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クレイジー・アクセル 【略:クレアク】  作者: 九九 零@異世界モノ大好物
第1章〜どうやら、異世界に迷い込んだらしい〜
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冒険者ギルドと借金と言う名の借り

冒険者ギルド。手前に酒場があり、そこには数多の冒険者達が居る。その奥に受付けがあり、そこに並ぶ冒険者を忙しく受付嬢達が捌いている。


そんな所に、この世界には存在しない服装で初めて来た上田と向野。

周囲からは物珍しげな視線や確かめるような視線を向けられ、それに対して向野が威嚇している。上田はそんな向野を宥めようとしている。


「だから、やめなさいって。それに反応する人がおるから止めなさいって」


「あ”ぁ?あいつらが俺の事見て来るからやんけ」


「いや、そうやねんけど、けどさ、そんなに睨んでたら睨み返して来るやん」


上田の言う通りである。向野の睨みの所為で冒険者の何人かの瞳は睨みに変わっている。


「知らんし。あいつらが見てくんのが悪いんやんけ」


上田が問題を起こさないようにと思って言ったのに、向野は上田の言葉に耳を貸さず、彼の気も知らずに冒険者達の方へ向いて怒鳴る。


「見んなやボケ!!」


「だから…はぁ…」


いつもの事ながら向野の行動には溜息が出てしまう。

冒険者の数名が立ち上がり、今にも喧嘩が始まりそうになってしまった。向野も「なんや?あ”ぁ?やんのかゴラァ」と挑発までしている。


「もうっ!付いてこないと思ってたら何してるのよ!こんな所で問題起こさないでよ!」


先々行っていたリリィが戻って来て向野の頭をペシンッ。続いて上田の頭にまで。


「なんで俺まで…」


頭をさすりながら愚痴る上田。だけど、しっかりと向野の面倒を見る。

叩かれても睨むのを止めない。と、言うよりは喧嘩しそうになっている向野の腕を掴んで無理矢理連行する。

まるで、向野の保護者である。


そんな事があったが、無事、冒険者登録を済ませた彼等は現在、街の外にいる。


「楽しい楽しい草刈り〜千切っては詰め込み、千切っては詰め込み、集めて楽しい、薬草〜」


適当に作った即興の歌を唄いながら薬草と言われている青い花弁を付けた花を根っこから引き抜いている上田。


「うらぁあぁ!!おんどりゃー!!せいやぁ!!」


気合の入った声で棍棒を振り回してゴブリンを殴り倒している向野。かなりの力技だ。

彼が棍棒を使っている理由は、グロテスクな光景が苦手だからだ。

倒した魔物の片耳を持ち帰らなければならないが、それは上田が行なっている。ちなみに、売却可能である魔物の体内にある魔石と呼ばれる石も上田が魔物を解体し、取り出している。


向野が移動すると、上田も移動し、向野が魔物を見つけて戦い始めると上田は周辺から薬草を探して採取している。


この場にリリィは居ない。ギルドで別れた。

ギルドの受付にて、彼女は受付嬢に呼ばれて奥へと入って行った。そして、残された二人はリリィに渡されたお金で冒険者登録を行った。

初めてだから一つづつの方が言われていたが、彼等はリリィにお金を借りている。だから、返す為にできる範囲で多重に依頼を受注して行っているのだ。


昼になっても、休憩一つせずに依頼をこなし続け、日が沈みかけてから帰り始める。この後に、夜の分で上田がコッソリと向野に知られないように受けている依頼があるので、少し急ぎ足で帰っている。上田が急ぎ足なので、一緒に行動している向野も必然的に急ぎ足になってしまう。

当然ながらに向野は上田に文句を言って、ゆっくりと歩く事になったが。


冒険者ギルドでゴブリン討伐と薬草採取の依頼を生産した二人は宿に帰った。

宿代を始めて自分達で支払い、またもや同じ部屋の鍵を渡された。それは、今晩も顔のシミがある部屋に泊まると言う事だ。上田は嫌な顔一つしなかったが、内心では泣いていた。


その後、晩御飯を二人仲良く食べてから、上田は向野に何も伝えずにフラフラっと宿を出て依頼主の居る場所へと向かった。

ちなみに、晩御飯を食べ終えた向野は出て行った上田の事など全く気にせずに宿でぐっすりと寝ている。


上田が受けた依頼。それは、現場仕事である。壁や道の補強や修理。人知れずに街を維持する職人達の仕事だ。


上田は身体が細いわりには現場仕事などの力仕事を経験している。彼はこれまでに多種多様なバイトをこなしていたが、それだけが唯一続いたバイトである。

ちなみに、それ以外にしていたバイトは、ガソリンスタンドや引越しのバイト、コンビニやパチンコ屋などを経験していた。そして、全て喧嘩してから辞めてきている。現場仕事だけは喧嘩しても辞めずに働いていた。


