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真犯人は誰だ!?

新入社員の面倒を私が見る羽目に…。


ドウシテコウナッタ


村の外からドーンッ、ドーンッと爆発音が轟き、村人ではない何者かの叫び声も聞こえてくる。


そこまで分かれば『異常が起きた』と誰でも知れるだろう。


温泉に浸かっていたエリオスも、夕食を作るミィリルの手伝いをしていたリリィも、子供達と仲良く散歩していたクリムも、当然ながらに気が付いた。


しかし、リョーガとユースはと言うと、


「うる…せぇ…」


「ぅぅうぅぅ…」


寝言のように悪態を呟くリョーガ。

耳を塞いで唸るユース。


本当にどうしようもない二人である。


だが、それは数秒間だけである。

外の騒音に耐えきれなくなったリョーガはムクリと体を起こし、


「……うっさいわボケェ!!」


隣で寝るユースのイビキだと勘違いしたリョーガ。ユースを塀の外に投げ飛ばした。

そして、暫し硬直。


「あ”ぁ?」


元凶だと思ったユースが居なくなっても騒音は止まず、額に青筋を浮かべながら首を傾げた。


そして、【黒の(ブラック・ソード)】を取り出し、歩き出したーー音の鳴る方向へと。



ーーー



爆音の発生源近く。壁付近には村長のナータルの他にチラクの姿や村人の男衆の姿も見受けられる。

全員が慌ただしく武器になりそうな農具を片手に門の前に集まっている。


そこへ、爆音を聞き付けたリリィとエリオスが駆け付けて来た。

緊張感を漂わせている男衆を目に驚きはしたものの、冷静に現在の事態を近くの人に尋ねている。


それを横目にて確認したクリムは、視線を()へと転じる。


「ゆるせないの…」


魔法や弓、各々の武器などで壁を攻撃する兵士や冒険者達。そして、それらに指示を下す偉そうに椅子にふんぞり返った貴族とその左右にいる奴隷の娘達。


クリムは壁の上から彼女が崇めているユートが造りあげた物を傷付ける者達を睨み付ける。


「オシオキするの」


言うと同時に《クエスチョン・ボックス》を両手一杯に取り出し、魔力を流して起動させた。



ーーー



「いつになったら突破できるんだ!」


村の外ではブクブクと肥えたブタのような貴族ーーハウグリル・サートンが中身の入ったワイングラスを側近に投げ付けて怒鳴っている。


側近の男性ーーサクラスは冷や汗を顔に浮かべながら恐る恐る状況の説明をする。


「そ、それが、あの壁には未だ傷一つ付ける事が出来てないようで…」


「弓隊はどうした!?アイツらには壁の奥を狙わせているんだろ!!」


「それも残念ながら…」


チラッと壁の方へと視線を向ければ、大量に放たれた矢が突如出現した光の線によって一瞬にして全て掻き消される瞬間であった。


サクラスの視線を追ったハウグリルも口を半開きにして唖然とさせた。だが、それは一瞬。


すぐに我に返ったハウグリルは頭に血を登らせて未だに壁の一つも突破できない傭われ達に腹を立て、腹いせに奴隷の娘を力一杯殴り飛ばす。


「サートン家の地位と名誉が掛かっているんだ!あれぐらいの壁なんてさっさと壊してしまえ!」


殴った奴隷を道端に落ちている石を蹴るかの如く蹴り、踏み付けながら怒声を発する。


「方法なんてどうでもいいっ!さっさと村をっ!手に入れろっ!でなければ、お前達全員を処刑してやる!!」


何度も何度も奴隷を足蹴にし、少しは怒りが収まったのか椅子へとドカッと座り直し、頬杖をつきながら言う。


「勿論、村人は反逆罪で皆殺しだ。使えない傭われ共も街に帰ったらすぐに死刑にしろ。あんな奴らなんかに渡す金などないからな」


「…分かりました」


ハウグリルの手に新たなワイングラスが健全な方の奴隷に渡され、後からワインが注がれる。


それを横目にサクラスは踵を返し、未だに傷一つ付かない強固な壁を忌まわし気に見る。すると、壁の上部で何かが光るのを視認できた。

目を凝らして見ようとした刹那ーーー爆発した。


真後ろから壮絶な爆風が襲い掛かって来て前方へと吹き飛ばされるサクラス。


地面にキスを済ませた後、咄嗟に立ち上がって主人の心配よりも、何が起きたかの確認の為に振り返ると、主人たる存在ーーハウグリルの姿は跡形もなく消え去っており、人一人分のクレーターと爆風で吹き飛ばされたのか、少し離れた所に奴隷の娘が二人、身体中傷だらけにして転がっていた。


