ってんだゴラァ!」
言い終えるや否やユートに殴り掛かる金髪君。
左手でユートの胸倉を掴んでいる事を良い事に、右手からのストレートパンチがユートの顔に放たれた。
だが、次の瞬間には視界が一転。気が付けば天井を見上げていた。
混乱した脳では何が起きたか理解ができない。
ただ、現在分かっている事と言えば、ユートが上からヘラヘラと嘲笑いながら見下げている事だけだ。
「て、テメェ!!」
すぐに立ち上がろうとする。が、足が、腕が言う事を聞かない。
何故か。そう思って、自身の腕を視界に入れてみればーー。
「お、俺の、俺の腕が…腕があぁぁあああ!!」
折れていた。
見事に、見るも無残に、原型を留めない程にボッキボキにされていた。
本来、肘で曲がるはずの腕。なのに、茶髪君の腕はジグザグに曲がってしまっていた。
「き、君は、一体、何を…」
薄緑髪君は金髪君の成れの果てを目に、動揺を露わにした。が、一瞬の内に視界は暗闇に。
何も見えない状況に狼狽える薄緑髪君。だが、何もできずに、後から襲ってくる両目の激痛に呻く。
「貴様ぁ!!」
茶髪君は仲間を守ろうと何処から取り出したのだろう。直剣を手に切り掛かった。
が、所詮は素人。そして、相手は達人級。
例え、相手が無手であったとしても敵う筈もない。
ヌルっとした動作は視界に捉えにくく、動きをハッキリと視認しにくい。
一瞬にして間合いを詰められ、直剣の剣先と柄に手を添えられたと思った刹那。いとも容易く剣を肘で半ばからへし折られ、流れるような手付きでアイアンクローをされて持ち上げられる。
「喧嘩売る相手は考えた方がええで」
優しい声とは裏腹に握力が徐々に強まり、茶髪君の頭をギリリッと締めつける。
茶髪君はなんとか逃げ出そうともがくが、ユートの右手はおろか、腕すら微動だにしない。
まるで、頑丈な鉄に掴まれているように思えてくる。
「これでも俺は弱いんやで。ステータスなんか、冒険者のランクで言ったらEが妥当ってぐらいやねん。俺より強い奴なんかアホ程おるんやで」
朦朧とし始める意識の中、彼の優しく、物を教える教師のような言葉だけが聴こえてくる。
「せやから、俺に負けるほど弱い奴が喧嘩なんか売ったらアカン。喧嘩売る時は、強くなって、誰にも負けへんようになってからや」
ポイッと茶髪君を投げ捨て、自分のしでかした事に目を向ける。
腕の骨を折られた金髪君は余りの痛みに泡を吹いて気絶している模様。
薄緑髪君は蹲り、潰された両目を手で覆い隠している。彼の足元には両目から流れ落ちてくる血で小さな水溜まりが出来上がっている。
先程までアイアンクローをされていた茶髪君は、気絶までは行っていないが、意識が朦朧としており、視線は定まらず呆然としながら女座り状況。
「うん。良い感じ」
何が良かったのか、彼等の成れの果てを視界に入れたユートはニッコリと微笑んで頷いた。
「やりすぎじゃない?」
ふと、背後から声が聞こえてきて振り向くと、ドン引き状態のカウリーウ達の姿がある。
尊敬の目を向けているのはルルだけだ。
「やりすぎって…」
視線を無残なやられ方をした三人組に向けてから、カウリーウ達の方へと戻し、
「これが?」
ニコニコと笑いながら首を傾げるユート。
こんな彼をどう言う言葉で例えるか。そんな事、誰でも知っている。
その言葉を呟いたのはカウリーウ。
「狂ってる…」
「嫌やなぁ。そんな酷い事、言わんといてぇな。これぐらい普通やろ?」
フルフルと首を振るカウリーウとミニラ。視線を周囲に向けると、この場に居合わせた生徒達も首を横に振っているのが確認できた。
それを不思議に思うユート。
「ん?んん?もしかして……俺、間違えてる?」
「ま、間違ってます!や、やりすぎですよ!!」
流石にズレすぎた思考回路の持ち主にミニラが声を荒げた。
「えー、でもさ、普通、襲ってきた奴を殺したらアカンかったら相手を動かへんようにするやろ?」
「その場合は、な、縄とかで拘束します!」
「あー、拘束か。逃げられそうやな」
まぁ、これからはそうしてみるけど。と、笑いながら言うユート。
その非常識さに付いていけるのは、常に無表情であるが尊敬の眼差しを向けるルルだけであろう。