そんな上田だからこそ、ゴリマッチョだらけのガテン系の職人達の中でも働けている。

今の上田は前の世界にいる時よりも力が少なくなっており、持てない物があったとしても、働けている。


ガテン系の人達の外見は怖いが、話してみると案外優しい。言葉は少々厳しいかも知れないが、気にしなければ普通に喋れる良い人達だ。


そこは上田の良く知る仕事場である。身体を動かすのが好きな彼にとってみれば、最高の職場である。そして、力の無い上田が何をしているかと言うと。


「ここを、こうやって、こうやれば、ほら出来た」


前の世界にいた頃に学んだ左官屋の仕事を教えていた。

彼がしていたのは派遣ではない。職人の下で働いていたのだ。職場で色々な職人に誘いを受け、あちこちに行き、学び続けた。


だから、彼はある程度の事はできる。そして、今はそれを教えている。

これまでに学んだ事を教え、効率的に仕事を周す為に周囲の人達を指導したりり、自分で出来る事を見つけたら、すぐに向かってやり始めたりしている。

上田は身体を動かすのが好きなのだ。そして、大変な仕事ほど最高の笑顔を浮かべて動き回っている。


そんな働き者の上田は、たった一晩で、この場にいる人達からは慕われ、可愛がられている存在になった。


コミュニケーション能力が低く、言葉も偶におかしくなる上田を優しく受け入れてくれるガテン系おっさん達の優しさは凄いものだ。

ちなみに、見習いの人達から慕われ、ガテン系おっさん達から可愛がられていた。


日が昇り始めると依頼は終了する。

上田は報酬を貰う為に必要な板を受け取り、次いでとばかりに皮袋を渡された。どうやら、前の世界の知識がとても役に立ったので追加報酬を貰ったみたいだ。


「明日も来いよ!」との熱い言葉を受け取った上田は「あざっす!また世話になるっす!」と、ノリと勢いで熱い言葉を返した。夜のテンションになっているみたいだ。


二十四時間営業の冒険者ギルドへと向かい、報酬を貰ってから宿屋に帰って寝始める。


上田が寝た数分後に向野は起き、顔を洗ってから依頼に出向く。依頼は昨日と変わらず、ゴブリン討伐だ。昼からは上田も参戦し、向野の隣で薬草採取などをする。そして、夜からオッさん達に紛れて街の補修工事をする。


どちらかと言えば、上田の方が働き者だ。勿論、報酬は向野より少し多めに貰っている。だが、そうでもしなければ報酬額が向野より少なく、宿代で全てが消えてしまうのだ。


そんな事を繰り返し、二週間の時が経った。

リリィに返す為のお金は一週間で溜まっており、後はリリィを見つけるだけの状態になった。実は、ギルドで別れてから一度も会ってないのだ。


生きていく為にはお金が必要だ。その為の必要最低限のお金は稼げる様になった。なので、二人は昨日、晩御飯を食べている時に話し合った。これまで働いたお金を少し使って休日を謳歌おうかしようと。それには、街中をもっと良く知ろうとする意図も含まれている。


彼等は街の中を一度も観光をした事が無い。一度も休まなかったのだ。さすがに働きすぎだと言う訳で「少しは休もか」と息を揃えてその案が可決された。


そんな訳で二人は初めての休みで、初めての観光で宿屋から出た。そして、思わぬ人と出くわした。


「あ」


「「あ」」


彼等が探していたリリィだ。疲れた顔をして宿屋に入ろうとしていた。


扉を開いた先にかなり久し振りに見たように感じるリリィの顔が目の前にあった為、リリィへの要件を一瞬でゴミ箱へと放り込んだ二人は驚きと喜びが合わさったよく分からない顔をする。


そして、一番初めにリリィが口を開けて声を出そうとした時。


「おぉおぉぉぉぉ!!!」


突如、向野が叫んだ。獣の様にガッツポーズしながら空に向けて叫んだ。


突然叫び出した向野に驚いた人達は三人を見る。

その三人の内、二人も叫んだ向野に驚いて歩後ずさった。


叫び終えた向野がリリィの肩をガッシリと掴む。そして、ハイテンションになって言う。


「久し振りやん!とりま、案内頼してや!!」


どうして向野のテンションが高くなったのか定かではない。

彼等が探し続けていたリリィに会えたからなのかも知れない。この世界に来て初めての休日だからなのかも知れない。もしくは両方かも知れない。兎も角にも言えるのは、向野はとても嬉しそうだ。

