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最近、食欲が減ってきました。


前までは牛丼3杯は余裕で食べれたのに、今では一杯が限界…


どうしたのよ、俺のお腹さん。

《ファースター1号機》はユートが作った物だ。いや、厳密に言うならば、ユートが動力源や車体を作り上げ、残りをネモ達が作った。


だから、ユートは《ファースター1号機》の詳細を知らない。

色々な機能が付いているが、そこまで把握していないのだ。


それは兎も角、サスリカの街を出てから数時間。


『まもなくアークノート学園付近。アークノート学園付近でございます。到着の際に強い衝撃がありますので、ご注意下さい』


車内にアナウンスが流れる。それにビクッと反応するのはマリン。アイは若干ワクワクしている。


「衝撃、結構強いからどっか掴まっときや。せやないと吹っ飛ぶで」


珍しく作業着(ツナギ)から普通の服だと言える物に着替えたユートが壁に右手を当てながら言った。

壁に当てた右手は、どう言う仕組みをしているのか壁に埋まって行き、右手と右足だけで体を固定した。


ちなみに、普通の服とは言っても、動きやすさだけを重視した作業着と余り変わらなさそうな軍服のような服装だ。それに、マスクとゴーグルはそのままである。

着替えても意味がないように思える。


アイはユートに忠告を受けて即座に行動。壁際にある手摺のような物に急いで(・・・)掴まりに行く。

椅子に座ったままのマリンは、どう行動すれば良いのかと暫し考え、先に行動したアイを手本に動き出そうとする。が、少し遅かった。


目的地に到着したのか、《ファースター1号機》が急停止したのだ。


当然、ユートの言う強い衝撃が車内に起きる。

それを知っていて体を固定したユートと、すぐさま手摺を掴んだアイはなんとか衝撃に耐える事ができたが、マリンだけは違った。


衝撃によって多大な重力が掛かり、前方へとダイブ。そして、顔面から壁に激突した。

《ファースター1号機》が完全に停止すると、壁に激突したマリンはズルズルと床に落ちて行き、ベトッと倒れた。

シーンッと静まり返る車内。


「くっ、くふふっ」


密かに笑う声が良く響く。


一拍、《ファースター1号機》が下降し始めた。同時に、アナウンスが流れ始める。


『アークノート学園付近にご到着致しました。ご乗車、ありがとうございます。お気を付けて行ってらっしゃいませ』


一人は痛い目を見ていると言うのに、それを全く気にしていない呑気な声音だ。

ただの機械が心配などするわけがないが。


「8時10分着か…まぁ、こんなもんかな?」


現在時刻を呟いて、独りでに納得するユート。自身の体を固定していた壁付近にあるドアに近付いて一言「行くで」と二人に呼び掛ける。


「は、はい!」


「うぅ…はぃ…」


アイは元気よく、どこかキラキラとした表情で、マリンは痛みと行きたくない感を醸し出しながら返事してユートの元に集まる。


「………」


「「………?」」


なぜかドアの前で黙ったまま立ち止まる三人。

後はドアを引いて開けるだけなのに、無言でドアを見つめる。

暫くしてからユートが口を開いた。


「いや、開けろよ」


「…ご主人様、開けないのですか?」


「僕もてっきりユートさんが開けるかと…」


どうやら誰かがドアを開けるのを待っていたようだ。


「ここに用事あんのはマリンやろ?せやったらマリンが開けるべきやと思うで。新しい世界への道を開くみたいに、さ」


「な、なるほど…」


「新たな道への第一歩や。進むのはマリン、お前や。決めんのも、お前や。俺はこれ以上手出しはせぇーへんから気張りや」


ドンッとマリンの背中を叩くユート。


「はい!」


叩かれた衝撃で一歩踏み出すマリン。気合いの入った返事を返し、その勢いのままドアを開ける。


「出たわね!魔物!!」


