不良品の《ファースター1号機》
あー、そろそろゴールデンウィークですかぁ〜。
私、働きたいのですが…。
暇が嫌いなのですが…仕方ありません。ここは会社の方針に則って休みましょう。
明日と明後日に仕事行けば連休です。
連休に入ってすぐにする事?
そんな事、決まってます。
映画ですよ!映画!!
ワイスピ楽しみにしてますよ!!
ガタゴトと揺れる室内。
部屋の広さは、だいたい教室の広さほど。床には毛皮の絨毯。壁には全面に貼り付けられた巨大モニター。天井からは眩しすぎない真っ白な灯り。
部屋の中央辺りに、五人が並んで座っても余裕があるソファが二つ。ソファに挟まれる形でガラス製の机がある。
机の上には、ジュースの入った瓶とガラスコップとモニターのリモコンが綺麗に並べて置かれている。
壁際には冷蔵庫や電子レンジ、タンスやベットと普通の家にもありそうな物がある。
一見、豪華な部屋だ。だが、この部屋は高速で移動している。
その証拠になるかは分からないが、室内に機械質な声でアナウンスが流れた。
『当列車にご乗車頂きありがとうございます。只今、この高速移動車両《ファースター1号機》は”アークノート学園へと時速420kmの速度で移動しております。急な衝撃があるかもしれませんので、席を立つ際には十分にお気を付け下さい』
アナウンスが切れると同時にモニターに電源が入った。
映されるのは高速で流れ行く森や草原の風景。
爽やかな音楽が部屋中に奏でられる。煩くもなく騒がしくもなく、心地良い。このまま夢の世界へと誘うかのような音色だ。
そんな部屋に、マリンとユートとアイが居る。
ユートは冷蔵庫を漁ったり、タンスから服を引っ張り出して着てみようかと迷ったりしている。
アイは台所で食事の準備を。そして、マリンはソファに座って今の状況に困惑している。
「あの…ユートさん?」
タンス近くで着替えをしているユートは、話し掛けられて首だけをマリンの方へと向けて要件を尋ねる。
「ん?どないしたん?」
「アークノート学園に行くんですよね…?」
「せやけど?」
「どうしてこうなったんですか?」
「そりゃ、予定よりも出発が遅なったから急ぐためやんか」
マリンは思った。
遅れた理由はユートが庭に作った作業部屋に門のようなものを作っていたのが原因であり、そもそも、こんな乗り物など使わなくても馬車を使って遅れていけばいい、と。
だが、ユートは時間厳守を心掛けている。
出発時間が遅れようと、目的地に時間内に着けばいいと思っているのだ。
だからこそ、この《ファースター1号機》が使われた。
ユートの【ガレージ】にお蔵入りされていた速度と貫通力に関しては何にも負けない曰く付きの一品だ。
形は新幹線のようなもの。違いといえば、前面にはどんなものでも切り裂く刃が装着されており、一両編成であり、車輪の類はなく進行方向に設置される魔法陣の線路を敷き、その上を滑らかに宙に浮きながら進む。
ちなみに、ガタゴトと揺れるのはユートが『電車やから』などと言う理由で付けられた。
それと、車内はユート特製の魔法陣【無限収納】の汎用で拡張されている。
「兎に角、大人しく座っときや。山とかあったら揺れるから」
「??」
ユートの言っている意味がよく分からなかったマリンは首を傾げる。だけど、指示には従う。
なにせ、ユートの言う事は大抵が正しいからだ。
ちなみにだが、ユートの言いたい事は、少しの凸凹道ならば関係なく直進するが、山があれば浮上し、崖ならば急角度となって突き進む。
進行方向に魔物がいれば切り裂き、人がいれば切り裂き、岩があれば切り裂く。
衝撃はないが、急な揺れや上下への進路変更が予測されるのだ。
そんな《ファースター1号機》を目にした人が居れば、超高速度で走行する謎の物体の獰猛性に驚き、恐れ、畏怖し、口を半開きにさせて己の目を疑うだろう。
「ご、ご主人様…お茶、湧きました」
「ほな、机置いといて。ちと操縦室の方に行ってくるから」
「わ、わかりました」
アイがお盆にお茶を載せて机へと運ぶのを横目にユートは部屋を後にした。
〜〜〜