向野の言葉に少し考えたリリィは苦笑いで言う。


「……いいわよ。その代わり何か奢ってよね」


「オッケーだ!」


そんな訳で、向野と上田の観光にリリィも加わった。


リリィと言う名の可愛らしいガイドさん付きで街を見回る彼等。色々な買い物をした。新しく服も買い、バックも買った。


そして、現在。リュック一杯に詰め込まれた荷物を背にリリィのオススメする飲食店にいる。


そこで、雑談をしている。勿論、上田が夜にしている仕事は内緒である。まだ向野に言っていない。


「ーーーって事があってん。まぁ、全部上田の所為やねんけどな」


「なんで俺やねん…」


「そんな事よりさ、なんでリリィはあんなに疲れた顔してたん?」


最近の出来事をある程度話した為、話題を変えてリリィの疲れていた理由を尋ねた。彼等がずっと気にしていた事だ。


「私?私、そんな顔してた?」


「してたよ。ものごっつい疲れた顔してた」


リリィは自覚がなかったようだ。

二人は『どうして?』と顔に出しながら話し出すのを待つ。

紅茶を一口飲み、ほう。と息を吐いて話し始める。


「私ね。あなた達をギルドに届けてから別の”パーティー”に入ってたの」


「パンーーー」


向野が不必要な事を言おうとした為、上田が片手で口を塞いだ。そして、手のひらをペロペロされて急いで離し向野の服でフキフキしている。


「そのパーティーで”迷宮”に潜ったんだけど、余りにも酷すぎたのよ」


「酷すぎたって?」


彼等には良く分からない名称ばかり出て来ているが、上田には何となく分かる為、それは後回しだ。


「弱すぎたのよ。よくあれでCランクパーティーだと言えたものね。強さで言ったらEも良い所よ。その所為で私ばかりが戦う羽目になっちゃったのよ」


「よしっ、そのパンティーとやらを俺がぶっ殺したるわ」


瞳に怒りを宿して立ち上がる向野。


「パーティーな。それと殺さへん程度にしーや」


向野の言葉に訂正を入れてから『殺さなかったら何しても良いよ』と遠回しに言う上田。彼等は友達思いであるが故の言動だ。


「彼等は隣街よ?だから、いいの。もうそのパーティーは抜けたし、入る気もないからね」


「俺を甘くみんなよ。隣街がどこか知らんけど、俺様が行って叩きのめしたる」


「程々にな」


向野は行く気満々だ。今すぐにでも向かおうとしている。いつも止める役割である上田は彼を止めようとせず、容認してしまっている。


「もういいって。私はこの通り大丈夫だし」


「やって。今度そこに寄った時にやれば?」


「ちっ、ほな、そないしたるわ」


舌打ち一つ、ようやく止まった。リリィもホッとした。上田はどちらでも良さそうだ。いつもどうりヘラヘラと笑っている。


「あっ、せやせや。向野、アレ。アレなんやっけ…えーっと…」


そんな時、ふと例の件を思い出した上田。


「アレ、アレやん。えーっと、金!金や。金返さな」


「あ、忘れてたな。って事で、ありがとさん。金返すわ」


アイテムボックスからリリィに返却する為に用意していた金入りの皮袋を取り出し、机の上に置く。二週間の間借りていたので少し多めに入れている。


「別にいいわよ。そこまでお金に困ってないしね」


リリィにお金を返す為に一生懸命に働いたお金だ。だが、リリィは受け取る事を拒んだ。


受け取って貰えず、少し困ってしまう二人。借りた物は返す。当たり前の事だ。それを達成できなかった為に彼等は困った。


「それじゃあ、そのお金はまだ貸しといてあげる。で、いつか私が困っている時に助けてくれたらチャラでいいわよ」


「わかった…」


「あ、成る程ね」


向野はまだ納得してなさそうな返事を返し、上田はリリィの言いたい事を察した。


人の縁は切っても切れぬものだが、人の命は簡単に切り捨てる事が出来る。二人はそんな事をする人間ではないが、リリィは二人の事は余り知らない。その為、少しでも縁を太く持とうと考えての発言だった。


向野は理解していないが、上田はその意味をシッカリと受け止める事が出来た。『もし、何かあれば、この借りは必ず返す』と、心に誓う程に強く。


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