「逃げようよぉ…」


「おぉー」


ドアを開けてすぐに目に入ったのは三人のカラフルな女の子達。

赤髪の子の背後にピンク髪の子が。薄緑髪の子が物珍しげに目を輝かせている。


彼女達の声を聞いたユートはヒョコッと顔を覗かせる。


「ん?あれ?人おるやん。なんで?」


不思議そうに首を傾げた。この場に人が居る事が不思議で仕方ないと言いたそうな表情だ。

だが、そんな表情を晒したのはほんの一時に過ぎない。


「まぁ、ええわ」


そう言いながら表情をいつもの笑みへと戻し、ドアの前に立つマリンを優しく押しながら《ファースター1号機》からマリンと共に降りる。その後からアイも付いてくる。


女の子達と対面に立つ三人。

立ち位置は、マリンが赤髪の前。その左右にユートとアイ。

戦闘態勢の赤髪を前に臆するマリンだが、ユートは気にした様子もなく、優しい口調で見当違いな提案をする。


「殺す?それとも記憶全部消してまう?」


優しさから随分と掛け離れた言葉がユートの口から吐き出された。

それにマリンはギョッとして距離を取る。勿論、アイもユートの狂言に距離を置いた。

ついでに、相手側の警戒度も引き上げられた。


「ご主人様…それはちょっと…」


やりすぎだと。そう言いたかったマリン。

けれど、それを口には出さずともユートならば理解してくれるはずだと、信じたのだ。

だが、相手はユートだ。理解するはずがない。


「んー、俺ができんのはそれぐらいやけど、なんなら、記憶消してから殺して、その後にミンチにして魔物にでも食わそか?」


彼は全く別の意味で捉えてしまったのだ。

全員から距離を置かれるユート。相手側達からも距離を置かれている時点で、彼は自分の間違った発言に気がつくべきだ。


「……どないしたん?」


誰からも返答がなく、首を傾げてマリンとアイを見るユート。

彼に目を向けられた二人は後退りした。


「何よ?なんでそんな反応すんよ?見られたら消す。当たり前やんか」


どうやら、彼は目撃者を消そうとしていたみたいだ。なんと残酷な選択肢なのだろう。

それに対して言いたい事が沢山出てきたマリンとアイだが、どんな言葉を掛ければ良いか出てこなくて頭を悩ませる。


そんな時、いつの間にかユートの側に駆け寄ってきていた女の子が居た。

彼女はユートの服の袖を引っ張りながら言葉を発する。


「人間?」


薄緑髪の女の子だ。無表情なのに、好奇心が瞳から溢れ出している。

ユートは彼女に視線を転じて少し考えた後に笑顔を持って答える。


「…せやな。俺はか弱い人間やで。混血のエルフちゃん」


「「「っ!?」」」


薄緑髪の女の子以外の全員が動揺を見せた。

赤髪とピンク髪は明らかにユート達を敵とみなして攻撃しようとしているし、アイとマリンは驚いた表情で固まってしまっている。


にも関わらず、薄緑髪の反応は薄く、ユートの裾に顔を当てて深呼吸。


「人間の匂いがしない。さては、人間ではないのでは?」


顔を上げてユートの顔を下から覗き見る薄緑髪。


「私、”ルル”。エルフと人間の混血。アナタは?」


「俺はユート。魔族(・・)と人間の混血。半魔(・・)や」


手をガッシリと握り合う二人。どこにそうなる経緯があったのか薄緑髪のルルとユートの二人にしか理解できないが、どうやら意気投合したようだ。

ちなみに、ユートの自己紹介にてルルとアイ以外の全員が唖然としたのは言うまでもない。



〜〜〜



暫く話し合いをした後、打ち解ける事が出来た。


赤髪の子はカウリーウ。ピンク髪の子はミニラだそうだ。

そして、驚く事にマリンと同学年のアークノート学園の生徒であった。面識はなかったが。


「で、マリンの奴隷がユートで、ユートの奴隷がアイって事?」


今はユートとアイとの関係をマリンが話している最中だ。

時刻は午後9時を少し回った頃。焚き火の前にて談話中である。


「はい。一応は…」


