我が道に狂いはない!
リョーガ編です!
王国領土は比較的、草原地帯が多い。
森は、大体が林に近く、大きな森は数が少なく、出現する魔物も弱いものばかり。
それは、『魔王の居る魔国から一番離れているから』と学者は語った。
だが、真相は不明である。
なぜなら、南と西の海に面する土地の魔物は凶暴で強力だからだ。
そして、海に存在する魔物は、出会えば最後と言われる程に強大である。一部には弱い魔物も存在するみたいだが、殆どが手の付けられない魔物ばかり。
だから、海を渡るなんて事は不可能だ。そう言われ続けていた。ーーー彼等が現れるまでは。
ーーー
リョーガ一行は車のガソリンメーターが0を指して、動かなくなってしまったので徒歩での移動に変った。
そして、移動中。
「リョーガ、余り遠くに行ったらダメよ」
「分かってるって!」
本当に分かってるのかしら?と思いたくなるような行動のリョーガに注意を促すリリィ。
リョーガは絶賛、蝶のような羽で浮かぶ豚を追い掛けている。
何も知らない人が見れば、ただ蝶と戯れている可愛らしい子供に見える。だけど、実際には、
「待てゴラァ!高級食材ぃぃぃ!!」
蝶豚は欲を曝け出したリョーガに追われていたのだ。
凶悪な目付きと相まって、それはまるで、殺人鬼のようにも見えなくもない。子豚ちゃんが哀れに見える程だ。
「まさか、こんな所に世界最高珍味のバタフライ・ピッグが居るとはな」
「美味しいんですか?」
「ああ、一度しか食った事はないが、ありゃマジでうめぇ。生も良いが、焼くと肉汁がスゲェんだよ」
「は、はわわぁ。食べてみたいですねぇ…」
蝶豚ーーバタフライ・ピッグを追い掛けるリョーガを眺めているエリオスとユース。
二人はその味を想像し、ヨダレを垂らしている。
「まぁ、リョーガ次第だな。バタフライ・ピッグは攻撃力はねぇが、なにせ素早い。ユース、お前が無理だったんだから、リョーガに頼るしかねぇ」
「だって、無傷で捕まえなきゃいけないんでしょ?」
「当たり前だろ。バタフライ・ピッグの肉は新鮮じゃねぇと味が落ちるんだよ」
「どのぐらいですか?」
「焦げ肉」
「……へ?」
「焦げ肉の味だ。思い出しただけで…オエッ」
「………」
エリオスの反応から見るに、焦げ肉よりも不味い物なのだろう。
ユースはエリオスの例えから想像し、顔を歪ませる。
二人が僅かに視線を逸らした刹那。
「ガアァァァッ!飛ぶなや!鬱陶しい!!」
獣のようなリョーガの叫び声が聴こえた。
慌てて視線をリョーガに向けると、黒い剣を投擲した瞬間だった。
「「あっ…」」
ユースとエリオスは同時に声を上げる。
それもそうだ。捕まえれば美味しい料理を食べれるのに、リョーガは遂に殺しにかかったのだから。
だが、運が良かったのか、それとも狙ってやった事なのか、黒い剣はバタフライ・ピッグの頭上スレスレを通過し、明後日の方向へと飛び去って行った。
バタフライ・ピッグは風圧でよろめいただけで、怪我した様子はなさそうだ。
それを遠目だが確認したエリオスとユースはホッと安堵の息を吐いた。が、安堵などしている暇など彼等にはない。
何処かへと飛んで行った剣が、いつの間にかリョーガの手に握られていたのだ。
そして、左足を踏み出し、エリオスとユースが慌てて止めようと動く前に投擲した。
轟ッと音を立てて飛んで行きーーそして、外れた。
今度はバタフライ・ピッグに擦りもしなかった。
本日二度目の安堵を浮かべるエリオスとユース。だが、リョーガを甘くみてはいけない。
何処かへと飛んで行った筈の黒い剣が、なぜかリョーガの手元にあるのだ。
「ど、どうなってやがんだよ!」
今度こそ止めなければならない。そう思った二人は走り出そうとする。が、その前にリョーガは剣を投擲。
そして、見事に外れた。バタフライ・ピッグの居ない。誰も居ない方向へと飛んで行った。
それはまるで、一投目はまぐれで当たりかけたのでは無いかって程に、投擲技術がなかった。
「コンチクショォォ!!」
剣を手元に出現させて投げるリョーガ。休む事なく、投げる、投げる、投げ続ける。
だが、どれも見事に外れる。
「「「………」」」
剣が手元に何度も現れる事にも驚いたが、まさかここまでコントロール技術がなかったとは思えなかったリリィ、エリオス、ユース。
焦りよりも、驚きの方が大きく、唖然とヤケクソ気味に剣を投げるリョーガを眺める。
そして、ボソリとバカが呟いた。
「ノーコン…」
「誰がノーコンじゃボケェ!!」
耳聡く言葉を聴いたリョーガの怒号が轟くと同時に一本の剣が呟いた本人ーーエリオス目掛け飛来する。
エリオスは向かってくる剣を遠い目で見つめながら『また外れるだろう』と、タカを括っていた。だが、長年のカンが告げたのだ。『避けなきゃヤバい』と。
反射的に退避行動を取ったエリオス。刹那、背後から地面が爆ぜる音が聞こえた。
恐る恐る振り返ると、エリオスが先程まで居た場所には小さなクレーターと一本の黒い剣が深々と突き刺さっていた。
「こ、殺す気かよ…」
黒い剣が薄っすらと影が薄くなるように消えて行く。それを見つめながら呟いた。