アークノート学園。
世界に一つしかない勉学や戦闘方法や営利を学ぶ事ができる街一つ分の大きな学び舎。
そこには勿論の事ながら冒険者ギルドや商業ギルドなどもあり、そこらの街と然程大差はない。
違いを述べるとするならば、住人が学生や教師であり、そんな彼等が各自に店を経営している事や、世界各国から派遣された兵士達が学園内を巡回し、街の守護も行なっている事ぐらいだろう。
世界広しと言えど、このように各国の者達が集まって和気藹々と暮らす所など有りはしないだろう。
その近くには草原があり、山があり、川があり、森がある。川を下って行くと海まである。
魔物の脅威は少なく、自然に恵まれた立地である。
そんな学園の近くの、森に位置する場所から三人の女性の声が聞こえてきた。
「ねぇ、もう帰ろうよ。暗くなってきたよ」
ピンク色に近い髪色の女の子が不安気に忠告を入れている。
「残り三体!それを倒すまで私は帰らない!」
だが、赤髪の女の子はプイッと顔を背けて、言い張った。
彼女達は学園に通う学生だろう。服装がどこかの制服のように見える事からそれが伺える。
「闇は危険。帰還を勧める」
表情の変化が少ない薄緑髪の女の子がピンク髪に同乗し赤髪を引き止めようとする。
「もう少しで夜だから、ね?帰ろうよ」
ピンク髪の女の子も、もう一言付け足した。
「嫌!」
だが、赤髪は仲間の言葉を拒否して森を突き進み始めた。その後をやれやれと言った風に着いて行くピンク髪と薄緑髪の二人。
三人は魔物を探して森を散策する。
赤髪が先頭を歩き、その後をピンク髪と薄緑髪の女の子は着いて行く。
それから20分ほど散策を続けていると、目的の魔物ーーゴブリンを見つけることができた。丁度三体居るようだ。
彼女達は草むらに身を潜めながらヒソヒソと打ち合わせをする。
「私はいつも通りで」
「裏から」
「私は後方から」
打ち合わせと言えるのかどうか。それぞれが一言だけ残してから各自の持ち場へと移動した。
ゴブリンを三方向から囲む形を陣取った三人。目配せで意思を疎通し合う。
暫しの沈黙。
ゴブリン達は「グギャ」「グギャギャ」と普通の人間には理解のできない言葉で会話をしているのが少し騒がしい森に響く。
「っだあぁぁぁぁ!!」
その会話を気合いの入った赤髪の子の声が破った。
赤髪はゴブリンの前に姿を晒し、彼女の獲物である長剣で切り掛かる。
その瞬間、身を潜めていた二人も姿を現し、ピンク髪は片手剣で、薄緑髪は魔法でゴブリンを攻撃しようとする。
咄嗟の事で対応できずに驚くしかできないゴブリン達。
明らかに奇襲だと言える攻撃である。勝率はかなり高いだろう。
しかし、攻撃を放つ瞬間、それは起きた。
夜なのにも関わらず、唐突に光が降り注いだのだ。
咄嗟に光へと注意を向ける赤、薄緑、ピンクの三人。
その瞬間にゴブリン達は光に怯えて逃げ出した。彼等を追撃しようと思えば容易にできるだろう。
だが、彼女達の視線は未だに一点へと向けられている。
ーー光の放つ未知の物体へと。
それは、幾つもの魔法陣によって宙に浮く巨大で長細い建造物。
既に夜に入っており暗くなっているにも関わらず、その建物の周囲は異様な程に明るい。
それだけだと目に止まるだけに終わるだろう。だが、その建物がゆっくりと彼女達の居る場所へと下降してきているのだ。
「なにアレ?もしかして…魔物っ!?」
赤髪は血気盛んなのか、謎の建造物に対して長剣を構えた。
「ど、どうしよ。降りてくるよ…」
ピンクは突如、音もなく現れた物体に対して怯えを見せ、頼るような瞳を赤と薄緑に向けている。
「未知なる存在。新たな出会い…ワクワク」
薄緑の表情は変化がなく判断し辛いが、口で言っているのでワクワクしているのだろう。赤髪も戦闘態勢に入っている事から、ピンクの頼りは虚しく空振りしている。
遂に謎の建造物が地面に降り立つ。
赤は警戒心を強めて長剣を強く握りしめる。薄緑はジッと建造物の扉らしき場所の様子を伺っている。ピンクは赤の背後に隠れた。
そんな三種三様な反応を見せる彼女達を前に建造物の扉が音もなく開かれた。