「一応って?奴隷じゃないの?」


「ど、奴隷です。でも、ユートさんは奴隷らしくなくて…その、えっと…」


上手い言葉が出てこなくて言い淀むマリン。

そんな彼に深い溜息を吐くカウリーウ。


「要は、俺は奴隷であって、奴隷やないって事や」


どこから取り出したのか、焚き火で串に刺した肉を焼いていたユート。

焼き終えた串肉を食べながら説明するが、余計に話をこじらせている。


ちなみに、ルルも串肉を頬張っている。


「首輪は本物なの?だったら、奴隷じゃないの?」


「で、でも、首輪の機能をユートさんが書き換えてしまって…」


「…へ?」


カウリーウは『何言ってるの?』とでも言いたげな表情を浮かべた。


本来、奴隷の首輪は”アーティファクト”と呼ばれる古代の技術からなっている。

未だに不明瞭な事が多く、複雑怪奇な魔法陣や謎の材質で構成されるアーティファクト。


その中の一つの複製品が奴隷の首輪なのだが、複製を作った本人ですらも『ワシは使い方しか知らん!魔法陣を読み解けとか無茶言わんでくれ!!』などと怒り狂った代物である。


それをユートは読み解いただけではなく、書き換えまで行なったのだ。


「……バ、バカにしないでっ!?そんな事できるわけないよっ!!」


暫しの硬直の後、顔を真っ赤にして怒るカウリーウ。そんでもって、マリンは縮こまってしまった。


「まぁ、まぁ。そんな事で怒らんでもええやんか」


「君が変な事を言うからよ!!」


ユートにも怒りを向けるカウリーウ。だが、ユートは怒られても気にした素振りはなく、串肉をパクパクと食べている。


「ユート、魔法陣得意?」


ユートと同じ速度で串肉を食べているルルが手を止めて尋ねた。

同じく、ユートも食べる手を止めて、ポケットから何本かのジュースの入った瓶を取り出しながら答える。


「得意っちゃ、得意やな。まぁ、魔法陣と言うよりも、魔術に関してや。それと、機械関係も得意やで」


「魔術、教えて欲しい」


「あ、あの、私も良いですか?」


ルルとの会話にミニラが参加してきた。

今の今までアイと静かに傍観者と化していたのに突然会話に参加してきたので、ユートが不思議に思っていると、ルルがその理由を答えた。


「ミニラ、魔法の成績悪い」


「成る程」


「い、言わないでよぉ…」


ションボリと落ち込むミニラ。

その近くにいるマリンは、何かを思い出して遠い目をしている。


「俺の知ってる事なら何でも教えたるで。けど、歴史だけは自信ないけどな」


はははっと軽い笑いを飛ばすユート。

その間に、片手間でコップを人数分用意してジュースを注いで、配っていたりする。


「あの、ユートさん」


配られたジュースを飲みながら、食べて飲んでを繰り返すユートを呼び掛けるマリン。


呼ばれたユートは「ん?」と視線だけをマリンによこす。


「これからどうします?」


「どうするって?」


「その、ここで野宿するのかなぁ〜って…」


「それはマリンが決める事や。野宿したいんなら、この前教えた通りにしたらええし、学園に向かうんなら、夜やし…それもこの前教えたな。まぁ、その通りにしたらええから」


「……はい」


思い返せば、数々の厳しい指導を受けて四苦八苦した想い出が脳裏をよぎる。

毎日が地獄のようで、訓練だけで死んでしまうかも思った日が何度もあった。


そんな過酷な訓練を積んだマリンが取った行動はーー。


グビッとコップ半分のジュースを一気飲みしてから立ち上がる。

これから新たな門出だ。そんな意を込めての言葉を吐き出すように言う。


「行きましょう。アークノート学園へ」


「ちょい。まだ皆んな飲んでる途中やから、急かすなや」


だが、ユートに投げ掛けられた一言でマリンは座り直す羽目になった。

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