そして、視線を上げてみれば、ユースとリリィの哀れむ視線があった。
なんの瞳かと疑問に思いながらリョーガへと視線を転じてみれば、新たな剣が投擲された瞬間だった。ーーエリオスに。
「のわっ!?」
咄嗟に避けるエリオス。
刹那、背後から地面が爆ぜる音が聞こえる。
次々と襲い来る投擲される剣。避け続けるエリオス。
同時進行で、リョーガは先程よりも速度を上げて一匹と一人に向かって殺す気で剣を投擲する。だが、見事に全てを外す。
呑気に飛び回るバタフライ・ピッグへと投げた剣は明後日の方向へ。
身体中をドロドロにして地面を転がり回るエリオスへと投げた剣はギリギリの所で避けられて命中を逃す。
「当たれやぁぁ!!」
遂に両手を使って投げ始めるリョーガ。
エリオスの方ならば一直線に向かう。なのに、バタフライ・ピッグの方へは一向に当たる事がない。
新たなリョーガの不思議が出来た瞬間であった。
それから一時間程経った頃。
呆れ果てたリリィがバタフライ・ピッグの『害意が無ければ逃げない』と言う知られざる特性を利用して捕まえた事により、無事に事態は治った。
エリオスはリョーガに殴られて瀕死状態だが。
そして暫く経ち、夕食時。
バタフライ・ピッグの丸焼きをユースが作り、出来上がるのをヨダレを垂らしながら今か今かと待機しているリョーガ達。ちなみに、リリィは楽しみにしてるみたいだが、さすがにヨダレまでは垂らしていない。
だが、感じている事はリョーガ達と同じなのか、今にもヨダレが垂れそうだ。
まだ垂れていないが、口元を拭って気を紛らわす為に話を振る。
「ねぇリョーガ。今って帝国に向かってるのよね?」
「そうやけど?」
「帝国が何処にあるか知ってるの?」
「あっちやろ?」
そう言って、彼等が向かっている方向ーー西へと指差す。
「あのねリョーガ。今頃言うのも何だけど、そのまま真っ直ぐ進むと行き止まりよ」
「いや、星は丸いねん。真っ直ぐ行ったら、いつか辿り着くって」
リョーガの無茶苦茶理論に頭を抑えるリリィ。
「言い方が悪かったわね。真っ直ぐ行くと海なのよ」
「へぇー、そうなんや〜」
それがどうした?とでも言いたそうな返事をして、コンガリと焼けてきているお肉へと視線を向ける。
「もしかして知らないの?」
「何が?」
「はぁ…世間知らずもここまでくれば凄いわね…」
呆れを通り越して賞賛の域まで達してしまう。
だけど、それで終わってしまってはいけない。話しておかなければ、リョーガは考えなしに海を渡ろうとするだろう。
そう考えたリリィは、どれだけ海が危険かを伝える。
「海は危険が一杯なのよ。一応、船は出てるみたいだけど、魔物に襲われて年に何隻も沈んでるの」
「なにせ、海の魔物は強いからなぁ〜」
なにやら遠い目をしたエリオスが話に加わってきた。
「海の魔物はよぉ、俺達Sランクでさえも歯がたたねぇ。Aランクの時に戦った事があるけどよ、ありゃ人間の敵う敵じゃねぇ」
「そうよ。悪い事は言わないから、海を渡ろうとか変な事は言わないでね。少し北に逸れたら学園があるから、そこを通って行けば着くわよ」
忠告するリリィ。だが、それはリョーガには悪手だ。
「そっか。なら、海渡ろっか」
「「話聞いてた!?」」
リリィとエリオスから素早いツッコミが入った。だが、リョーガの頭の中は『絶対にフリや。これは行くしかない』と呟かれていたりする。
そんなリョーガの心を読めたら便利なのだが、生憎と、そんな特殊能力を持ち合わせていない。
「聴いてた、聴いてた。海は危ないんやろ?」
「そうだ。だからーー」
「行くしかないやろ」
エリオスの言葉を遮ってまで行くと言い放ったリョーガ。表情を見る限り、この世界の海に興味が湧いてワクワクしているようだ。
「「はぁ…」」
これ以上言っても、リョーガは耳を貸さないだろう。そう予測できたリリィとエリオスの口から漏れ出したのは呆れの溜息だ。
そこに、タイミング良く満足気な表情でユースが料理の完成を伝えに来た。
「出来ましたよ〜って、どうしたんですか?」
呼びに来たら、『ダメだこりゃ』とでも言いたそうな表情をしているエリオスとリリィが居て、訳を尋ねた。
それに応えたのはエリオス。
「いや、リョーガが海に行くってーー」
「行きたいです!」
ユースはリョーガに毒されたのかもしれない。エリオスの言葉をぶった切ってまで”海に行きたい”と食い気味に主張した。
「リョーガにも話したけど、海は危険よ。帝国まで陸で繋がってるんだから、わざわざ海の方に行く必要なんて無いわよ」
「でも、海見てみたいです!」
どうやら、リョーガに毒された訳ではなかったようだ。ただ、海を一目見てみたいだけのようだ。
「見るだけなら…」
そう言ってリョーガへと視線を向けるエリオスとリリィ。つられてユースも視線をリョーガに向ける。
「俺の辞書に不可能はない!絶対に海渡ったる!」
「「はぁ…」」
「…?」
リョーガは海を渡る気満々だ。説得も無駄だと感じだエリオスとリリィは再度溜息を吐き、ユースは状況を把握できていないようだ。