「なっ…」


その光景に声も出ない。

ハウグリルの姿は見る影もーー否。座っていた椅子すらも含めて綺麗サッパリ消え去っていたのだ。


誰が行なったのか。そう考えた刹那。思い当たる事が一つあった。


振り返り、壁の上を確認する。


よく目を凝らして見ないと分からない程に小さい存在。だけど、どこかゴツゴツしく、黒光りしており、安易に見つけれる事が出来た。


その存在が壁の上に堂々と仁王立ちで立っている。両手には黒光りする物が持たれ、背中や腰などにも同じようなものがある。


「(アイツが…)」


そう思った。思っただけだ。

それ以上の思考は出来なかった。


ドス黒い。いや、黒よりも黒く、深淵を思わせるドス黒い物体が壁の中の村から飛んで来たからだ。


それは仁王立ちをする存在の頭上を掠め、矢を射る弓隊達の居る付近へと落下した。


暫しの沈黙が弓隊に舞い降りた。そして、次の瞬間には落下地点から突如発生した暗闇に呑み込まれた。


一瞬の出来事で何が起きたか理解が追い付かないサクラスは、呆然と目の前に起きた事を頭の中で繰り返す。


だが、彼がそうしている間にも暗闇は蠢き、人の形を象り始める。


暗闇が徐々に小さくなり、遂には出来上がった人型。

大きさは普通の人と同じか、それ以下。


鎧に見える姿形を持ち、片手には剣が握られている。その姿はどこか騎士のようにも思える。


暗闇の騎士が出来上がった刹那。雄叫びのようなものがサクラスの耳に響いた。

血気盛んな冒険者や兵士達だろう。


初めはそうだと思った。だけど、後から気が付いた。

雄叫びのような生易しいものではない、と。


あのハウグリルと共に居た時に何度も耳にした声だ。その声を聞く度にサクラスの心を締め付ける。悪意の詰まった悲しみの声。


ーー悲鳴だ。


悲鳴が轟く。

先程まで壁に攻撃を加えていた者達があちこちで声を上げている。

威勢良く雄叫びを上げ活気だっていたのに、今では悲鳴や泣き喚く声ばかりが聴こえる。


なんだと思って視線を動かすと、逃げ惑う私兵や冒険者が次々と倒れていっていた。

立ち止まったり蹲ったりすると、その場は爆発する。逃げた所で不可視の攻撃によって倒される。


どう考えたって夢としか思えない光景が眼前に広がっている。


暗闇の騎士は剣を無造作に振り、近くの者達を地面を抉りながら吹き飛ばす。

アレから離れたとしても、目に見えない攻撃によって殺される。


それは一瞬の出来事だった。

たった一瞬で攻守が逆転した。


余りにも一方的で、無慈悲。

取り仕切る者がない今、どうする事も出来ない。

いや、もし居たところで、あのハウグリルには何も出来なかっただろう。


サクラスも逃げようとして身体を動かそうとする。が、動かない。足を動かそうにも竦んでしまい、今にも崩れ落ちそうだ。


現実から目を逸らすために視線を斜め上ーー壁の上へと向けられる。

すると、ある存在が目に入った。


あの黒光りするゴテゴテしい存在だ。


ソイツが黒光りする何かを構えている。よく見ると筒のようなだ。

唐突に筒の先端から火花が飛び散る。刹那、筒の先に居た者ーーサクラスの前方から走ってきていた冒険者が糸の切れた人形のように膝から崩れ落ちた。


勢いのまま地を滑り、サクラスの足元に冒険者が止まった。

頭には防具を付けているにも関わらず親指程の穴を空けて、そこから大量の血を垂れ流して死んでいる。


「うっ…」


さっきまで生きていた冒険者が足元で死んでいる。生が終わる瞬間を見てしまったサクラスは吐き気を覚え、冒険者から視線を逸らしつつ壁の上に居る者を見る。


ヤツは先程と同じ場所で、同じように筒の先端から火花を飛ばしている。

その度に人が一人死んで行く。


半端、呆然と諦めを含めた瞳でヤツを眺めていると、ふと視界の中に人が映った。


それは、見覚えのある者だ。

薄い銀の甲冑、金の刺繍が入ったマント。ハウグリルが雇った私兵である。


ハウグリルは私兵を連れてきていたので、ここに居るのは当たり前だ。

だが、おかしい点がある。


ーー空を飛んでいるのだ。


サクラスは自分の目を疑った。

私兵達は一介の兵士崩れや冒険者崩れだ。そんな落ちこぼれ達が”空を飛ぶ”など出来やしない。

いや、それ以前に大魔導士ですら不可能な話なのだ。人間が空を飛ぶには飛竜(ワイバーン)を使わなければならない。


なのに、私兵が空を飛んだ。

それも一人だけではない。大勢だ。幾人もの私兵や冒険者が大空に舞う。

何十メートルもの高さまで飛び、浮力を失って落ちていく。


パァンッ!と風船が破裂したような音が聴こえる。次々と休む事なく聴こえる。


どう考えたって彼等の意思で飛んでるハズがない。そう思ったサクラスは視線を下に降ろす。

すると、そこにはヤツが居た。


あの暗闇の騎士だ。


ソイツが逃げ惑う私兵や冒険者を掴んでは投げている。


もし、それがサクラス自身に起きる事だとしたら。そう考えただけで恐怖で全身に鳥肌が立つ。


これは、戦いなどではない。

余りにも一方的な虐殺である。相手は躊躇など一切しない慈悲のない怪物達なのだ。

そうとしか思えない。


ただ、呆然と目を見開いて目の前の光景を見つめながら思ったサクラス。


普通の人間が勝てる相手ではないのだ、と。

相手は化け物ーーいや、悪魔なんだ、と。


サクラスが唯一出来た事は、最後の一人までもが容赦なく悪魔達に殺されるのを見届ける事だけだった。


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